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乙女ゲームは分からない!  作者: 金鹿
第二章:王立フォルミニス学院一年生
88/181

2-57

いつもお立ち寄りありがとうござます。

始めましての方もありがとうございます。


まずはブックマーク追加ありがとうございます! 増えるのは本当に嬉しいです!

(なので出来たら外さないで……んんっ、はしたないですね)


昨15日の昼過ぎに、人物紹介を投稿しました。第50部分:2-27の後になります。

よろしければそちらもご確認頂きつつ、本作をお楽しみ頂けると幸いです。

だからと言う訳では無いですが、愛称が増えております。次は第100部分で人物紹介更新しようかと。


次回更新は18日か19日になります。それと、秋の狩猟大会は今回含めて後2回と言いましたが……サングラスの似合う亀の甲羅を背負ったお爺ちゃんじゃないですが「まだまだ続くのじゃよ」です。

(一応倍増くらいでなんとかしたいと思っています)

 ひと通り上位者への挨拶を済ませた女子学生が、いつの間にやら見覚えのある顔同士で見覚えのある集まり方をしていて、俺の所在はすっかり無くなっていた。同じテーブルにいるのに、なんだろうこのボッチ感。

 でも仕方ないよ。そりゃそうだよ。俺がこのテーブルにいる方がおかしいんだから。

 辺りを見回せば少し離れたところにいる”王太子閥”の周囲には上級生を中心に人だかりが出来ていて、マリー達の周りには一年生を中心として集まっているように見えた。マリーの近くには宮廷派に限らず侯爵家や伯爵家のご令嬢達が、ユージニ達の周りにも親の派閥の影響を受けたご令嬢達が集まっているが、要するに今の”王太子閥”に近づけない何がしか理由のある子が集まっているんだろう。それは残酷なまでにはっきりと分かる光景だった。

 そういう子の受け皿としての”第二王子閥”と考えると、マリー達は完璧に対応している。

 ただしヒルデガルドの側は異質だ。ゾンネヴァルトから付き従ってきた少女達が、主を守るように取り囲んでいる。彼女達はヒルデガルドに向けられるであろう悪意から守ろうとしているんだろう。

 しかし、むしろそれが彼女を孤立させている事に気付いていないように見えた。

 それなのにヒルデガルドは、まるで他人事の様に落ち着いた仕草でティーカップを傾けている。

 基本的に、”王太子閥”と”第二王子閥”が共存共栄の道を進んでいる事が確認できて、ディアフルーレ貴族としては安心なんだけど、だからと言って隣国の宰相令嬢を放っておくのはどうなんだろう。

 ”ぼっち”な空気に周囲の人数は関係無い。初対面の挨拶は一応済ませたし、今も同じテーブルについているから、下位家格の俺から声を掛けても失礼にはならないはずだ。

 そう思った瞬間、音も立てずにゾンネヴァルト女子の壁が開いて、銀髪を煌めかせながら楽し気な色を浮かべた深いルビー色の瞳が静かに俺を見据えていた。


「ねぇアリシア様? よろしければ少しお付き合いくださいません?」


 ヒルデガルドがそう言うと、ゾンネヴァルトの女子学生は一様にぎょっと驚いていた。

 ヒルデガルドの微笑み顔に悪意は感じられないものの、今もその瞳は冷えていた。俺の返事も確認せずに立ち上がったヒルデガルドは優雅に歩き出した。

 こうなると着いて行くしかない。「畏まりました」と返事をしながら立ち上がると、ユージニとエミリーが心配そうな眼を向けてきた。いや出来ない事は分かってるけどさ、そんな顔するくらいなら止めてくれよ。まぁ、男子学生は居ないから乱暴とかされる事は無いか。

 テーブルが設えられたエリアから離れるように歩みを進めるヒルデガルドについていくと、後で戻って来た男子学生と一緒にダンスを踊る広く確保されたスペースに入って行った。遠巻きに警護に立つ騎士が気配を察して振り向いたけど、到底声の届く距離じゃない。

 これはあれか、マリー達がいると話せない事があるって事か?

 歩きながらヒルデガルドはどこかから取り出した扇子で口元を隠すと、試すような視線を向けながら言った。


「これでゆっくりとお話が出来ますわね。そうお思いになりません?」


 こくりと頷き返すと、ヒルデガルドは満足そうな笑みを浮かべて続けた。


「アリシア様はお花はお好きかしら?」


 おや、普通のお喋りっぽいぞ。

 ……な訳ないよな。俺は「ええ、好きですわ」と答えてから一層の気合を入れた。

 初めはどの季節が好きかと聞かれ、それに答えるとあの花はどうか、この花はどうかと質問攻めにあった。話を聞いていると、ヒルデガルドは季節を問わずセージやラベンターのように小さな花を沢山つけたり、ヤグルマギクのような小ぶりの花が咲き乱れるものが好みだと分かった。

 正直言うとちょっと意外だった。見た目の印象から派手なバラや大振りのユリが好きそうだと思っていた。


「アリシア様はフィングシテンはお好き?」


 は? フィングシテン? 何それ聞いた事無いんだど。

 表情を変えたつもりは無かったのに、俺の顔を見たヒルデガルドは何か気付いて言い直した。


「あぁ、ディアフルーレの言葉だと、そう、ピヴォワですわね」


 ピヴォワ……ああ、牡丹に似たあれか。大きめの花で色も赤やピンク、紫と沢山あるし、花弁もレースを束ねたような物やティッシュペーパーをクシャッと丸めたような物など結構種類がある。元の世界と同じで、花の終わりがボタッと落ちるところもよく似ている。うん、別に嫌いじゃない。


「今の時期ですと、ゾンネヴァルトの王城では紫のピヴォワが美しく咲いているとぞんじます」


 あぶねぇな!! 会話のポイントを後出しとかやめろよ! 素直に返事しそうになったぞ!

 えーっと……、ヒルデガルドの発言を解読すると……ピヴォワは高貴さとか意味していたし王城って言った事から誰か個人を暗喩しているんだろう。そんで紫だろ……。

 紫……髪の色か瞳の色か? 結構派手な人多いんだよな。誰の事……いやゾンネヴァルトの王城って留学生のヒルデガルドがわざわざ言うって事はつまり総合すると……え、ウィルヘルム王子を好きかって事!?

 いや、無いわ。無いよ。ある訳ないじゃん、あんなの。

 あんなんって言うのも相当失礼だけど、どうしよう。あり得ないって笑い飛ばすか?


『……根本的にはウィルたん大好きの寂しがり屋って設定されてるわ』


『……それ切っ掛けでヒルダが本性を現すようになるんだし……』


 エミリーから聞いたヒルデガルド情報が頭の中で駆け巡る。

 自分が好きな男の子を「無いわー」なんて言ったらこき下ろしてるのと一緒だろう。笑い飛ばすのは無しだな。これ切っ掛けで本性現わされても困る。

 しかしこのやり取りで時間をかける事は絶対に出来ない。何を考えているのか邪推されてしまう。まさか「そんな心配笑い飛ばそうとしたけど怒られそうだから止めた」と説明する訳にもいかない。


「ピヴォワの花は好きですわ。特に赤や深いピンク色のピヴォワは見るだけで華やかな気持ちにさせてくれますもの」


「そう。わたくしは特に紫のピヴォワが好きなのですが、アリシア様は違うのかしら?」


「いえ、嫌いではございませんが、他の色の方が好きですわね」


 俺の一言一句を咀嚼するように聞くヒルデガルドの様子は酷く緊張したものだった。

 もうね、本当にね、何の圧迫面接なんだと。

 しかしこの苦境は何とか乗り越える事が出来たようだ。ゆっくりとヒルデガルドが緊張を解していくのが分かった。


「そう、ですのね。何だかわたくし心苦しいわ」


「いいえ、滅相もございません。好きなお花のお話をしただけですのに」


「そう。そう言って頂けるのね」


 ヒルデガルドが初めて朗らかな笑みを見せると、周囲を囲むゾンネヴァルトの女子学生もほっとしたような笑みをを浮かべて俺達を見ていた。

 『きのこの丘』の由来や好きなお菓子の話をしながらマリー達のいるテーブルに戻る。話を聞いているとゾンネヴァルト王国はやっぱりドイツがモデルだ。彼女は、冬になると楽しみになるのがストレンというお菓子だと楽しそうに話していた。多分シュトーレンの事だろう。

 うん? という事はこの世界にもクリスマスがあるのか?

 うーん、分からん。


「ねぇアリシア様。もしよろしければ、わたくしとお友達になって頂けません?」


 ゆっくりと歩きながらゲーム世界にもクリスマスが有るのか無いのか問題を考えていると、不意にヒルデガルドが言った。俺は急なフリに驚いて、はぁ?と気の抜けた顔を向けていたと思う。彼女の周囲にいるゾンネヴァルトの女子学生は主の発言を注意すべきか否か悩むような顔をしていた。

 しかし当のヒルデガルドは、俺の顔が面白かったのか扇子で口元を隠してクスクスと笑っていた。

 何か考えている事があるのかも知れない。毒食わば皿までとは言うけど、出来れば毒も皿も食いたくない。でも俺の立場で断る事も出来ない。仕方ない。受け入れるしかないか。


「光栄にぞんじますわ、ヒルデガルド様。僭越ではございますが、努めさせていただきます」


 そう答えると今度はツボに入ったのか、貴族令嬢としてはちょっとはしたないと叱れるレベルの声を立てて笑ったヒルデガルドは、諫言しようする周囲を手で制して言った。


「嫌だわアリシア様。お友達とは務めるものでは無いでしょう?」


「あ……。はい、仰る通りにございます」


 言われてみればそうだわ。その通りだ。十四歳の少女に指摘された気恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じながら恐縮していると、ヒルデガルドが言った。


「ふふっ。学院に戻ってからも、よろしくお願いしますわね」


 微笑みながら俺に向けられている瞳からは、剣呑さも爬虫類のような冷たさも消えていた。



 テーブルに戻った俺達の様子を見たマリー達は一様に安堵した表情を浮かべていた。

 まぁね、隣国の王子の婚約者候補にいきなり名指しで呼び出された子爵令嬢なんて、どう考えても生贄コースにしか見えないよな。だけど心配かけたのは俺じゃないぞ? ヒルデガルドのせいなんだぞ?

 誰もが当人たちのいるこの場で話を聞く事が出来ずに、ほんの少し焦れたような雰囲気になった。

 そんな雰囲気を醸し出されても、「ねぇねぇ聞いてよ。さっきさぁ……」などと、俺から話し出す事は出来ない。そんなの元の世界でもする訳にはいかないのに、ゲームとは言えお貴族様がいる世界じゃ禁忌中の禁忌に決まっている。

 だからすっとぼけてお茶を飲んでいると、リュシーとコレットが近づいて来たのが分かった。俺の視界の端で佇む姿は、家格相応の礼儀を完璧に守ったものだ。だからと言って同格のコレット相手に偉ぶる事は出来ない。

 マリー達が俺の視線の先を追った事を確認してから、ほんの小さく咳払いをして注目を集める。微笑みながらゆっくりとテーブルについているマリー達に視線を送る。誰一人不快だという顔はしていない。

 すっと立ち上がった俺は中座の挨拶をする。


「皆様、少々中座させて頂きますわ。それではまた、後ほど」


 腰を落としてペコリと会釈すると、皆微笑んで「ええ」と送り出してくれた。視線に僅かな温度差はあったけど、多分俺とヒルデガルドのやり取りが気になっているんだろう。

 その辺いちいち説明しなくて済むのは本当に助かる。今日とは言わないけど、後でちゃんと説明しないといけないな。特にユージニとシルヴィには。

 うん、あの二人の視線がちょっと気になった。どっちもやけに心配してくれているんだけど、俺、そんなにダメな感じなんかな……。

 リリエンヌを従えながらリュシーとコレットに近づく。二人とも微笑んでいるけど、やっぱり心配する眼を向けて来ていた。


「ごきげんよう、リュシー様、コレット様。よろしければあちらでお話し致しませんか?」


 二人とも間髪空けずに了承してくれた。俺はお礼を言いながら、逃げているとは思われないギリギリの速さで一年Aクラス女子(”第二王子閥”)のテーブルから遠ざかった。

 小分けになったグループは大体四、五人くらいだが、三人組も決して珍しくない。貴族の節度を守った声量であれば隣のテーブルには届かない距離に配置されている空きテーブルの一つに俺達は座った。


「ありがとう、リュシー、レティ。本当に助かったわ」


 側仕えがお茶の支度を終えるやいなや、俺は二人に心から連れ出してくれた事にお礼を言った。するとリュシーは大きめに溜息を吐いて、レティは口をつけたティーカップを揺らさないように注意しながら皿に戻してから、二人揃って苦笑した。


「エルシーったら……。わたくし達、本当に心配していたのよ?」


「リュシーの言う通りよ? でも、やっぱりエルシーの事だから大丈夫でしたわね」


「うぅ……ありがとうぞんじます」


 言葉以上に伝わってくる二人の気持ちに感謝しながら、俺はやっと肩の力を抜いていいと言って貰えた気がした。

 こくりと一口お茶を飲んだ俺は、無意識の内に大きく息を吐き出していた。


「わたくし、どうしてヒルデガルド様がエルシーを連れてテーブルを離れられたのか、驚いてしまって……」


 俺の様子を見たレティが、同意を求めるようにリュシーに目を向けた。するとリュシーは大きく頷いてから言った。


「そうよ? レティがまるで恐ろしいものでも見たかのように慌てて走り寄ってくるから、わたくし一体何事が起きたのかと本当に驚いたのよ」


 俺がヒルデガルドに連れ出されれる様子は、端から見ても異様な光景だったようだ。そりゃそうだよな。いくら”光の属性持ち”とは言え、今まで接触の無かったヒルデガルドの後をトボトボと着いて行く様子を見たら、皆何事が起ったのかと驚いただろう。うん? トボトボ? 俺そんなに肩を落としてた?


「お相手がヒルデガルド様ですから心配は要らないと思っていても、やはり急な事でしたから、わたくしどうしたらいいのかと慌ててしまって……」


 右頬に手を添えながらそう言ったレティにはよほど衝撃だったんだろう。今目の前でリラックスしている俺を見て本心から安堵した言い方をしていた。あー、なんか本当にごめんな。お兄ちゃん君達の顔を見て本当に安心してるよ。

 あれ? ヒルデガルド様? レティはヒルデガルドと面識があるのか?

 ようやくそこに気付いた俺は、レティにヒルデガルドの話を聞いた。


「ウィルヘルム殿下とご一緒にディアフルーレにお見えになった時、わたくしもご一緒した事があるわ」


 さすが外務系! 頼りになる!!

 レティの話に寄ると、ウィルヘルム王子と一緒にヒルデガルドも来ていたそうだ。ただし……。


「ヒルデガルド様は一歳年長と言う事もあって、わたくし達子供よりも、お父様達()()がお相手をする事が多かったの」


 そっか。でもそうかもな。エミリーの話からしても、ヒルデガルドの立ち位置はかなり政治的なウェイトが大きい。本人の意思など欠片も介在していないだろう。

 要はディアフルーレの大人達もゾンネヴァルトの大人達と同じように、ヒルデガルドに接していたという事だ。ウィルヘルム王子という暴れん坊の幼獣に着けられた首輪であり、何かあればよく響く鈴という、少女に不釣り合いな重過ぎる役目だ。

 しかし当時何歳だ? 十歳? 十一歳? そうだとすれば婚約者候補になったばかりじゃないか。


『……ヒルダは一言で言うなら、ちょい病み策謀キャラね』


 そりゃ病むよ。病んだとして、誰がそれを責められるんだよ。

 エミリーの言葉と共に、俺はあの獲物を狙う爬虫類に似た、冷え切った深いルビー色の視線を思い出していた。


「ねぇエルシー? 大丈夫だったのよね?」


 リュシーが問い詰めるような気迫で、本気で心配していると険しい表情で聞いてきた。

 俺が学生の頃、こんなに心配してくれる友達はいたかな。ほんのわずかな時間なのに、これほど埒も無い事が頭に浮かぶのは、まだこの世界で生きている事を受け入れられていないのかも知れない。

 いや違う。こんなに本気で心配してくれる友達がいなかっただけなんだろう。この本気を受け流す事は出来なかった。


「ええ、大丈夫よ。ありがとうぞんじます、リュシー。本当にありがとう」


 なんとなく、謝罪じゃなくて感謝だなと思った俺はそのまま、するすると喋っていた。それを聞いた二人はほっと胸を撫で下ろして、ようやく本当に安堵していた。

 ありがたいな。こんなに心配してくれる友達がいるなんて、本当に有り難い。


「それなら良いのだけれど、ねぇ?」


 リュシーがそう言いながらレティの顔を見ると、レティは困ったような苦笑を顔に浮かべながら、しっかり頷いていた。

 あれ? 俺って信頼無い系?


「やだエルシー、そうじゃないのよ?」


「そうですわ、エルシー。ですから、そんなお顔なさらないでくださいませ」


 うん? 気付かない内に膨れっ面だったようで、二人は慌てて俺をフォローする言葉を重ねていた。気が付けば、彼女達の側仕えも愉快そうに満面に笑みを浮かべていた。

 はぁ、本当にこの子達には助けられている。

 気が付けば俺達は、示し合わせる事も無くお互いの顔を見てケラケラと楽しそうに笑っていた。

 そんな楽しいひと時を断ち切るように、何人かの学院職員が足早に走り回りながら大声で報せて回った。


「狩りに出ていた皆様がお戻りになります。皆様、お迎えの支度をお願い致します!」


 それを合図に女子学生の皆に緊張が走った。俺達もお互いに視線を交わして、秋の狩猟大会は漸く序盤が終わったのだと気合を入れ直した。 

貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。


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