EP30 歪んだ再会
一行は神殿の最深部、かつての『聖域の泉』へと続く大扉を押し開いた。
そこには、神聖な場所であるはずが、まるで巨大な胃袋の中のような光景が広がっていた。壁一面に張り巡らされた触手が脈動し、ドクン、ドクンという「胎動」が、建物の構造そのものを揺らしている。
広間の中央、血の池のような泉の縁に、一人の少女が座り込んでいた。
その姿を見て、リリアの表情が劇的に変わる。
「……ソフィアなの!? 生きていたのね!」
リリアが迷わず駆け寄った。ソフィアと呼ばれた女教徒は、青白い顔でうつむいている。
リリアがその肩を抱きしめた瞬間、カイエンが鋭い声で叫んだ。
「リリア、離れろ!!」
カイエンの直感が警鐘を鳴らす。次の瞬間、抱きしめられたはずのソフィアが、狂気に満ちた笑みを浮かべて顔を上げた。彼女の肌は、既に真珠色の結晶に侵食され、瞳からは黒い涙が流れている。
「……教団の憎しみを思い知れ……! 全ては、神のため……!」
ソフィアの細い指がリリアの首筋へと伸びる。リリアが悲鳴を上げる間もなく、ガザムが間一髪で間に割り込み、ソフィアを盾の側面で弾き飛ばした。
「聖なる盾よ、浄化の光を! ――《ホーリー・パージ》!」
ガザムが盾に聖光を纏わせ、ソフィアの身体に直接押し当てる。神聖な力が彼女の肌に触れた途端、ソフィアは凄まじい絶叫を上げた。それは人間のものではなく、焼かれる肉の不快な音を伴っていた。
「ソフィア! 戻ってきて! ソフィア、目を覚まして! ……覚えてないの? 二人で海辺で将来のことを語ったじゃない! 『いつかこの島を出て、もっと広い世界で歌を歌おう』って……あの約束は嘘なの!?」
リリアの絶叫が広間に響く。
しかし、ソフィアの表情は歪むばかりだ。彼女は痙攣しながら、ガザムの聖光を浴びて皮膚を焦がしながらも、高らかに叫ぶ。
「……ああ、聞こえる……ディーバ様の、甘美な歌声が……! 過去なんて、ただの塵よ!」
ソフィアの身体が異様に膨張し始める。
「ディーバさま、バンザーイ!!」
彼女は自らの首元に、隠し持っていた儀式用の短剣を躊躇なく突き立てた。
次の瞬間――ソフィアの身体が、まるで完熟した果実のように弾け飛んだ。
「――っ、伏せろ!!」
カイエンが盾を構えるガザムの背後にリリアを押し倒し、ジルが身を丸める。
爆風と共に真珠色の粘液が飛散し、神殿の床が焼けただれる。爆発の中心から現れたのは、少女の面影を一切残さない、幾つもの四肢がねじれ合って構成された醜悪な異形――使徒の眷属だった。
リリアは床に倒れ込み、ソフィアが消えた跡を呆然と見つめながら、嗚咽を漏らした。
「そんな……嘘、嘘よ……」
その姿を見下ろすカイエンの瞳には、一切の慈悲はなかった。彼は魔剣を逆手に持ち替え、静かに、しかし冷酷なまでの怒りを込めて吐き捨てる。
「……不愉快だな。人を傀儡にして、最後に爆薬代わりに使い潰すか。……使徒という害虫は、趣味が悪い」
カイエンは剣先を異形へと向けた。
神殿の奥から聞こえる「胎動」が、獲物を狙うように一層大きく脈動し始めた。
お読みいただきありがとうございます! 作者のシャロンです。
いかがでしたでしょうか? ついに『聖域の泉』の最深部へと辿り着いた一行ですが、待ち受けていたのはあまりにも残酷な真実でした。
かつての仲間であるソフィアの悲惨な末路、そして「ディーバ」と呼ばれる存在の影――。神聖なはずの神殿が、まるですべてを飲み込む胃袋のように変貌してしまっているこの空間で、彼らはこの絶望的な状況をどう切り抜けていくのか。次回、異形の眷属との激闘が幕を開けます!
「リリアが不憫すぎる……」「カイエンさんの容赦なさが好き」「ガザムのいぶし銀の守りが頼りになる」などなど、感想やブックマーク、評価をいただけると執筆のモチベーションが爆上がりしますので、ぜひよろしくお願いします!
それではまた、次回の更新でお会いしましょう!




