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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
工都ギアフォージ・レース編

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132/145

EP132 熱狂の工都

中央駅のホームを抜けたカイエンを出迎えたのは、鼓膜を揺らす金属の打撃音と、街全体を包み込む圧倒的な熱気だった。


工都ギアフォージのメインストリート――通称『スチーム・アベニュー』。 見上げるほど巨大な黒鉄のビル群の間には、幾重にも張り巡らされた横断幕や、魔石の光で彩られた動く巨大広告看板がひしめき合っていた。


『第50回 ギアフォージ・グランドグランプリ開幕まで、あと7日!』 『史上最高額! 優勝賞金 5,000万ゴールド!』 『協賛:クローバー重工業、クロムヴェル製鋼、ZTJ、他50社!』


壁という壁には、煌びやかな専用スーツを纏った「人気選手レーサー」たちのポスターが隙間なく貼られている。 熱狂しているのは大人たちだけではない。路地裏では、子供たちが精巧に作られたパワードスーツのミニチュア模型を手に持ち、「行けっ、俺の機体!」「負けるか、ダッシュパーツ稼働だ!」と声を上げてレースごっこに興じていた。


通り沿いに立ち並ぶパーツショップの店先には、流線型の魔導エンジンやチタン製の脚部フレーム、高出力のブースターパーツが所狭しと並べられ、技師と客が身乗り出しでチューニングについて議論を戦わせている。


あらゆる場所が、一つの「イベント」を中心に回っている。


(単なる娯楽にしては、街全体の熱量が異様だな……)


カイエンは群衆の喧騒をすり抜けながら、ふと息を吐いた。 帝国のような軍事的な統一感とも、エルフの聖域のような静謐さとも違う。ここは純粋な「技術」と「欲望」、そして「熱狂」が交錯する街だった。



長旅の疲労と腹を満たすため、カイエンは路地裏で見つけた一軒の大衆食堂へと足を踏み入れた。


店内は、作業着姿のドワーフ技師や商人たちでごった返しており、油と焼肉の香ばしい匂いが充満していた。空いているカウンターの端に腰を下ろし、日替わりの肉料理とパンを注文する。


料理が運ばれてくる間も、周囲の客たちの怒号に近い話し声が嫌でも耳に入ってきた。


「おい聞いたか!? 今年の第3セクター、連続S字カーブに『水圧トラップ』が追加されたらしいぞ!」 「マジかよ! スピード特化の軽量型機体じゃ、一発で吹き飛ばされて終わりじゃねぇか!」 「だから言ったろ! 今年は重装甲の『鋼鉄の鬼神』ジャックが本命だって!」 「ハッ、甘いな! クラン・ガザルが投入する新型のアーティファクトエンジンなら、トラップごと力押しで突破できるさ!」


右を見ても左を見ても、誰もがレースの勝敗や機体のスペック、コースのトラップについて熱弁を振るっている。新聞を広げている男の紙面も、一面から裏表紙までグランプリの特集記事で埋め尽くされていた。


注文した肉料理が運ばれてくると、カイエンはフォークを手に取りつつ、皿を置いた頑丈な体格のドワーフ店主に声をかけた。


「……街中、どこもかしこもあのレースの話題ばかりだな。あれはそこまで大事おおごとなのか?」


店主は手ぬぐいで額の汗を拭うと、豪快にハハッと笑った。


「なんだいお兄さん、遠くから来た観光客かい? ギアフォージのグランプリを知らんとは珍しい」


店主はカウンターに肘をつき、得意げに胸を張ってみせた。


「いいか? この国じゃあな、発掘された『古代アーティファクト』を組み込んだパワードスーツで着順を競い合うレースってのが、最大の娯楽であり、同時に『一大産業』なんだよ」


「産業……?」


「そうだ。一回レースが開催されりゃ、何百億って金が動く。専業のプロ選手レーサーもいれば、そこに自社の最新技術を注ぎ込んで売り込む巨大企業スポンサーもごまんといる。果てはレース専門の技術者を育てる国家級の育成学校まであるんだからな」


店主はチラリと壁のポスターを見上げ、ニヤリと笑った。


「トッププレイヤーになれば、一夜にして巨万の富と名声が手に入る。企業は技術力を証明して株価を爆上げできる。……要するに、国民総出で楽しむ『国公認の巨大ギャンブル兼、技術の見本市』ってわけさ」


「なるほど……」


カイエンは短く頷き、冷めたスープを口に含んだ。


パワードスーツとアーティファクトを組み合わせた極限のモータースポーツ。 だからこそ、この街では技術者が尊ばれ、パーツショップがひしめき、誰もがグランプリに夢を賭けているのだ。


(優勝賞品は――公認工房への無制限の立ち入り権、国家級ライセンス、そして『古代資料の閲覧権』)


エルフの女王から受け取った情報を脳内で整理する。 カイエンが求める魔剣の真実、そして身体の侵食を止める手がかりを得るには、この狂騒の頂点に立つ以外に道はない。


だが――。


(この華やかな熱狂の裏で、魔導機関の暴走やアーティファクトの盗難、さらには人の行方不明事件が多発している……)


事象を解析するカイエンの直感が、街のあちこちで微かに蠢く「歪み」を捉えていた。 盛り上がる熱気の影で、着実に侵食を進める帝国の影、あるいは世界のバグ。


「おい、お兄さん。メシが冷めちまうぞ」


店主に声をかけられ、カイエンは思考を打ち切った。


「……いや、美味いよ」


パンをちぎり、肉とともに口へ運ぶ。


開幕まであと7日。 世界の歪みを正すため、そして自らの宿命の答えを得るため。カイエンは静かに、鉄と煙が織りなす狂騒の渦へと足を踏み入れていくのだった。

このような、情報収集というのはワクワクしますよね!

次回、レース編が本格的に動き出します!お楽しみに


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