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64. 隠遁した剥製師 2

64. Reclusive Taxidermist 2 


「ほらご覧、ユリア。今日も沢山稼いだんだ。お前の為にだよ…頑張ったんだ。」


「これで、今度はお前に、綺麗なお洋服を買ってやれるねえ。」


「お前には、どんな服が似合うんだろう?生憎、俺にはそういうセンスも無えし、自分で作るような腕も持ち合わせてねえ。ああ、一緒に買いに行けたら、試着の一つや二つ、してやれるのになあ…」


「でも心配するなよ、ユリア。きっと良いものを見繕って来てやる。」




カランカラン…


「ひっ…!?」




「へ、へへへ…今日はやけにお客さんが多いと思ったら、また旦那でしたか…」


そう言って、男は隣に侍らせていた剥製の裸体を慌てて垂れ布で覆う。


「人前に出さない方が良いと、警告してやったはずだが?」


「こ、こんな店、旦那のような物好き以外、誰も気やしませんで…へへ…」


「不愉快だから、私の目の前にそいつを出すなと言っているのだ。」


愚鈍な奴め。


「で、ででですが、旦那は、私の作品を、好きだと言ってくださった。そうですよなあ?」


確かに言った。私と同じ感性を持ち合わせているかも知れないと、初めはそう期待した。

しかし今や、私の美学を完全に理解してくださるお方と巡り会えたのだ。もはや運命としか思えない巡り合わせによってだ。最早お前の趣味など、気色の悪い亡霊としか思わん。



「そ、それで、どうされやした?忘れ物でも、しやしたかい?」


「……?」


私は、カウンターに並べられている銀貨と、それを咥え込んでいたオモニエールに目をやった。

客から見えるところで、卑しいことだ。尤も、此処に物好きな客を除いて、人ひとり来るはずも無いが。

勘定の途中、つまり。


ついさっき、お買い上げがあったのだ。こんな店に。

オモニエールを摘み、目の高さへ拾い上げる。


「ああ…」


家の者か?いや、違うな…使用人が、使うようなそれではない。


街を闊歩する中で、無意識に友好的な表情が張り付いてしまっていたのだろう。私は店主に対しても、面の厚い微笑みを投げかけた。


「きちんと、お前のはたらきに見合った分だけの金を支払っていたか、気になってしまったものでね。」


「そいつはありがてえことで。それとも、あと2頭の催促ってことですかい?」


「ふっ…そんなところだ。」


誰かが、既に一頭の完成品を手に入れている、と。

目星は簡単につくが…これも、神様の思し召しの通りなのか?


まあ良い。どう言うつもりか知らないが、友好の証として一つぐらい、くれてやるとも。


私は腰元に結え付けていた金貨袋を自分も外すと、それを無造作に店主の前へ放り投げた。


「おほほっ…こりゃあっ…!」


「前金ではない。完成品に対して、これの3倍払ってやる。だからすぐに取り掛かれ。何日で出来上がる?」



「も、もうすぐ腐食剤が乾きますんで、そこから毛皮を張り直しやす。それが丸一日かかるんで…そうですねえ、今週末には、もう一つ、ご用意できるかと。」


「明日にまた来る、両方とも用意しておけ。」


「へっへへ…相変わらず人遣いが荒いですぜ?旦那。」


「あと幾らせびれば気が済むんだ?」


「そ、そういう問題じゃなくて、こっちも、1個ずつ丁寧に仕上げたいって言うか…」


「一体誰のおかげで、お前が屍体の愛撫を続けさせて貰えているのか、分かってそんな口を聞いているのだろうな?」


「う、うう…」


猟奇的な趣味を咎めずにやっているのだ。いつでも犯罪者として、消されるべき人間だと言うことを忘れるなよ。


「明るみに出す必要もない。」


捕えることは、私の範疇では無いが、罪状の密告ぐらいはしてやれる。そして領地外であっても、彼女の職務は十分に及ぶ。


「で、でもまだ、目が届いてない!ほんとなんですっ!ガラス細工を発注してたところの職人が、火事に巻き込まれただかなんだかで、亡くなっちまったらしいんだ!」


「あれは、一個一個、サイズを頭蓋に合わせにゃならんから、特注品で…他を当たってみてるんですが…」


「言い訳のために、でっち上げているのでは、あるまいな?」


「嘘じゃないっ、信じてくだせえ旦那ぁっ!」


「…その店は、何処にある。」


「だ、第3管区にある店でさあ。ちょ、直接掛け合ってくれるんで…?」


「…それが手に入れば、明日には出来上がるのか?」


「寝ずにやれば、な、なんとか夜には…」


寝るつもりだったのか。怠惰な奴め。


「良いだろう。ガラス細工は、明日には送ってやる。」


「だ、旦那、その、も、もし間に合わなかったら…?」


「知ったことか。お前は今、お前の寿命を稼ぐことだけを考えていたらどうかね?」


「へ、へい…仰る通りで…」




「時に、店主どの。尋ねたいことがあるのだが。」


散々脅してやったが、そうでもしないと、此奴の仕事はいつも遅い。ちょっと急かすぐらいでは、いつも足りないのだ。

身も幾分かは引き締まったことだろう。


「近頃、ヴァイキングの輩におかしな動きは、無かっただろうか。」


隠遁した偏屈卿に、そんなことを尋ねても仕方がないのではあるのだが。


此奴が最初にしょっぴかれたのは、河川敷で屍体漁りをしていたところを、のこのこ地下牢の入り口へ迷い込んでしまった時。そして2度目は、今でこそ徒党のせいで白昼堂々と執り行われているが、人身売買の取引の現行犯。

供述は、何だったかな、妻の鎖骨が折れてしまったので、替えが必要だった。かな?

とにかく、そうした裏での取引に、彼らが根を張っている可能性は十分に考えられたのだ。これから叩くに際し、そうした情報は、狼殿との選択肢を広げるために、できる限りとっておきたい。


「そ、そうですねえ…最近は、びっくりするほど大人しいですぜ?嵐の前の静けさって言うんです?」


店主は、私が投げかけた笑みに対する報復のつもりか、歯の抜けた歪んだ表情をこちらに見せる。


「噂には、聞いてますぜ?旦那。巷じゃ、英雄が現れたって持ちきりだ。」


「お前に、噂話ができる相手が、妻以外にいたとはな。」


「へへっ…情報交換が出来る相手と繋がっていると思って、あっしに聞いたんじゃ無いんです?」


「減らず口を。まあ…今のはこちらの程度が低かったかな?」


「ですが、異常なぐらい、静かなのは事実です。こんだけ静かなのは、それこそ彼奴らがやってくる寸前、そのとき以来ですぜ?」


「だからまるで、蜂起の時を待っているような感じでさあ。」


……。


「旦那も、十分注意なすって下せえ。彼女のための、せっかくの食い扶持が消えちまう。」


「案ずることはない。私には、神の加護が、憑いているのだ。」


マントを翻すと、扉に向かって足音も荒く突き進む。安い床板が、ギシ、ギシと悲鳴をあげていた。


「邪魔をしたな、仕事に戻ってくれたまえ。」


どうやら、世界の美しさばかりを楽しんでいられるほど、暇をさせてはくれないらしい。

次にあのお方が姿を現す前に、盤面を整えておかなければ。





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