EP37 聖典の裂け目2
『断罪の守護者』の胸部に嵌め込まれた鏡が、一行の内面を映し出し、闇の影を射出する。
カイエンがその影を魔剣で斬り伏せようとするが、鏡は光を屈折させ、カイエンの攻撃を次々と無効化していく。
「チッ、近接攻撃じゃ鏡の防壁を突破できないか。……ジル!」
「分かってるって!」
ジルは遺跡の壁を蹴り、戦場の中心で宙を舞った。
彼の手に握られたボウガンが、神業のような精度で空を切る。
「まずは、鏡の『目』を塞がせてもらうぜ!」
――『氷の爆裂弾』
ジルが放った氷の弾丸は、鏡の縁を正確に捉え、着弾と同時に周囲を凍りつかせた。鏡面に霜が広がり、屈折していた光の軌道が歪む。これで「反射」のタイミングが数秒間だけ遅れる。
「ガザム、今だ! 鏡の反射角を計算しろ!」
「了解しました――射線、確保!」
ガザムが盾を鏡の真正面に叩きつけ、ジルはその盾の僅かな隙間に、さらなる弾丸を叩き込む。
――『炎の爆裂弾』
「凍らせてから、熱で一気に膨張させる……物理的にヒビを入れるのが俺の流儀だ!」
ボウガンのトリガーを引くと、氷の冷気の中に炎が炸裂した。
激しい温度差により、聖典の板で構成された鏡面が「パキィッ」という高音を立てて亀裂を走らせる。
「そんな……! 聖典の強度が、たかだか個人の弓矢ごときで……!」
リリアが驚愕の声を上げる中、ジルは着地する間も惜しんで次々と矢を放つ。そのすべてが鏡の亀裂へ吸い込まれ、内部の構造を焼き尽くしていく。
「あいにくだが、俺のエイムは『外さない』ことが美学でね。……カイエン、鏡はもうボロボロだ! 後は頼んだぞ!」
鏡面から火花が散り、強固だった防御が完全に崩壊した。
露わになったのは、核となる教団の紋章が刻まれた心臓部。
「よくやった、ジル。……ゴミ掃除の続きだ」
カイエンは凍結と爆熱で脆くなった鏡を、魔剣の穂先で軽く突き刺した。
聖典が弾け飛び、兵器が断末魔のような軋みを上げて崩れ落ちる。
兵器の崩壊と共に、遺跡の天井から聖典の紙片が雪のように舞い散った。
その一枚が、リリアの足元にひらりと落ちる。彼女が拾い上げたそれは、かつて自分が朗読した「慈愛」の頁だったが、その文字は生贄の血でドロドロに塗り潰されていた。
「……そんな」
リリアは指を震わせ、言葉を失う。
その横で、カイエンは魔剣の血を振り払い、無造作に彼女の肩に触れた。決して優しくはないが、冷たい現実の中で唯一の「体温」を感じさせる接触だった。
「これが、お前たちが信じていた教義の『正体』だ。受け入れろ、リリア。受け入れた上で、どうするかを決めるのが、生きるということだ」
カイエンの言葉に、リリアは涙を拭い、小さく力強く頷く。
「……はい。私、もう目を逸らしません。……あの方たちを、これ以上道具にはさせない」
ジルはボウガンを肩に担ぎ、鼻を鳴らした。
「やっと覚悟が決まったみたいだな、お嬢ちゃん」
「……その通りだ。迷える羊が、ついに羊飼いの手から離れたわけですね」
ガザムが重厚に頷き、一行は再び前を見据える。
遺跡の奥からは、まだ不気味な気配が漂っている。それはこの階層の終わりではなく、教団と使徒が隠蔽し続けてきた、真の悪夢への入り口であった。
「さて、第一階層を越え、遺跡の深層へ向かう。……次も死にたくなければ、俺の背中から離れるなよ」
カイエンは冷徹に言い放ち、誰よりも早く闇の中へと歩を進めた。
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