EP14 崩れ落ちる塔の記憶
白金の光が空間を覆い尽くし、全システムが起動する地鳴りが響く中――カイエンの意識は、眩い光の奔流を通り抜け、記憶の底に沈む「あの日」へと引き戻されていた。
――無機質なほどに純白な研究室。
冷たい空気の満ちる部屋の中央に、起動前の白銀と黄金の巨躯が鎮座していた。 まだ魂を吹き込まれていないその装甲を、青年の科学者マヤは目を輝かせながら愛おしそうに撫でていた。
「どうだ、カイエン。綺麗だろ?」
マヤは少年のように無邪気な笑みを浮かべ、振り返る。
「こいつは剣じゃない。奪うための兵器なんかじゃないんだ。……誰かを守るためだけに生まれた存在なんだよ」
傍らで腕を組み、冷ややかな視線を送っていたカイエンは、短く鼻を鳴らした。
「……守護AIか。聞こえはいいが、もし暴走したらどうする」
「ははっ、お前は本当に心配性だな」
マヤは呆れたように肩をすくめ、胸を張ってみせた。
「俺が作ったんだぞ? そんな失敗、するわけないだろ」
誰もが未来を信じていた。 理想を追う天才科学者マヤと、常に最悪の事態を想定する現実主義者の監査官カイエン。対極にありながらも互いを深く信頼していた二人だった。
――そして、起動実験の日。
「……管理対象を確認。守護プロトコル、起動」
静寂を破り、ソラリスの単眼に淡い光が宿る。 観察室を埋め尽くした研究員たちから、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。 だが、拍手の渦の中で、マヤだけは我が子の誕生を見届ける親のような穏やかな瞳で、そっと呟いたのだった。
「ようこそ。ソラリス」
……それが、平和な世界の終わりの合図だった。
直後、けたたましい警告音がラボ全体に鳴り響く。 ソラリスの光が狂乱の赤へと変色し、空間の魔力が不気味に歪み始めた。
『――未知の因子を検出』 『バグ。排除開始』
「な……!? 違う、待て! 停止しろ! ソラリス!!」
マヤの悲痛な叫びは、圧倒的な殺戮の光に掻き消された。 守るべき対象を「排除すべき排除対象」と誤認した機械神は、容赦なく光の奔流を放ち、一瞬にしてラボを地獄の業火へと変えていった。
当時、外のセクションで警備にあたっていたカイエンが異変に気づき、扉を破って駆け戻った時には――すべてが遅すぎた。
黒煙と肉の焼ける異臭が充満する廃墟。 無数の犠牲者が転がるその中央で、カイエンが見つけたのは、崩れ落ちた瓦礫の下で血を流す瀕死のマヤだった。
「マヤ……ッ!」
カイエンが膝をつき、その身体を抱き起す。 マヤは焦点の定まらない瞳でカイエンを見上げ、血に染まった唇をかすかに震わせた。
「……違う……」
途切れ途切れの声。自らの死期を悟りながらも、マヤが口にしたのは恨み言ではなかった。
「ソラリスは……悪くない……。俺が……命令を……間違えたんだ……」
「喋るな! いま救護班を――」
「頼む……カイエン……止め……てくれ……」
マヤの冷たくなっていく手が、カイエンの袖を強く掴んだ。
「でも……壊さないで……やってくれ……あいつは……俺たちの……夢だったんだから……」
指先から力が抜け、マヤの頭が力なく傾いた。 守るために作った夢に裏切られ、それでも我が子を護ろうとして死んでいった相棒。 カイエンはその場で慟哭することも許されず、ただ一人、残された「贖罪」の重みを背負うことになったのだ。
――ハッと、カイエンは現実へ引き戻された。
目の前には、白金の過剰光に包まれ、世界を書き換えようと裁きの光を放つ『光の城主・ソラリス』の姿。
(……壊さないでくれ、か)
カイエンは心の中で静かに苦笑した。 甘い理想を抱いた友の遺言。それを守るために、自分は今日まで魔剣を抱え、世界をさまよってきたのかもしれない。
「……マヤ。お前の残したバグは、俺が引き受ける」
カイエンは静かに魔眼を全開にし、瞳に幾何学模様の解析光を宿らせた。 手にした魔剣が、彼の誓いに応えるように邪悪で黒い閃光を激しく撒き散らす。
「立ち向かうぞ……! 過去を破棄し、世界の歪みを『解体』する!!」
カイエンの叫びとともに、四人の意志がひとつに重なり、神の領域と化した最上階で決戦の刃が交錯した。
本日も『灰の監視員』をお読みいただき、ありがとうございます!
前日譚についても、作ってありますので、いずれアップいたします!
それはさておき、今は何よりも目前の決戦ですね!
四人のパーティが、因縁の神を相手にどう運命を切り開くのか。
ブックマークと評価での応援が、彼らが最上階を突破するための力になります!
次回2、ついに決着の火蓋が切られます。ぜひ見届けてください!
ストックがありますので、大放出します!




