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灰の監視員(レギュレーター・アイ)  作者: シャロン=ミ


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EP17 託された鍵とそれぞれの道

塔の最上階を覆っていた黄金のドームは、ソラリスの消滅とともに雲散霧消し、夜空を映すだけの虚無へと変わっていた。

崩壊する玉座の片隅、カイエンはドラゴの冷たくなった身体を抱き寄せたまま、微動だにせずにいた。

沈黙を破ったのは、アラの震える声だった。

「……演算終了よ。……塔のシステム、完全に停止を確認したわ」

彼女の手元にある端末は、かつてないほど真っ赤なエラー警告を点滅させていた。しかし、その数値に意味などない。アラは端末を放り出し、膝をついてドラゴの亡骸のそばに寄り添う。

「……ねえ、ドラゴ。アンタ、自分のレンチを盾にするなんて……馬鹿なの?」

ユウナが短銃剣を鞘に納める音は、驚くほど冷たく響いた。彼女は目元を拭おうともせず、ずっとドラゴのレンチを見つめている。かつて戦いの中で軽口を叩き合っていたはずの彼が、今はただの動かない肉塊となって横たわっている事実。

「……あいつは、そうやって守るのが仕事だと思ってたんだろうさ」

カイエンの声は、驚くほど枯れていた。彼は顔を上げない。その瞳から流れる涙は、ドラゴの焼け爛れた胸元に落ちて、蒸発するように消えていく。

「管理官として、……あるいは一人の男として。あいつは最期に、最も効率的な『盾』の証明をした」

「……カイエン」

ユウナがカイエンの肩に手を置こうとして、躊躇する。彼から放たれる凄惨なまでの悲しみと、それでも残る「監査官としての矜持」が、あまりに鋭利すぎて触れることを拒んでいた。

「……ここから先は、私たちが背負うのよね」

アラが力なく立ち上がり、塔の出口へと続く暗闇を見つめる。

「ソラリスが消えたことで、この塔が守っていた『箱庭』の壁も壊れた。……外の世界に出れば、組織の連中が黙っていないはずよ」

「ああ、そうだな」

カイエンは静かにドラゴの身体を地面に寝かせ、最後にその額に手を置いた。彼は立ち上がり、一度だけ振り返った。そこには、ただ静かな冷徹さだけが戻っていた。

「……行こう。あいつが命を賭して守り抜いたこの『不確定な未来』を、俺たちが最後まで計算してやる」

三人は、崩壊を続ける塔の瓦礫を越え、未明の空の下へと踏み出す。

彼らの背後で、かつて「神」がいた場所が、音を立てて崩落し――その音だけが、ドラゴの最期の言葉の代わりだった。


崩落する塔の出口、吹き荒れる夜風が、焼け付いた三人の肌を容赦なく叩く。

組織の追手が迫る気配を、カイエンの研ぎ澄まされた感覚が捉えていた。

「……ここから先は、別行動だ」

カイエンは背後の塔を見据えたまま、短く告げた。その言葉に、ユウナが目を見開く。

「……は? なに言ってるの、今さら……!」

「組織はソラリスの停止を検知した。俺たち三人が揃っていれば、即座にターゲットにされる。……だが、個別に動けば可能性(変数)が広がる」

カイエンは振り返り、ユウナとアラの顔を見つめた。かつての監査官の冷徹な眼差しではない。そこには、ドラゴの死を乗り越え、この残酷な世界を生き抜くための「覚悟」が宿っていた。

「……アラ、お前には『管理』を託したい」

「……私に?」

「ああ。この塔に残された膨大な解析データ……『箱庭』の維持システムそのものだ。お前なら、組織の干渉を遮断し、このエリアの全権限を書き換えることができるはずだ。……隠れサーバーを構築して、生き残った者たちの『盾』になれ」

アラは少しの間沈黙したが、力強く頷いた。

「……わかった。ドラゴの命を無駄にしないための『要塞』、作ってみせるわ」

カイエンは次に、ユウナへと視線を向ける。

「ユウナ。お前は……」

「わかってるわよ」

ユウナは遮るように言った。その瞳には、すでに迷いはなかった。

「……組織の拠点を探り当てて、内側から食い荒らしてやる。あいつらが二度と、私たちらみたいな犠牲者を出さないように……私が『牙』になる」

「……頼む」

カイエンは最後に二人を見渡した。

もう二度と戻らない日常。それでも、彼らはドラゴという熱いくさびを心に刻み込んでいる。

「……最後に一つだけ。俺たちは、死ぬまで『不確定な存在』でいろ」

三人は言葉を交わすこともなく、それぞれの方向へと背を向けた。

夜の帳が降りる中、塔の残骸は静かに崩れ去り、天城の空は白み始めている。

ドラゴを失った喪失感は消えない。だが、三人は今、それぞれの役割プログラムを書き換え、組織という巨大な神話に抗うための、真の「反逆者」として歩み始めたのだった。

本日も『灰の監視員』をお読みいただき、本当にありがとうございました!


ドラゴの最期、そして三人がそれぞれの「牙」と「盾」を胸に歩き出した結末まで見届けていただき感謝の気持ちでいっぱいです。


ちなみに、今回の舞台となった塔の名である『天の柱』は、私自身がこだわって名付けた場所です。雲を突き抜ける静寂と、そこに君臨する神にも等しい存在の威圧感……某作品を参考にしました。


皆様のブックマークや応援が、彼らの物語をここまで形にする力になりました。

本当にありがとうございます!次回は過去編です!

なぜ、天の柱を作ったのか真相にせまります!

明日からは20時更新となります!

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