EP129 宴のあとと、思いがけない褒美
『王墓』における過酷な戦いを終え、数日。 古代王国の崩壊と、終焉王エドガルドの救済という一つの歴史の大きな節目を見届けたカイエンたちは、羽を休めるため、そして次なる目的地の情報を集めるために、エルフの聖域に滞在していた。
緑豊かな木漏れ日が差し込む美しい謁見の間。 かつてカイエンたちを侵入者として警戒していたエルフの元老院たちの姿はなく、玉座には品格と慈愛を湛えたエルフの女王が静かに座していた。
カイエンたちは、王墓で起きた一部始終――消えた王国の真実、そしてエドガルド王と五騎士たちの魂が救われ、光の中へ帰っていったことを女王に報告した。
静かに耳を傾けていた女王は、深い溜息とともに胸に手を当てた。
「……そんなことが……。我が国、そして我が祖先に繋がる者たちが、それほどまでの悲劇と孤独を背負い続けていたとは……。ありがとう、カイエン。ヒナ、マキマ、そして我が愛しきアイフェリスよ」
女王は深く、深く頭を下げた。
「この真実は、決して闇に葬ってはならぬ。この記憶と彼らの高潔な魂は、歴史書に刻み、後世にその栄光と誇りを伝えていくとしよう」
その言葉に、カイエンたちの口元が自然とほころぶ。 冷酷なバグと絶望に満ちた世界の中で、彼らが命を懸けて繋いだ「想い」が、確かにこの世界に認められた瞬間だった。
「さて」
女王はふっと表情を和らげると、悪戯っぽく微笑んだ。
「功労者には、相応の褒美を取らせなければな」
まず、女王の視線がマキマへ向けられる。
「メカニックの娘よ。お主には、エルフの国がドワーフ国から極秘裏に仕入れた、極上の希少金属と魔導素材一式を授けよう」
「っ!? ほんとでありますか! 喉から手が出るほど欲しかった高純度のオリハルコン鉱石やドワーフ鋼がもらえるなんて……助かるであります! 女王様最高であります!」
マキマは目を輝かせ、ピョンピョンと跳ね回りながら歓喜の声をあげた。
続いて、女王の温かな眼差しがヒナへと注がれる。
「ヒナ。お前……いや、お前たち半エルフとの永きにわたる諍いは、本日をもって完全に終了とする。そしてお主には、半エルフの代表として、我が国の『隠密部隊隊長』を担ってほしいのだ」
「えっ……? わたしが……隊長?」
思いもよらない大役に、ヒナは目を丸くして自分の胸を指さした。長年スリや裏社会の情報屋として生きてきた彼女にとって、エルフの国の公的な要職など想像もつかなかったのだ。
「私に……できるかな……」
不安そうに眉をひそめるヒナ。その肩を、隣にいたカイエンがそっと叩いた。
「できるさ、ヒナなら。お前の目ざとさと度胸は、誰よりも頼りになる」
「カイエン……うん! 頑張ってみる!」
カイエンの真っ直ぐな言葉に、ヒナはパッと顔を輝かせて大きく頷いた。
そして、最後に女王の視線がカイエンへと注がれる。
「さて、カイエンよ。お主には最大の褒美を取らせねばな」
「俺は、使徒の情報をいただければそれで十分ですが」
「そう言うな。どうだ……我が国との永遠の友好のため、アイフェリスを嫁に取らんか?」
「――ぶっふ!?? じ、女王様!?」
おしとやかに控えていたアイフェリスが、盛大に素っ頓狂な声をあげて吹き出した。普段の凛としたクールな佇まいはどこへやら、耳の先まで真っ赤にして胸を押さえている。
「ちょ、ちょっと待ってください! 何を言ってるんだ、急に!?」
カイエンも思わず素で困惑の声をあげる。
「んなぁぁぁっ!?」
マキマは目玉が飛び出さんばかりに驚愕し、
「ほーう、そう来たかぁ」
ヒナだけが「なるほどね」と言わんばかりに面白がって腕を組んでいた。
「良いではないか」
女王は至って真面目な顔で頷いてみせる。
「お前ほどの実力と高潔な精神を持つ者であれば、我が国としてもこれ以上なく安心だ。何より、人間とエルフの国交の素晴らしい架け橋となるであろう?」
「かっ、架け橋って……! 女王様、私にはまだカイエンの監察官としての責務が……というか、その、私側の気持ちというものが……っ!」
アイフェリスは完全にパニックに陥り、視線をあちこちに泳がせながら、真っ赤な顔でカイエンを盗み見たり背を向けたりと大忙しだ。
そんなアイフェリスの狼狽ぶりを横目に、マキマがキーキーと叫びながらカイエンの袖を引っ張った。
「そ、そんなの許さないでありますよ! ねぇカイエン! ヒナはどう思ってるのでありますか!?」
「ん? 私は2番でも3番でもいいよ〜。マキマはそれじゃ嫌なの?」
ヒナがあっけらかんと首を傾げて言い放つと、マキマは顔を真っ赤にして爆発した。
「わ、わたすが1番……って、そう言うことじゃないであります!! なんで当然のように正妻争いに参加しようとしてるでありますかーっ!?」
「マキマ、声が大きいぞ……」
ドタバタと騒ぎ立てる一行の様子を、女王は実に満足そうにくすくすと笑いながら見つめていた。
過酷な運命とバグに彩られた世界の片隅で。 ひとときの平和と、賑やかな笑い声が、エルフの聖域の空に温かく響き渡っていたのだった。
王墓編完
王墓編終了です。
これで終了ではないです…自分の中でこれ以上の章は作れないないな〜と思ってたんですけど、次の章を作っていたら乗って来たのでまだまだ続きます。
最初は王墓編は5騎士を倒す、王を倒すという単純な仕組みを考えてたんですけど、一人一人のエピソード掘っていたら、凝り始めてしまいました。という裏話です。
評価、ブックマーク、コメントなどいただけると執筆のモチベーションがめちゃくちゃ上がります!
次回趣旨が変わったエピソードになります!お楽しみに




