↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
王墓編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/145

EP109 継承される死の舞踏

完全なる無音の世界。 呼吸の音も、衣擦れの擦過音も、心臓の鼓動すらも魔剣ノクスに吸い尽くされ、聖堂の奥は不気味なほどの静寂に包まれていた。


アイコンタクトだけで、カイエンたちは一瞬にして意思を統一した。 相手は王国最強、そして王の影。これまでの騎士たちとは格が違う。一人で挑めば、一瞬で闇に呑まれる。


「ここだけは、全員でいくぞ」


カイエンの唇の動きを読み、ヒナ、アイフェリス、マキマが同時に頷いた。


最初に仕掛けたのはマキマだった。 彼女は愛用の電子銃を構え、引き金を引く。銃口から放たれた極太のプラズマ光線が、無音の闇を切り裂いてアゼルへと直撃する――はずだった。 しかし、アゼルは表情一つ変えず、夜空を模したマントを軽く一振りした。それだけで、星糸の煌めきを湛えた闇が光線を包み込み、まるで最初から存在しなかったかのように完全に霧散させてしまった。


間髪入れず、アイフェリスが杖を掲げる。 彼女が紡ぐ古代エルフの魔力は、アゼルの足元から無数の光の鎖となって這い上がり、その巨躯を拘束しようと絡みつく。 同時に、ヒナがシーフの俊敏さを極限まで発揮し、ドラゴンの角の短剣を逆手に握ってアゼルの死角――漆黒の鎧の、修復されていない傷跡へと音もなく肉薄した。


完璧な同時攻撃。 だが、アゼルはただ静かに、左の深紅の瞳をわずかに動かした。


ドォン、と重力が反転したかのような錯覚。 アゼルが魔剣ノクスを軽く地面に突き立てると、彼の影が爆発的に膨れ上がり、アイフェリスの光の鎖を食い破った。さらに、その影の衝撃波がヒナの突進を完璧に阻み、彼女の身体を無慈悲に弾き飛ばす。


「くっ……!」 声にならない悲鳴を上げながら、ヒナが石床を転がる。


そこへ、本命であるカイエンが踏み込んだ。 魔眼を限界まで見開き、アゼルの周囲に漂う闇の魔力の「歪み(バグ)」を瞬時に解析する。アゼルの漆黒の鎧、その胸元に刻まれた「王と共に戦った最後の傷」。そこが唯一、魔力が不均等になっている脆弱なポイントだった。


カイエンは禁忌の魔剣を両手で握り締め、その傷跡を正確に貫くべく、一閃を放った。 空気を引き裂くはずの刃は、無音のまま、アゼルの胸元へと吸い込まれていく。


勝負あり――そう思われた瞬間。


アゼルの右の黄金の瞳が、静かに輝いた。 彼は魔剣ノクスを驚異的な速度で引き抜き、カイエンの魔剣の軌道を、ミリ単位の狂いもなく正面から受け止めた。


ギィィィン……!


音は聞こえない。しかし、空間が歪むほどの凄まじい衝撃波が二人の刃の間から発生し、聖堂の石柱に亀裂を入れる。


カイエンは目を見開いた。 アゼルの剣の構え、そして刃の受け方は、先ほどまでの「闇を操る王の影」としての変幻自在なスタイルとは、明らかに異なっていた。 それは、一寸の隙もなく、あらゆる攻撃を正面から跳ね返す、極めて重厚で、洗練された「守護」の型。


アゼルの唇が、静かに動いた。 その声は、カイエンたちの脳裏に直接、深く響き渡る。


『――これは。第一騎士の剣』


「なっ……!?」


『かつて、王国の盾となり、あらゆる外敵から王を護り抜いた、我が同胞の剣技だ』


アゼルの魔剣ノクスから、底知れぬ質量が伝わってくる。 それは単なる魔力の高さではない。かつて第一騎士が背負っていたであろう、国を護るという「鉄壁の意志」そのものが、アゼルの剣を通じて具現化しているのだ。


アゼルが魔剣をわずかに捻る。 それだけで、カイエンの魔剣の刃が強引に受け流され、カイエンの体勢が大きく崩れた。 アゼルは一歩を踏み出す。その巨躯から放たれる圧倒的な威圧感と、一切の突破を許さない鉄壁の防御。


ヒナが、アイフェリスが、マキマが、再び援護のために攻撃を仕掛けるが、アゼルは第一騎士の剣技をもって、それらすべての攻撃を完璧に捌き切っていく。 まるで、四人がかりで巨大な「城壁」に挑んでいるかのような絶望感。


「はっ……、ぁ……!」 カイエンは体勢を立て直そうとするが、アゼルの無駄のない一撃が彼の胸元を掠め、強烈な衝撃で後ろへと吹き飛ばされた。石床を滑りながら、カイエンは息を詰まらせる。


最強の盾。 王国最強の「影」は、かつての仲間たちの技をもその身に宿し、完璧な守護者としてカイエンたちの前に立ちはだかっていた。


第一騎士の「盾」とも言うべき鉄壁の剣技によって、カイエンの全力の一撃は完全に無力化され、その身体は冷たい石床へと激しく弾き飛ばされた。


(くそっ……なんて重さだ……!)


カイエンは胸を圧迫する衝撃に耐えながら、すぐに立ち上がろうとする。しかし、アゼルの追撃は容赦がなかった。いや、追撃というよりも、それはあまりにも自然な、流れるような動作の移行だった。


アゼルは、カイエンを弾き飛ばした勢いのまま、魔剣ノクスの切っ先を今度はマキマへと向けた。


マキマは直感的な危惧を感じ、即座に愛用の電子銃の出力を最大に引き上げた。彼女の周囲に、科学の力による強力な電磁障壁バリアが何重にも展開される。魔術適性のない彼女が、限界まで高めた自慢の防御システムだ。


「これ以上、好きにはさせないであります!」


無音の世界。マキマの声は誰の耳にも届かない。だが、彼女の決意に満ちた表情と、展開された青白い障壁がその意志を明確に示していた。


だが、アゼルはただ静かに、その左右異なる双眸――右の黄金、左の深紅の瞳を細めた。 漆黒の魔剣ノクスの刀身に、うねるような闇の魔力が集束していく。その闇は、単に光を吸い込むだけでなく、見る者の皮膚をじりじりと焦がすような、異常な熱量を帯び始めた。


アゼルの唇が、静かに動く。 その声が、再びマキマたちの脳裏へと直接、厳かに響き渡った。


『――これは』


アゼルが魔剣を横一文字に薙ぐ。


『第二騎士の炎』


直後、音のない世界に、視界を真っ赤に染め上げるほどの「黒赤の猛火」が爆発的に吹き荒れた。 それは空気の振動を伴わない、完全なる無音の劫火。しかし、その熱量は本物だった。触れた石柱が一瞬でドロドロのマグマへと融解し、聖堂の空気が一気に干からびていく。


マキマの展開した電磁障壁に、その無音の炎が接触した。


「――っ!?」


マキマは目を見開いた。 彼女の網膜投影ディスプレイに、異常な警告ログが超高速で流れ始める。 科学的に構築されたエネルギー障壁が、魔術的な「炎」によって遮断されるのではなく、その熱量そのものによって「システムごと焼き溶かされていく」のだ。


「これは……っ!? であります……!」


驚愕に顔を歪めた瞬間には、すでに遅かった。 障壁を容易く食い破った黒赤の炎が、マキマの身体を容赦なく包み込む。魔術の炎が放つ凄まじい熱波と、アゼルの放った圧倒的な衝撃が、彼女の小さな体躯を襲った。


「が、はっ……!」


マキマはまともに衝撃を浴び、電子銃をその手から落としながら、まるで木の葉のように後方へと激しく吹き飛ばされた。 そのまま硬い石壁へと叩きつけられ、ぐったりと床に崩れ落ちる。彼女の防護服は焦げ付き、ぴくりとも動かなくなってしまった。


「マキマ――っ!」


ヒナが叫び、カイエンの魔眼がマキマのバイタルサインの急激な低下を捉える。 一撃。たった一撃で、彼らの優秀な技術屋メカニックは完全にのされてしまった。


アゼルは、炎の余韻を残す魔剣ノクスを静かに構え直す。 感情の消えたその顔には、誇るような色も、憐れむような色もなかった。ただ、王国最強の「影」としての、絶対的な義務だけがそこにあった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけましたら、

☆☆☆☆☆評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります!

皆さまの応援が、執筆を続ける大きな力になります。

また次話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。