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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
アクアマリン編

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EP24 水底からの告発

居酒屋に、冷え切った空気が流れ込んだ。

店の扉が勢いよく開き、一人の少女が崩れ落ちるように店内に転がり込んだ。

彼女の髪は透き通るようなブルーのロングヘアだが、今は潮と泥にまみれ、所々が千切れている。身にまとっているのは、教団の儀式用と思われる白銀の聖衣だが、その裾は血と返り血でどす黒く染まっていた。

「……助、けて……」

店内が静まり返る。常連の客たちが、ひそひそとささやき始めた。

「おい、あれって『静寂のサイレントシェル』の……」

「あそこの連中は、最近亀の甲羅に引きこもって変な歌ばかり歌ってるはずじゃ……」

「触れちゃいけねえ。あそこは今、呪われてるって噂だぜ……」

客たちの視線には、好奇心よりも強い拒絶と恐怖が混じっていた。誰もが彼女の惨状から目を背け、再びジョッキをあおることで現実を忘れようとしている。

ガザムが立ち上がろうとするのを、カイエンが手で制した。

彼は無表情のまま少女に歩み寄り、冷たい水差しを突き出す。少女は震える手でそれを受け取り、喉を潤した。

「……あんた、どこの教団の人間だ? 随分と無様な姿だな」

カイエンの言葉は辛辣だったが、少女——リリアは、その瞳の奥に宿る「揺るぎない現実」を見て、力なく微笑んだ。

「……『静寂の殻』教団、首領の娘……リリアです。……お願い、聞いて。私たちの聖域は……もう、神のものではありません」

リリアの語る惨状は、常軌を逸していた。

数ヶ月前、遺跡に漂着した「歌姫」の化け物。その甘美な歌声が信者たちを支配し、亀の島全体を「真珠の牢獄」へと変貌させてしまったこと。そして、従わない者は肉体をイソギンチャクのような触手に絡め取られ、ただの「養分」として生かされていること。

「信者たちは、笑いながら……自分たちの骨を砕いて、彼女の糧になることを望むんです。……あんなの、救いじゃない。ただの……魂の捕食よ」

リリアは嗚咽を漏らし、カイエンの外套を掴む。

「……私の父も、今はもう『彼女』の首飾りとして、遺跡の深層に……。お願い、どうかあの化け物を……私たちの魂を、輪廻の鎖から解放して!」

居酒屋の喧騒は止んでいた。客たちはリリアを「気味の悪い女」として見下していたが、カイエンだけは違った。彼はリリアの瞳に宿る、決して消えない「怒り」の残火を感じ取っていた。

ガザムは重厚な盾を地面に置き、リリアの前に跪いた。

普段の軽薄な笑顔は消え、騎士としての厳格な面構えに変わっている。

「……我が神は、迷える子羊を救うことを説く。たとえその相手が、泥にまみれた教団の娘であろうとな」

ガザムはカイエンの方を向き、角刈りの頭を突き出してニヤリと笑う。

「おい、カイエン。聖域を汚す不届き者だ。叩き割る理由としては十分だろう?」

カイエンは鞘に収めた剣の柄を握り、溜息混じりに立ち上がった。

「……ああ、十分すぎる。……だがな、ガザム。リリア、一つ言っておく。俺たちは神を救うんじゃない。使徒という『バグ』を、物理的に削除するだけだ。そのつもりでいろ」

カイエンの瞳に、獲物を狙う冷徹な光が灯る。

水の都アクアマリンの裏通りから、巨大な亀の島へと向かう復讐の旅路が、いよいよ確定した。

朗読ありがとあございます。

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