EP50 血塗られた石盤と亡霊の群れ
真っ暗な地底へと叩き落とされたカイエンとリリアの視界に、生臭い血の匂いと共に広がるのは、無数の墓碑が突き刺さった腐肉の迷宮――「血の処刑場」だった。
そこは、教団の光の歴史を支えるために、異端や反逆者、さらには教団にとって都合の悪い証人たちを捕らえ、その魂と肉体を分解・再構築して「力の糧」へと変えるための、絶対禁忌の場所であった。
「チッ……!」
カイエンは着地と同時に剣を振るい、迫りくる亡霊の一体を両断する。だが、倒したはずの亡霊は黒い泥となって霧散するだけで、即座にまた形を取り戻す。
「使徒の気配が……感じられん。だが、なんだこの異様な力は!? 何より……この、肌を刺すような粘りつく執念は一体何だ!」
リリアは恐怖に震えながらも、カイエンの背後でハープを抱きしめた。彼女の指先が震え、旋律が乱れる。
「カイエン様……私、どうすれば……!」
「迷うな、リリア! 今の心音を音に変えろ!」
カイエンの喝に、リリアは涙を拭い、ハープの弦を強く弾いた。黄金の音波がカイエンを包み込み、全身の神経を研ぎ澄ませる。
「……ッ、力が滾る。いくぞ!」
亡霊たちが裂けた口から血を吐き、呪詛を撒き散らす。
「この恨み……晴らさずにおくべきか……!」
彼らはディーヴァの支配を脱したのではない。この場を支配する老人の禁術により、使徒への復讐心すらも「憎悪の傀儡」として強制的に再起動させられているのだ。
二人は処刑場の中枢へと踏み込んだ。そこでリリアが見たのは、血で汚れた石盤と、拷問器具が散乱する惨状だった。その中心に、深紅の法衣を纏った老人・ヴォルクハルトが立っていた。
「……そうだ。認めることだ、娘よ」
ヴォルクハルトはひび割れた唇を歪ませ、怨念に満ちた目で二人を射抜く。
「あの『真珠の歌姫』が教団を壊滅させた日、私は部下と共に命からがらこの処刑場へ逃げ込んだ。だが、私はただ逃げたわけではない。この場所にある禁断の術式を用い、ディーヴァに食われた者たちの残滓を継ぎ接ぎして、奴を殺すための『力』を練り上げていたのだ! 復讐の機会さえあれば、あの歌姫など私の手で……!」
ヴォルクハルトの咆哮が地底を揺らす。
「それなのに……お前らが、私の獲物を……我が一生をかけた復讐の対象を殺したというのか!?」
激昂する老人の杖が、石盤を激しく叩く。
「お前らがディーヴァを殺したのか!? ならば代わりだ。お前らを殺して、その魂で我が復讐心を埋めてやる。さあ、我が魂の慰めとなり、永遠に地獄で償うがいい! ……そうだ。お前の父と兄である私がここを創設した、全ては教団のため……それなのにお前の祖父(大司教)は、理想に燃える私をこの地獄へと追放したのだ!」
リリアは絶句し、膝をつく。彼女の信じていた「光」の教えは、最初からこのおぞましい「血の処刑場」を維持するための隠れ蓑だったのか。
カイエンは魔剣を固く握りしめ、冷徹な瞳で老人を見据えた。
「……整理すべき過去、か。ずいぶんと陰湿な因縁を持ち出してきたものだな。だが、リリアの教えは貴様の復讐の道具ではない」
二人の死闘の幕が、再び上がろうとしていた。
深き地底の禁忌、『血の処刑場』での直接対決がついに幕を開けました!
ディーヴァに引けを取らない狂気と執念を纏う大司教ヴォルクハルトの正体は、教団の光の裏側を支え、自らをも犠牲にして復讐を誓ったリリアの「大叔父」でした。彼女が信じていた教えの根底にあるおぞましい真実が突きつけられる中、リリアとカイエンはこの絶望的な状況をどう切り抜けるのでしょうか?
怒りと怨念に支配された老人との激闘の行方、そしてハープに宿る祈りはこの死地でどのような奇跡を生むのか……!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけましたら、
☆☆☆☆☆評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります!
皆さまの応援が、執筆を続ける大きな力になります。
また次話でお会いしましょう!




