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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
アクアマリン編

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EP35 つかの間の休息と、不器用な波紋

遺跡の血塗られた床から離れ、一行はわずかな高台で足を止めた。

遺跡特有の澱んだ空気は薄れ、戦いの緊張から解き放たれた静寂が戻ってくる。

ジルがボウガンの手入れをしながら、ニヤニヤとカイエンの背中を突いた。

「おい、見たかよ。さっきの『見るな、俺の背中を見ていろ』だぜ? いやー、カイエン様は冷徹な監視員かと思いきや、案外『お優しい』んだな」

「……黙れ。あれは視界を遮って攻撃を回避させるための、最も効率的な手段だっただけだ」

カイエンは腕についた返り血を無造作に拭いながら、素っ気なく言い放つ。だが、ジルは面白がって追撃の手を緩めない。

「へいへい、効率ねぇ。ガザム、どう思う? 今のカイエン様」

ガザムは背負った大盾を地面に突き刺すと、神妙な顔つきで頷いた。

「その通りだ。迷える者を導き、恐怖から遠ざける――。あれは立派な慈愛の形と言えるでしょう」

「お前ら……」

カイエンが呆れたように溜息をつくと、リリアが少し上気した顔で歩み寄ってきた。さっきまでの泣きべそが嘘のように、彼女の瞳には強い決意と、それ以上に隠しきれない熱い想いが宿っている。

「……あの、カイエン様」

リリアは少し躊躇いながらも、真っ直ぐにカイエンの目を見つめた。

「……先ほどは、助けてくださってありがとうございます。あんな風に、私を……守ってくれる人は、初めてでした」

周囲の空気が少しだけ甘く変化する。リリアは一歩詰め寄り、わざとらしく首を傾げて微笑んだ。

「その……カイエン様は、もしかして……年下はお嫌いですか?」

その直球の質問に、遺跡の静寂が吹き飛んだ。

「うおっ!?」

ジルが手入れしていたボウガンを取り落とし、ガザムは「おお……」と目を丸くして天を仰ぐ。

「おいおいおい! こりゃ一本取られたな!」

ジルが囃し立てるように手を叩く。

「監視員様、どうすんだよ! 任務遂行中とはいえ、このデカい釣り針を無視できんのか?」

「ああ、これは……またとない、非常に興味深い展開ですね……」

ガザムまでがどこか嬉しそうに頷く。

二人からの容赦のない冷やかしと、リリアの真っ直ぐな視線。カイエンは珍しく眉を寄せ、魔剣の柄を握る手にわずかな力が入った。

「……今は、そんなことを話している場合ではない。目的を忘れるな」

「えー、硬いなぁ! まぁいいや、次からカイエン様のことを『お兄ちゃん』って呼んだらどうだ?」

「やめろ、殺すぞ」

カイエンの殺気混じりの呟きに、ジルたちは笑い声を上げる。

リリアは、そんな不器用なカイエンの反応が愛おしくてたまらないというように、悪戯っぽく笑みを深めた。

カイエンは顔を背け、足早に闇の奥へと足を踏み出す。

その歩調は、先ほどよりも少しだけ――本当にわずかだが――リズムが崩れていた。

お読みいただきありがとうございます。

死闘の直後にぶっこまれる、こういうちょっと甘酸っぱい空気と周囲の茶化し――。

実は、こういう回を読ませるのが本当に好きなんですよね。

次回の更新は、再びシリアスな深層の探索へと戻ります。

引き続きよろしくお願いいたします!


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