EP43 鉄の聖座の伝承
静寂の戻った汚泥の庭。リリアが青白い顔でガザムに寄り添い、溢れる光で傷を癒していく。光が消える頃、ガザムはゆっくりと身体を起こし、重い鎧の音を鳴らして立ち上がった。
「……感謝します、リリア様。危うく胃液の中で永久の眠りに就くところでした」
彼は泥を払いながら、隣で呆然と立ち尽くしていたジンに目を向け、小さく笑った。
「ジン、そんな顔をするな。私はそう簡単に死にはしませんよ。……少しばかり、拳が疼くだけです」
その言葉にジンは苦笑し、「バカ野郎、心臓が止まるかと思ったぜ」と力なく笑った。戦いの極限から解放された束の間の安らぎ。しかし、カイエンはその様子を鋭い視線で見つめ、ガザムの前に歩み出た。
「ガザム。さっきの力は一体なんだ。……神官が、盾を捨てて素手で触手を粉砕するなど、教義に反するだろう」
ガザムは深く息を吐き、静かに語り始めた。
「……私の所属する『鉄の聖座』には、ある伝説があります。開祖である聖職者、ガブリエル様の物語です」
ガザムは自身の拳を握りしめ、かつて教団の奥義書で読んだ一節を口にする。
「伝説では、ガブリエル様は祈りだけではなく、自らの肉体に天使を宿し、戦う道を選んだとされています。私が今回降ろせたのは中級天使に過ぎません。しかし、ガブリエル様は最上級天使を自らの肉体に定着させ、大悪魔『ヴォルガスト』を別次元へと封印したと言われています」
(……ヴォルガスト)
カイエンは内心でその名を反芻した。
(ディーヴァと名乗る使徒の力。そして古代の悪魔との関わり……単なる伝承か、それともこの世界のバグが隠し持つ根源的な因果か)
カイエンの思考を遮るように、神殿の深層から、空気が凍りつくような冷たい音が響き渡った。それは、鈴を転がすような美しさと、死の淵を思わせる不気味さを併せ持つ、女性の歌声だった。
「あらあら……せっかく力を分けてあげたのに。随分と壊しちゃったのね」
空間が歪み、闇の中から妖艶な影が浮かび上がる。歌声は神殿の壁を伝い、どこからともなく響いてくる。
「まあいいわ。新しい生贄をいただいて、また作り直せばいいもの……。あはははは!」
笑い声は、歪な幸福感に満ちていた。カイエンたちは即座に武器を構えるが、そこにはすでに誰もいない。ただ、残された粘液が、まるで新たな命を求めるように脈動を始めていた。
まだまだ、一挙放送!
次回は初使徒邂逅です!
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