EP10 邂逅と値踏み
「……ふん。連携は悪くなかった」
カイエンが短くそう評価すると、白衣の男――ドラゴが巨大なレンチを肩に担ぎ直してニヤリと笑った。 一九〇センチを超える巨躯は、ボロボロの帝国軍外套を纏っていても隠しきれない威圧感を放っている。乱れた黒の癖っ毛が、彼の荒っぽい性格を象徴していた。
「へえ、監査員様にお褒めいただくとは光栄だね。俺はドラゴ。見ての通り、壊すのも直すのも得意な専門家さ。元は第7技術部で『鉄の処刑場』なんて呼ばれてた技術少佐って肩書きだけど、今はただの『塔の居候』ってとこかな」
その言葉を聞いたユウナが、目を丸くして彼をまじまじと見つめた。
「……ドラゴ少佐? もしかして、あの『鉄の処刑場』……実験兵器を何百体も造ったっていう……?」
「半分は事実、半分は尾ひれさ。まあ、生き残った奴は少なかったけどな」
ドラゴは愉快そうに肩をすくめる。
「俺の評判なんてそんなものだ。生体と機械の境界を曖昧にする技術屋なんて、軍じゃ異端児どころか呪われた存在さ。……まあ、あそこの『管理職』たちに比べれば、俺なんて可愛いもんだろ?」
ユウナは背筋を正し、今度はドラゴの傍らに立つ少女に視線を向けた。 アラという名のその少女は、驚くほど華奢な身体をローブに包んでいたが、その瞳には魔導工学の真理を見通すような、冷徹で鋭い光が宿っていた。長く伸びたプラチナブロンドの髪が、回廊の気流に逆らって揺れている。
彼女はフードを深く被り直すと、冷たい口調で淡々と続けた。
「私はアラ。魔導工学の学位を捨てて、塔の演算回路をハックして回る『バグ』みたいなもの。翼を奪われた鳥が、空を飛ぶ方法をシステムに求めてるだけ……。だから、この塔の最上階で待ってる『ホスト』っていう究極の演算対象には、ちょっとした興味があるのよ」
そう言うと、アラは淡々と指先を鳴らした。 パチン、と乾いた音が響くと同時に、彼女の周囲の空間に幾何学模様の魔法陣が幾重にも展開される。 複雑に組み替わる魔法陣の光に従い、回廊全体に散らばる浮遊足場の移動軌道や重力の干渉軸が、青白く鮮やかに可視化された。
「三十秒後に左側の床が反転する。踏み外したくなければ従って」
「……便利だな」
カイエンが魔眼を納め、小さく呟いた。 複雑な演算回路の解析コストを省けるのは、この狂った塔の中では大きなアドバンテージだ。
「面白い」
カイエンは冷徹に言い放つ。
「異端の少佐に、翼を捨てた魔導師。……塔という墓場には、似合いの面子だ。俺はカイエン。……お粗末な死に方さえしなければ、最上階まで連れて行ってやる」
「……私の名前はユウナ。あんたたちの計算に邪魔な『変数』として、最後まで付き合ってあげるわ」
ユウナもまた短銃剣を握り直し、凛とした声で宣言した。
四人の視線が交錯する。
四人の目的は違う。 過去も、信じるものも、歩いてきた道も違う。
それでも、この塔の頂を目指すという一点だけが、彼らを結び付けていた。
即席の同盟。 互いを信用したわけではない。 ただ、生き残るために背中を預ける。
その程度の関係で十分だった。
「行くぞ。遅れるな」
重力の歪む回廊へ足を踏み出しながら、カイエンは振り返りもせず告げる。
「俺の計算を狂わせるような死に方をしたら――容赦なく解体する」
皮肉とも忠告ともつかないその言葉に、ドラゴは「ハッ、冷てえねぇ!」と豪快に笑い、アラは興味なさげに肩をすくめ、ユウナは呆れたように小さく息を吐いた。
こうして、奇妙な四人の塔攻略が始まった。
本日も『灰の監視員』をお読みいただきありがとうございます!
塔の最上階を目指す四人が、ついに一つにまとまりました。
ドラゴ少佐が語った「生体と機械の境界」を曖昧にする禁忌の改造……その詳細や彼が過去に行っていた実験については、また別の機会にじっくりと描いていこうと思います。彼が軍で何を成し、何を失ったのか。その辺りも物語の重要な鍵になっていきますので、ぜひお楽しみに。
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次回更新は明日20時です!お見逃しなく!




