エピローグ:崩壊の序曲
「世界に歪み(バグ)が生じた。ならば、俺が全てを『整理』する。」
かつて帝国を監査した青年は、禁忌の魔剣を手に、崩壊する世界の終焉を断ち切る。
燃え盛る残骸が、鉛色の空を毒々しい橙色に染め上げていた。
かつて緑豊かだった村は、使徒の汚染によって変異した肉塊と、不協和音の叫び声に満ちている。
それは、世界という組織が「システムエラー」を起こし、自己破壊を始めたかのような光景だった。
俺の腕の中で、少年の呼吸は驚くほど軽くなっていた。
汚染がその小さな肺を浸食し、神経を麻痺させている。
少年は俺の顔を見上げ、歪んだ景色を見つめながら、壊れかけた夢を見るように微笑んだ。
「……カイエンさん、空が……すごく綺麗だよ」
俺は何も言えなかった。
俺の目には、腐敗した大気が煤をまき散らし、世界が死んでいく様子が克明に映っている。
けれど、少年にはそれが、かつてこの場所にあったはずの、透き通った青空に見えているのだ。
「ああ、綺麗だ……。僕、これがずっと見たかった景色なんだ……」
それが、少年が遺した最後の言葉だった。
その瞳から光が失われ、腕の中の温もりが急激に冷えていく。
俺はただ、動かなくなった少年の頬を撫でるしかなかった。
帝国の栄華を支えたのは、こんな無惨な実験の積み重ねだったのか。
使徒の力と引き換えに、彼らは何を守ろうとしていた。
俺は騎士として、監査員として、腐敗を見過ごしてきた。その結果がこれだ。
俺は少年の瞳を静かに閉じさせ、立ち上がった。
魔剣が、少年の血と汚染の残滓を吸い込み、鈍く脈動を始める。
俺の心臓の鼓動も、それに応えるように冷徹なリズムを刻み始めた。
「……状況を整理しよう」
独りつぶやいた。
感情の昂ぶりを殺し、悲嘆を論理の中に封じ込める。
この現場は、もう救えない。
ならばせめて、この崩壊の連鎖を、俺の手で解体する。
それが、監査員としての最期の仕事だ…。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
理の崩壊した世界で、カイエンが何を見て、何を「整理」していくのか。
少しずつ世界の歪みが明らかになっていきます。
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