EP3灰の行進
『灰の庭』の殺戮が終わり、静寂が戻った。
舞い落ちる灰は、まるで世界が最期に纏う死装束のようだ。カイエンはその中を、背筋を伸ばして淡々と歩いている。
その後ろを、ユウナが半歩遅れてついてくる。
小柄な体躯に、少しばかりサイズの大きい帝国軍の制服。肩で揺れる茶色のボブカットは灰を被って色を失っていたが、その瞳にはまだ帝国の軍人としての火が残っていた。慎ましい胸元に下げられた認識票が、彼女の存在をかろうじて証明している。
「……あの、カイエンさん」
ユウナが沈黙を破る。その声は、戦闘中とは違ってわずかに震えていた。
「どうして助けたの? あんたは元帝国所属でしょ?私がただの『捨て駒』だって分かってたはずでしょう? この塔を封鎖するための、使い捨ての防壁だってことくらい……」
カイエンは歩みを止めない。灰を踏み締める乾いた音だけが、回廊に響く。
「分かっていた」
簡潔な答えに、ユウナが言葉を詰まらせる。
「では、なぜ……」
「リソースの無駄だからだ」
カイエンは振り返りもせず、冷徹に言い放った。
「その『命令』とやらに従って全滅していれば、この塔のシステムに余計な負荷がかかっていた。お前が生きていれば、システムを一時的に攪乱する『変数』として機能する。……俺の管理下において、部下の生存率は高い方がいい」
「――ッ! なによそれ、結局は計算通りってこと!?」
ユウナは怒りに拳を震わせ、カイエンの背中に詰め寄った。
だが、カイエンは立ち止まり、背中越しに彼女を冷ややかに見下ろす。
「ユウナ少尉。状況を整理しよう」
その言葉の響きに、ユウナは気圧されるようにたじろいだ。
「お前のその『忠誠』は、腐った上層部に利用されているだけの欠陥プログラムだ。自分の命を、誰のために使うかくらい自分で決めろ」
「そんなこと……命令に背けって言うの? それは騎士じゃない……!」
「いいや。自分の頭で考え、生存するルートを選択する。それが、この死にゆく世界で騎士として生き残るための『最適解』だ」
ユウナは唇を噛みしめ、悔しげに睨み返した。だが、カイエンのあまりに論理的な態度を前に、彼女は大きく深呼吸をしてから、真っ直ぐに前を見据えた。
「……少尉、じゃないわ。ユウナ。私の名前よ」
彼女は誇り高く、だがどこか挑戦的にカイエンを見上げた。
「私の命の使い道くらい、自分で決めるわ。あんたの言う『最適解』、証明してやる。……連れて行って、カイエン。この塔のゴミ掃除が終わるまで、私はあんたの『変数』としてついていくわ」
カイエンは微かに口角を上げ、灰の向こう側――塔の闇を見据えた。
「……ああ、頼むぞ、ユウナ」
二人の「解体」の旅が、本格的に幕を開ける。
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