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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
天の柱編

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EP9 塔の心臓部・浮遊回廊

「三秒後に回転する! 右へ飛べ!」


カイエンの鋭い声が回廊に響く。 直後、足元の半透明なプラットフォームが『キィン』と甲高い機械音を立て、激しい駆動音とともに九十度垂直へと傾き始めた。


下は無限の雲海と奈落。落ちれば一溜まりもない。 だが、ユウナは一切の躊躇なく跳躍した。倒れゆく足場の側面を強く蹴り、浮遊する隣の岩塊へとしなやかに着地してみせる。


「くっ……! 攻撃の手を緩めないで!」


対岸のプラットフォームに降り立った巨躯――『守護機兵アーケイン』が、右腕の爪で壁面の導管を無理やり引きちぎった。 太い導管から溢れ出る濃密な青い魔力を、アーケインの巨大な躯体がゴクゴクと脈打つように吸収していく。


直後、胸部の中央に集約された魔力が、禍々しい赤色に変色した。


「……右。」


小柄な少女が、フードの奥から短く言葉を零した。


「二秒。……来る。」


「分かってる!」


アーケインの胸部から、空間を焼き切るほどの極太の巨大レーザーが放たれた。 照射された光線は回廊の結晶床を瞬時に溶かし、浮遊する巨大なプラットフォームごと叩き割っていく。


さらには破壊された岩盤の破片や、周囲に漂う赤く変色した魔石の群れが、巨大な質量兵器となって凄まじい速度で一行へ飛来した。


「ハッ! 豪快なこったな!」


ボロボロの白衣を纏った男が、腰から展開した巨大なレンチ型アームを振り回し、飛んできた岩塊を豪快に叩き割る。戦いながら、男は呆れたように大声で怒鳴り散らした。


「だがな、その配線は古いんだよ! 補給経路を剥き出しにしてチャージするなんて、帝国の設計は本当にセンスねぇな!」


「いや……違う」


破片を魔剣で払い飛ばしながら、カイエンが冷徹な魔眼で敵の内部構造を透かし見た。


「これは旧帝国式第七演算基盤だ。正面の胸部炉は囮に過ぎない。エネルギーの本体は、左壁の予備回線にある」


元・最高監査員としての圧倒的な知識と分析力。カイエンは瞬時に防衛兵器の偽装を見破り、最適解の弱点を導き出していた。


「足止めなら任せて!」


ユウナが前に躍り出た。 かつてカイエンの背中に隠れるだけだった少女は、今や自律した一人の騎士として戦場を観察していた。


「アーケインの右膝……過給を始めた! 導管が露出したわ!」


ユウナは新調された短銃剣を水平に構え、過給回路を極限まで励起させる。


「今よ……っ!」


バン――ッ!!


放たれた魔導弾が、精密な計算のもとで左壁の予備回線を寸分違わず撃ち抜いた。 炸裂する衝撃波。アーケインの魔力供給が途絶え、巨大な右腕の爪が力なく垂れ下がる。


(……成長したな)


カイエンは微かに口角を上げると、影のように地を滑り、アーケインの懐へと肉薄した。


「解体する」


黒閃を描く魔剣の一閃。 予備系統を撃ち抜かれ、防御障壁を喪失していたアーケインの胴体が、斜め一直線に切断された。 巨大な金属の巨躯が、ガラガラと音を立てて奈落の底へと崩れ落降していく。


激しい戦闘の余韻が残り、回廊に一瞬の静寂が訪れた。


ユウナは肩で息をしながら、崩落したアーケインの装甲の破片を拾い上げ、不思議そうに眉をひそめた。


「ねえ、カイエン……これ、なんだか帝国製じゃない気がする。装甲の刻印も、魔導回路の組み方も、ハイルお兄様たちの装備とは全然違う……」


「……あぁ。もっと昔のものだ」


カイエンは落ちていた金属片を擦り、冷たい表情で答えた。


「帝国は、この地に元から存在していた古代の『遺物』の上に、自らの欲望を重ね塗りしたに過ぎない。この塔の深部は、帝国の技術すら超えた領域だ」


二人が言葉を交わした、その時だった。


――ゴゴゴゴゴ……ッ!!


突如として、塔全体が不気味に震動し始めた。


回廊を覆う無数の魔石が一斉に、怪しい紫色へと変色していく。 遥か上層の闇から、地鳴りのような重厚な『鐘の音』が重く響き渡った。


『――緊急事態発生。第1防衛網の損壊を確認』 『――第2防衛機構、起動。システム・オーバーライド』


無機質な機械音声が空間全体に響き渡る。 壁の導管がまるで血管のように激しく打脈し、周囲の空間そのものが巨大な生き物の臓器のように脈打ち始めた。


敵を排除したことで、この塔という名のシステムそのものが、外敵を絶滅させるために「真の姿」を現し始めていた。


「チッ……塔全体が一つの生命体みたいに反応してやがるな」


白衣の男が嫌そうに首を振る。


「……鬱陶しい」


フードの少女がぽつりと呟いた。


緊迫した状況の中、ユウナは新しく仲間となった二人へと向き直り、小さく頭を下げた。


「ふたりとも、助けてくれてありがとう」


「ハッ、礼なら飯でいいぜ。上等な肉と酒な」


白衣の男が大雑把に笑うと、フードの少女は冷ややかな目でそっぽを向いた。


「……いらない。お腹空いてない。」


「行くぞ。無駄口を叩いている時間はない」


カイエンは温度差のあるやり取りを一蹴し、静かに次の階層の扉へと歩み寄った。


崩れ落ちたアーケインの残骸から回収した、蒼く光る『アクセス・クリスタル』。カイエンはそれを門の中央にあるスロットへと深く突き刺す。


チィィン……


電子音が響き、スロットの周囲に光の文字が走った。


『――アクセス認証完了』 『――管理者権限(管理者ID)を確認中……』


カチッ、と重厚なロックが外れる音が聞こえた。 だが、その直後。


『――Error. Unknown Administrator(エラー:未知の管理者を検出)』 『――現在のシステム権限は、最上階の優先ノードによって占有されています』


赤色のノイズが走り、警告表示が虚空に浮かび上がる。


「……何だ?」


カイエンは眉をひそめた。


アクセス・クリスタルは正しく機能した。だが、システムはすでに『何者か』によって上書きされ、管理者権限が書き換えられていた。


帝国でもなく、防衛プログラムでもない。 自分たちよりも先に、誰かがこの最上階へと到達し、塔のシステムそのものを握っている――。


「カイエン……これって……」


ユウナが不安そうにカイエンの顔を見上げる。 カイエンは無言で魔剣の柄を握り直し、開かれた暗い扉の先を見つめた。


「……行くぞ。誰が待っていようと、やるべきことは変わらない」


不穏な予兆を抱えながら、四人の影はさらなる深部――「神の領域」と呼ばれる最上階へと向けて踏み出した。

本作をお読みいただきありがとうございます!

章のプロットは既に完成しており、毎日更新で章の完結まで走り切る予定です!

ミリタリーとハイファンタジーの融合、そしてキャラクターたちの戦いの行方を最後まで見届けていただけると嬉しいです。

「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価ボタンで応援をお願いします。毎日の更新の励みになります!

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