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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
工都ギアフォージ・レース編

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141/145

EP141 予選の疾風と灰の巨砲

工都ギアフォージグランプリ、予選当日。


巨大なサーキットは、超満員の観客が放つ熱気で揺れていた。 今大会の予選は、エントリーしたレーサーたちをA・B・C・Dの4つのブロック(各8名)に分け、それぞれのレースで「上位2名」のみが決勝へ進出できるという完全な狭き門となっている。狭き門を突破した計8名だけが、栄光の決勝サーキットへ駒を進められるのだ。


Aブロックには、自作の軽装機で挑む整備士のモエ。 Dブロックには、圧倒的な下馬評を誇る漆黒の怪鳥ブラックバードとナナ・クロムウェル。


そして、注目のBブロックに出走するのは――前年度チャンピオン、ゼノス・ヴァイス(24歳)であった。


「……フン、準備はできているな?」


ピットロードで冷たい言葉を投げかけたのは、水色の短髪に青い瞳を持つ青年、ゼノスだった。 182センチの細身で引き締まった体に、白と水色を基調としたレーサースーツを纏っている。日焼けのない白い肌に浮かぶ無表情は、他者を寄せ付けない冷徹なアイスドールそのものに見えた。


彼の駆る機体は《フロスト》。 徹底的に空気を切り裂くことだけを追求した水色のフレームは、まるで一羽の鋭利な鳥のようなシルエットを描いている。最高速においては今大会No.1と称される、洗練された機体だった。


「ゼノス! 我が社の看板を背負っているのだ、連覇以外は許されんぞ!」 「……分かっています」


冷酷なスポンサーの怒号を背に受けながら、ゼノスは深く静かに青い瞳を閉じた。 他者を見下すような嫌な態度に見えるその横顔の裏には、企業からの過酷な圧力と、スポンサーに逆らえない自らの立場への葛藤が隠されていた。ただ風を切りたいという純粋な想いは、大人の欲望の陰に押し込められている。


そして――予選Cブロック。 カイエンの乗る《レギュレーター》が、ついにスタートラインへと着いた。



「おいおい見ろよ、Cブロックのあの機体……!」 「なんだあのダサい箱型は!? 機械というより『棺桶』じゃないか!」


観客席やVIPルームのスポンサーたちから、あからさまな嘲笑が巻き起こる。 他の7機が流線型のスマートな装甲で身を固めている中、灰色で角張った重装甲の巨体は、どこからどう見ても異様であり、そして鈍重に見えた。


コクピットの中で、カイエンは静かに目を閉じる。 周囲の雑音など、元・最高監査員の耳には何の意味もなさなかった。


『Cブロック予選、スタート5秒前……4、3、2、1……ゴー!!』


爆音とともに、7機のマシンが一斉にロケットスタートを切る。 軽量化された機体たちは驚異的な加速で第1コーナーへと躍り出ていった。


一方――カイエンの《レギュレーター》は。


ズシーン……ズシーン……。


「ぶははは! 遅えぇぇっ!」 「やっぱり動くのがやっとのガラクタじゃねえか!」


最下位。圧倒的な、ぐうの音も出ない最下位である。 だが、カイエンは操縦桿を静かに握ったまま、紅い魔眼をうっすらと発光させた。


(……過剰出力の波。やはり、どいつのコアも限界を超えているな)


先行するマシンたちの背後から、不吉な魔導ノイズが立ち昇っていた。 勝利を焦るあまり、禁忌や違法改造スレスレの過剰充填を行ったアーティファクトたちが、限界悲鳴を上げ始めているのだ。


そして――第2コーナーを抜けた先の直線区間で、惨劇は起きた。


「な、なんだ!? ブースターの圧力が下がらない――うわあああああっ!?」


パァンッ!!


トップを走っていた機体のアーティファクトが暴走し、激しい爆発を起こした。 巻き込まれた後続の2機が次々とスピンし、激しく衝突。金属片と炎を撒き散らしながら大クラッシュを引き起こした。


さらに過熱したバイパス管から吹き出した黒煙がコースを覆い、破砕されたフレームと炎上する瓦礫が、狭いコースの道幅を完全に塞ぎ切ってしまったのだ。


「クラッシュ発生! 第2コーナー出口が完全に封鎖されたーっ! 後続機は減速、あるいは停止するしかありません!」


後続の機体たちが悲鳴を上げてブレーキを踏み、横転を避けようと右往左往する。 絶体絶命の混迷。


しかし――最下位からノロノロと走っていた灰色の重戦車は、ブレーキなど踏まなかった。


「……どけ」


カイエンは低く呟くと、己の体内に通じる事象解析の力を、機体のバイパス回路へと直接流し込んだ。


グワシッ……!!


《レギュレーター》の背部に鎮座する巨大な二連ブースターが、カイエンの「システム」の干渉を受けて強制駆動を開始する。内部の蒸気圧力が一気に限界突破の領域へと跳ね上がり、排気口から圧倒的な密度の灰色の蒸気が爆風となって噴き出した。


ドドドドドドドドドドッ!!!!!


「な……なんだあの排気音は!?」 「止まらないぞ! あいつ、瓦礫の山に突っ込んでいく気か!?」


加速する灰色の要塞。 目の前には、炎上する機体の残骸と、横倒しになった鋼鉄のフレームが壁となって塞がれている。普通なら突っ込んだ瞬間に機体ごと爆破・死亡する死の障害物。


だが、カイエンは魔眼で衝撃の最も少ない「構造の接点」を一瞬で見極めた。


破砕ブレイク


ズドォォォォォォンッ!!!!!


激突。 しかし、大破したのはコースを塞いでいた瓦礫の方だった。


《レギュレーター》の極厚多層装甲は、爆炎と激突の衝撃を真っ向から粉砕。燃え盛る火炎を力づくで押し裂き、炎上する残骸をまるで落ち葉のように吹き飛ばしながら、一直線にコースを突き抜けていった!


「な、何ぃぃぃぃぃぃっ!?」


観客席から悲鳴のような驚愕の声が上がる。


炎と黒煙を割って姿を現したのは、傷一つついていない艶消しの灰色。 装甲からシュウシュウと灰色の蒸気を吐き出しながら、《レギュレーター》は障害物を物理的に「排除」して、そのままトップへと躍り出た。


『た、耐えているーーーっ!?』


実況のマイクが破れんばかりの絶叫を上げる。


『凄まじい衝撃! 炎上するクラッシュ現場を、そのまま力づくで粉砕突破ぁぁぁっ! なんという装甲! なんという剛性! あの機体……絶対に止まらないーーーっ!!』


呆然と立ち尽くす観客たち。 そしてピットで画面を見つめるモエは、思わず不敵な笑みを漏らした。


「ふふん……見たか! これが私とカイエンの作った《レギュレーター》よ!」


圧倒的な打たれ強さと、計算し尽くされた力技。 嘲笑されていた灰色の棺桶は、予選のコースを破壊しながら、悠々と1位でゴールラインを駆け抜けていった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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