EP52 潮風の別れと、約束の予感
波の音が心地よく響く、アクアマリンの港。
使徒との戦いを終え、血獄の真実を清算した一行は、それぞれの帰路につくため、この港で一時解散することとなった。
船着き場で、四人は最後に顔を合わせる。リリアが少し寂しげな瞳で、一人ずつを見渡した。
「皆様、これからは……どうされるのですか?」
ガザムが重厚な鎧を鳴らし、深く頷く。
「私は一度国へ戻ります。この土地で起きた使徒の痕跡、そして真実を、教会本部に報告せねばなりません。異端の処刑場など、二度と現れぬよう……な」
ジンは背中の荷物を揺らし、ひらりと手を振る。
「俺も国へ帰るかねぇ。あーあ、せっかくの冒険も終わりか。……おまえら、今度俺の国に遊びに来いよ! 旨い酒と飯屋、いくらでも案内してやるからよ!」
賑やかな仲間たちを見送った後、リリアはゆっくりとカイエンに向き直った。その視線は、どこか不安げに揺れている。
「……カイエン様も、どこかへ行かれるのですか……?」
カイエンは海を見つめ、静かに答える。
「ああ。使徒の転移の仕組み……あれをもう少し深く調べねばならん。お前が広める『教え』の行く先を脅かさないためにも、な」
リリアの表情が曇る。寂しさが彼女の肩を小さく震わせた。その様子を見たカイエンは、不器用な動作で彼女の頭に手を置き、ポンポンと軽く叩いた。
「そんな顔をするな。お前なら大丈夫だ。……また会えるさ」
その言葉に、リリアはハッと顔を上げ、先ほどまでの不安が嘘のように目を輝かせた。
「……そうですね。カイエン様がそう仰るなら、間違いありませんわね」
彼女は小さく微笑むと、カイエンの背広の襟をぎゅっと掴み、勢いよく引き寄せた。唇に柔らかい感触が触れたのは、一瞬のことだった。
「――行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
リリアは悪戯っぽく笑い、背を向けて教団の再興へ向けて歩き出した。
残されたカイエンは呆然とし、顔を真っ赤にして固まっている。
「お、おい……今の……!」
「ひゅーひゅー! こりゃあ一本取られたな、カイエン!」
ジンがニヤニヤと茶化しながら肩を叩く。ガザムもまた、豪快にカイエンの背中をバシバシと叩き、あははと笑った。
「これは前途多難、いや、前途有望でございますな! カイエン殿、顔が真っ赤ですよ!」
「お前ら、いい加減にしろ!」
カイエンは怒鳴りながらも、どこか嬉しそうな、そして少しだけ照れくさそうな表情で、去っていく仲間たちの背中を見送った。
別れは寂しい。だが、それは終わりではない。
リリアの教えが広まり、カイエンが使徒の謎を解き明かしたとき、彼らは再び――今度はもっと深い絆で結ばれて再会するだろう。
潮風が四人の背中を押し、それぞれの未来へと運び出していく。
平和への船出は、こうして静かに、しかし力強く始まった。
(アクアマリン編 終幕)
深い緑に覆われたエルフの聖地、その入り口に位置する某国エルフ大使館。
張り詰めた空気が漂う執務室で、窓から差し込む陽光を受けながら、一人のエルフが静かに佇んでいた。
大使アイフェリス。
エルフ女王の「懐刀」と称される彼女は、すらりとした長身と、陶器のように滑らかな肌を持つスレンダーな美人だった。隙のない立ち居振る舞いと、仕立ての良い特注のローブを纏ったその姿は、まるで高級ブランドの広告から抜け出してきたかのような洗練された美しさを放っている。
しかし、その美しい瞳には、深い憂鬱が刻まれていた。
「……まさか、これほどまでに早く……」
彼女は震える指先で、女王から届いた極秘の封書を握りしめる。
眼前の地図には、国境沿いの村々が病の蔓延を示す赤色で塗りつぶされていた。アイフェリスの側近である若き騎士が、青ざめた顔で進言する。
「大使……やはり、噂は事実なのですか」
「ええ。……『静寂の森』の奥、我らが聖域にまで謎の感染症が侵食している。発熱、全身の変色、そして枯れ木のように干からびていく死……。自然と共生する我らにとって、これほど不自然な病はありえない」
アイフェリスは窓の外、人間たちが暮らす街並みを、冷徹な視線で見下ろした。
「何より恐ろしいのは、民の間に広がっている噂よ。『この病を森に持ち込んだのは人間だ』という噂が、聖域の長老たちをも動揺させている。人間と築いてきたこの薄氷の友好も、もはや崩壊寸前……」
アイフェリスは深いため息をつき、女王への直訴状を手に取った。ブランドのローブが微かな音を立てる。
「嘘か真かなど、今の我らには関係ない。民が真実だと信じれば、それはすでに事実。一刻の猶予もないわ」
彼女は執務机の引き出しから、一枚の手配書を取り出した。そこには、ディーヴァを討ち果たし、教団の闇を葬り去った男の姿――カイエンが描かれている。
「あの男……カイエン。使徒の転移を追っているという噂は本当のようです。彼ならば、この不可解な病の裏にある『人為的な悪意』をも見抜けるはず」
アイフェリスは秘書に鋭く、かつ優雅な所作で指示を飛ばした。
「カイエンを確保なさい。……手段は問わない。彼を、我らがエルフの聖地へ招くのです。たとえそれが、彼にとって望まぬ戦いの始まりであったとしても」
女王の懐刀として、彼女は冷徹な決意を固める。
「エルフ王国に危機が迫っています。カイエン、あなたがこの呪いを解く鍵となるか、あるいは我らが森を焼く火種となるか……確かめさせてもらいましょう」
静かなる大使館から、運命の歯車が大きく動き出した。
アクアマリン編終了です!
これ以上のものは書けないと言うやり感があったんですけど、次のプロット考えてたら筆が乗ってきたのでまだまだ、続きます…!
リリアいいですよねお気に入りです!
ガザム、ジンはまた出演機会があります(結構先で)のでお楽しみに、当作品はカイエン以外のパーティメンバーが基本的に入れ替わります。
メンバーとのお別れは退職です。たまに復職します。以降退職と呼んでください!
次回戦争編お楽しみにしてくださいまし!
本日もありがとうございます!
ブックマーク、コメント、評価いただけるととても嬉しいです!また明日!ほなー!




