EP1空域支配の墓標
雲海を突き抜けたその塔は、天を貫く一本の針のようだった。 かつては帝国の技術の粋を集めた栄光の象徴。だが今は、狂ったシステムが循環するだけの巨大な墓標に過ぎない。
その塔は、ただ高いだけではなかった。 魔導炉、研究区画、軍事施設、貴族たちの居住区。 帝国が手に入れたあらゆる富と技術を、一本の塔へ押し込めた象徴。 人が天へ届こうとした、傲慢の証だった。
カイエンは、塔の基部――『灰あしの庭』と呼ばれる広場に降り立った。
かつては帝国の貴族たちが散策を楽しんだであろうその場所は、今はその名の通り、すべての有機物が炭化し、舞い散る灰に覆われていた。空気が冷たいのではない。世界が腐敗し、死へと向かう「停止」の音がしているのだ。
カイエンの足元で、何かがカサリと音を立てた。 帝国の紋章が刻まれた将校の制帽。そして、その横には――変異し、結晶化したかつての仲間の肉塊が転がっている。
塔の外壁には、無数の魔法陣が刻まれていた。 その中心には、空間転移実験施設を示す帝国紋章。 かつてここで、人は距離という概念すら支配しようとしていた。
霧の向こうから、ガシャリ、と規則正しい金属音が響く。 かつて同じ軍旗の下で戦った近衛兵たちが、死してなお「警備命令」という呪いに縛られ、侵入者を排除しようと槍を構えていた。
彼らの瞳から光は消え、ただプログラムされた殺意だけが、錆びついた鎧の中に渦巻いている。
「……さて、状況を整理しよう」
カイエンの言葉に、周囲の空気がピリリと凍りついた。
彼は腰の制式剣に手をかける。魔剣ではない。これは、かつての仲間を「解体」するための、騎士としての最後の慈悲だ。
この剣を握るのは、何年ぶりだろうか。 帝国騎士として最後に振るった時とは違う。 今、斬る相手は敵ではない。かつて守るべきだった者たちだ。
「標的は近衛兵八名。汚染レベルはクラスC。行動パターンは……標準的な帝国の波状攻撃か」
彼は独り言ちるように、淡々と指示を組み立てる。 冷徹な声が、凍てつく灰の庭に響く。
「無駄なエネルギーは使うな。関節部の魔石をピンポイントで叩く。……それが、機能を停止させる最も効率的な解法だ」
塔の遥か上層から、規則的な魔力振動が伝わってくる。 まるで巨大な心臓が、まだ死んでいないかのように。
カイエンが踏み込んだ瞬間、塔が悲鳴のような音を上げて震えた。
高度2万メートル。 この絶望的な現場から、監査員の「解体」が始まる。
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