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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
アクアマリン編

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EP25 真珠の牢獄

居酒屋の奥まった個室。

ガザムが外からの視線を遮るように大盾を立てかけ、カイエンは冷めた串焼きを突つきながら、リリアの言葉に耳を傾けていた。

「……私の父、教団長は、遺跡の奥底にある泉に現れた『聖なる輝き』に触れた瞬間、変わってしまいました」

リリアは震える手で、懐から古びた教団の徽章を取り出した。それはかつて清らかな銀色だったはずだが、今は毒々しい真珠の輝きを帯びて変色している。

「……神の導きだと信じていたんです。でも、あの中にいるのは神じゃない。何か別の……底なしの空腹を抱えた、冷酷な『歌声』なんです」

「神、か……」

カイエンは鼻で笑い、リリアを冷たく見据えた。

「リリア。あんたはそれを『神の迷い』だと思っているようだが、違う。あれは『使徒』だ。この世界の理の外から来た、喰らい尽くすだけの異物だ」

「……使徒? ……異物……?」

リリアが困惑に目を見開く。彼女にとって、教団の崩壊は「聖域の穢れ」という宗教的な悲劇だった。だが、カイエンの断定的な言葉は、その神聖さを容赦なく解体していく。

「あんたの父も、島も、全部ただの餌だ。神の慈悲なんてものはどこにもない。……あるのは、削除すべきバグだけだ」

その言葉の冷酷さに、リリアが息を呑む。

隣で聞いていたガザムが、眉をひそめて割って入った。

「カイエン、言い方に配慮を! 彼女は今、信仰の崩壊と父の喪失で傷ついているのだ!」

「俺は事実を言ったまでだ。感傷に浸る暇があるなら、どうやってその『バグ』を叩き斬るか考えろ」

険悪な空気が流れたその時だった。

背後から、不意に軽薄な笑い声が聞こえてきた。

「バグねえ……。随分と物騒な表現をするもんだ」

振り返ると、店の隅で一人、安酒を煽っていた男が、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。ボウガンをテーブルに放り出し、気だるげに煙草をふかす銀髪の男――ジルだ。

彼はふらりと立ち上がると、カイエンたちのテーブルに勝手に腰を下ろした。

「あんたたち、『テラ・ガラパゴス』に行こうとしてるんだろ? あの歌が響く亀の背中に」

「……耳が早いな。どうやって知った?」

カイエンが鋭く問うと、ジルは肩をすくめた。

「あんたたちがリリアちゃんを連れ込んだ時から、街のあちこちでヒソヒソ噂が流れてるのさ。『教団の生き残りが、首を突っ込みたがる馬鹿を連れてきた』ってね。……俺はジル。見ての通り、あの島で全財産と仲間を失った元掃除人だ」

ジルはボウガンを指でなぞりながら、眼光を鋭くした。

「あんたが言った『使徒』ってのが何なのかは知らない。だが、俺の仲間を無様に食い殺したあの『真珠の化け物』を、ここから撃ち抜けるなら……俺のボウガンを貸してやってもいい。もちろん、あんたのその剣より、俺様の方が先に心臓を射抜くけどね」

ジルが突き出してきた手を、カイエンは無表情で見つめる。

冷徹な剣、信仰に縋る盾、そして復讐の矢。

奇妙な、だが殺意を共有する四人のパーティーが、水の都アクアマリンの裏通りで強引に結成された。

朗読ありがとあございます。

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