EP40 テラガラパゴスの深層で
湿った粘膜の壁が脈動するたび、周囲の空気が重く淀む。足元を覆う粘液は、踏みしめるたびに「ジュッ」と不快な音を立てて泡を噴き出した。
カイエンが魔剣の切っ先を地面のくぼみに向けると、そこには信じがたい光景があった。
「……これは」
粘液の壁に半ば取り込まれ、骨の髄まで消化酵素に晒されている死体。その指には、特徴的な意匠を凝らしたボーガンが握りしめられていた。胸部を突き破るようにして、赤黒い斑模様の『凶暴クマノミ』が数匹、ぬるりとした粘液と共に這い出そうとしている。
「――ッ!? ガレ……!? お前、なんでこんなところに……!?」
ジンの悲鳴に近い怒号が、神殿の深層に響き渡った。 彼は駆け寄り、地面に膝をつく。かつて自分と背中を合わせ、肩を並べて戦った相棒の、変わり果てた姿。
「ひどい……」
リリアは口元を覆い、その場に立ち尽くした。聖女としての教育を受けた彼女にとっても、人の尊厳をこれほどまでに冒涜する光景は、直視しがたい惨劇だった。
「……なんてことを。魂の器を、ただの糧にするなど……断じて許されん」
ガザムが低く、しかし燃えるような声で呟く。彼の大盾が、怒りに呼応するように微かな光を放ち始めた。
かつての仲間の胸から這い出すクマノミを見た瞬間、ジンの顔から血の気が失せ、代わりにどす黒い殺意が浮かび上がった。
「テメェ……ッ! 俺の仲間に何をしやがった……ッ!!」
ジンは震える手で自身のボーガンを引き抜き、引き金を引くことさえ忘れて、その場に立ちすくむ。
「……ジン、下がるんだ」
カイエンが冷静に魔剣を構える。彼の視線の先で、壁が意思を持つように脈動し始めた。 消化管の庭は、新たな獲物の「怒り」を栄養として吸い上げるかのように、至る所から無数の牙を剥き出しにする。
「――来るぞ。奴は俺たちを『養分』としか見ていない」
カイエンの警告と同時に、壁の隙間から無数のクマノミが弾丸のように飛び出した。ジンは獣のような咆哮と共に、引き金を引いた。
「死ねッ!! ぶち殺してやる!!!」
肉を溶かす悪夢の庭で、仲間への復讐を誓う「整理」の幕が上がる。
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