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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
アクアマリン編

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EP26 停泊の鎖

アクアマリンの港は、いつもの活気を失っていた。

船の積み下ろしを行う港湾労働者たちは、作業の手を止め、霧の向こうにあるはずの『テラ・ガラパゴス』の方向を気味悪そうに見ていた。別に彼らが洗脳されているわけではない。ただ、ここ数ヶ月、あの島から帰ってきた船はないし、異様な歌声が海を伝わって聞こえてくるのだ。

「……あの島に行くつもりか?」

係留場所で船の準備をしていた老船長が、忌々しそうに吐き捨てた。

「命が惜しくないのか。あそこは今、『忌み地』だ。先月、様子を見に行った勇気のある連中も、誰一人として戻ってこなかった。島から漏れてくる歌を聴くと、夜も眠れず、頭が腐りちまうらしい」

街の漁師たちは、カイエンたちが「テラ・ガラパゴスへ行く」と言っただけで、まるで死神が来たかのような顔をして後ずさりした。彼らにとっては使徒が何かなど知ったことではない。「近づけば災いが起きる」、ただその本能的な恐怖だけで、誰も島への船を貸そうとはしなかった。

「……金は積む。船さえ出せばいい」

カイエンが冷徹にコイン袋を放り投げるが、老船長はそれを手も触れずに追い返した。

「金で命が買えるか! あの島は、海を渡る亀の呪いだよ。近づく船は、すべてあの『歌』に吸い寄せられるんだ。……どうしても行くなら、勝手にしろ。だが、この街の誰もあんたらの船には乗らねえし、助けにも行かねえよ」

街の人々にとって、この島は「関わってはならない禁忌」となっている。

街に漂うのは使徒の支配ではなく、単純な、しかし強固な「恐怖と忌避」。それは使徒の影響力よりもむしろ、島が異界化していることを雄弁に語っていた。

「……厄介だな。誰にも助けられない、孤立無援の戦いか」

ガザムが溜息をつき、巨大な盾を背負い直す。

「どうする、カイエン? 船を貸してくれる奴は誰もいない。盗むか?」

カイエンは返事をせず、放置されたオンボロの密輸船を一瞥した。そして、その船の甲板でニヤニヤしながら待ち構えていた男――ジルに視線を向ける。

「……おい、あんた。俺たちの船、操縦できるか?」

ジルは船の帆を荒っぽく広げながら、肩をすくめた。

「俺様は元・テラ・ガラパゴスの商売人だぜぇ?この辺の海図は頭に入ってるし、このボロ船なら操れる。……ただし、船が壊れても、あの島で死んでも、責任とらねぇぜ」

「上等だ。……ガザム、リリア、乗れ」

船が岸壁を離れる。

街の人々は、カイエンたちの船が消えるのを、冷ややかな、そしてどこか哀れむような目で見送った。彼らにとって、あの船は「海に消えに行く棺桶」に他ならない。

岸壁から遠ざかるにつれ、霧が濃くなる。

やがて、霧のカーテンの向こうに『テラ・ガラパゴス』の巨大な影が姿を現した。島全体から響く、人の声とも楽器の音ともつかない悍ましくも美しい歌声が、耳ではなく脳に直接突き刺さる。

リリアが思わず耳を塞いでうずくまる。

カイエンは霧を見据え、氷のような殺意を瞳に宿した。

「……聞こえるか。これが、街の奴らが怯えていた『歌』だ。……あれが今回の標的、使徒の鳴き声だ」

朗読ありがとあございます。

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