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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
王墓編

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EP103 聖光の騎士

ヴァルドが遺した「王国軍師の徽章」の温もりを胸に、カイエン、アイフェリス、マキマ、そしてヒナの四人は、遺跡のさらに奥深くへと歩みを進めていた。 氷が解け去った冷たい石廊下を通り抜け、やがて目の前に現れたのは、これまでの通路とは明らかに規模の異なる巨大な鉄扉だった。


カイエンが重い扉を押し開けると、そこに広がっていたのは、まるで巨大な聖堂を思わせる荘厳な大広間だった。 天を仰ぐほどに高い天井。左右に立ち並ぶ太い石柱。そして、正面の壁一面には、色褪せ、所々が欠け落ちた巨大なステンドグラスが嵌め込まれていた。 埃の舞う薄暗い空間の中、そのステンドグラスの隙間から、一筋の寂しげな自然光が斜めに差し込み、広間の床を白く照らし出している。


その光の落ちる、広間の中央。


一人の騎士が、そこにいた。 彼は巨大な両手剣を冷たい石床へと深く突き立て、その柄に両手を添え、静かに祈るように片膝をついていた。 まるで、数百年の歳月をその姿勢のまま、ただひたすらに待ち続けていたかのように。


カイエンたちが警戒しながら、ゆっくりと足音を殺して近づく。


静寂が、聖堂のような広間を支配していた。彼らの息遣いすら吸い込まれていくような、張り詰めた静けさ。 ヒナもまた、その場のただならぬ空気に息を呑み、カイエンの背中に隠れるようにして前方を見つめていた。


やがて――。


カラン、と、静寂を引き裂くように甲冑の鳴る硬質な音が響いた。


祈りを捧げていた騎士が、ゆっくりと、しかし確かな意志を持って立ち上がる。 その瞬間、奇跡のような光景が起こった。それまで色褪せ、朽ち果てていた壁のステンドグラスが、まるで内側から命を吹き込まれたかのように、淡く、神聖な輝きを放ち始めたのだ。


差し込む光が強さを増し、立ち上がった騎士の全身を眩しく照らし出す。


そこに立っていたのは、王国最強の騎士らしい、圧倒的な貫禄を纏った男だった。 年齢は四十代前半ほど。身長は優に百九十センチメートルを超え、純白の甲冑の上からでも分かるほど、強靭に鍛え抜かれた体格をしている。 後ろで一つに束ねられた長髪は、差し込む光を浴びて金色に近い輝きを放ち、短い顎髭を蓄えた厳格な顔立ちには、いかなる妥協も許さない強固な意志が刻まれていた。 そして、その切れ長の双眸――黄金色に澄んだ瞳が、静かにカイエンたちを射抜く。


彼が身に纏うのは、純白のフルプレートアーマー。 その縁には美しい黄金の装飾が施され、胸元には王国の紋章が、肩当てには五騎士の紋章が刻まれている。 しかし、その胸当ての中央だけが、何かに激しく引き裂かれたかのように、大きく斜めに割れ、痛々しい傷跡を晒していた。 それは、かつて彼が「弟子を守れなかった日」に負った傷。数百年という永きにわたる時の流れの中でも、彼が自らに課した戒めのように、決して修復されることなく残されていた。


背中に羽織った純白のマントは、裏地に鮮やかな深紅が使われている。それは王国への絶対的な忠誠を示す色。だが、その裾は激しい戦火を潜り抜けてきた証拠に、所々が黒く焼け焦げていた。


男が、床に突き立てていた大剣をゆっくりと引き抜く。 《聖剣・ルミナス》。 黄金に輝く美しい両手剣。その鍔は、大きく羽を広げた天使の翼を模しており、柄頭には王家の象徴である大粒の宝石が、未だ失われぬ魔力を湛えて埋め込まれている。 剣が床から引き抜かれるたび、キィン、と澄んだ鐘の音のような美しい残響が、聖堂の隅々にまで清らかに響き渡った。


さらに、驚くべきことに、彼の周囲には、まるで呼吸に合わせるかのように、キラキラと金色の光の粒子が絶え間なく舞い踊っていた。 それは、発動された魔法の残滓などではない。 彼の魂そのもの――王への、そして国への、果て無き忠誠心が具現化した、奇跡の光だった。


第四騎士『光の騎士 アルディウス』。 かつて王国近衛騎士団長を務め、「聖光の騎士」と称えられた、王に最も近い場所で剣を捧げた男。


その神聖で、あまりにも圧倒的な存在感を前にして、マキマは息を呑み、アイフェリスはただ呆然と立ち尽くした。ヒナは、その光の眩しさに細めるように目を見張り、その圧倒的な気配に体が震えるのを止められなかった。 カイエンの魔眼でさえも、その光の奥にある底知れぬ魔力の奔流に、一瞬だけ揺らいだ。


彼らの脳裏に、共通する一つの畏怖が浮かび上がる。


(まるで……神様だ。)


目の前に立つ存在は、もはやただの亡霊でも、バグに侵された怪物でもない。 数百年経っても色褪せることのない、絶対的な「忠義」そのものが形を成した、不可侵の具現体であった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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