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2020/02/22:誤字修正と一部加筆など。
大遅刻ですみません。多分次回更新で秋の狩猟大会は終わるかな……と。
次回は20日更新予定です!
コンゴトモ ヨ・ロ・シ・ク
リュシー達と別れた俺は一年Aクラス女子のテーブルに戻る。学院職員が触れ回ったからかガーデンテーブルが並べられたエリアは、出迎えの位置に戻る女子学生が足早に移動していた。その中にマルティーナの姿を見つけた。反射的に、ずっとエミリーの側にいたのかな? と、二人の仲の良さを思い出した俺は含み笑いを抑え込みながら移動する羽目になった。
既に二年Aクラス女子の姿は無くて、残っていたのは一年Aクラス女子だった。
ですよねー。いや正直なところを言えば、俺になんか構わずに先に行っててくれて良かったんだよ? 絶対そうはならないだろうと思ったから、俺もこうして急いで戻ってきたんだけどさ。
「お待たせ致しまして大変申し訳ございません」
腰を落として詫びると、マリーが代表して気にする必要は無いと答えてくれた。当然俺は座る事も無く、立ちあがった一年Aクラス女子の後を追う。さっきヒルデガルドとぷらぷら歩いていた広いスペースに行くと、広場の端から花道を作るように女子学生が並んでいて、ゴール地点にあたるところに二年Aクラス女子が立っていた。
マリー達に続いて会釈したものの、王太子の婚約者候補ジョゼフィーヌ嬢を筆頭に凛と背筋を伸ばして花道の先を見据えていた。こちらに一瞥もくれない。元の世界なら、イヤな感じねと言われかねない態度だが、ここではお高くとまってるんじゃなくて、事実家格が高いのだからむしろ当然だと言える。普段目に見えない貴族社会の階級差がはっきりと視覚できると言ってもいい。
改めてそういう世界なんだとしみじみ感じながら、Aクラス女子と一緒に並ぶ。Aクラスとしてはゴールから一番遠い場所に立って花道に目を向けると、スタート地点の学院職員が先触れを大声で告げた。
「まもなく男子学生の皆様が戻られます。お迎えのお支度をお願いぞんじます」
スタート地点に近い女子学生が腰を落とすとすぐに、男子学生の先頭が姿を現わした。その髪の色や風貌に全く見覚えが無いから、間違いなく上級生だな。そのすぐ後ろに見慣れた一年Aクラス男子の頭が見える。狩りから戻ったというのに獲物も持たず弓や槍と言った武器も持っていない。明るい顔で整然と行進している。
なるほど、このセレモニーは一種の疑似戦勝パレードなんだな。狩りに出た男子学生は戦って帰ってきたという体で隊列を組み行進しているし、迎える女子学生はキャーキャーと歓声を上げないもののにこやかな笑みを浮かべて迎え入れている。貴族の責務として領地と領民を守る、その心構えを身に付けると同時に式典の演習も兼ねているという所か。
そこに気付くと、秋の狩猟大会って色々とよく考えられていると感心する。
男子の行進が進むのに合わせて、女子学生は学年の違いもほぼ無く、皆実技服のキュロットスカートを摘み上げて腰を落とし歓迎している。
ん? キュロットスカート……? あぁっ!?
今更ながら女子学生を見直すと、今日は上級生もしっかりキュロットスカートを履いている。俺と同じ乗馬ズボン姿もいない訳じゃないが、春に比べると圧倒的に少ない。ヤバい。これはやっちまってる!!
今朝、乗馬ズボンを譲らないでいたらリリエンヌが困った顔してた訳だよ。リュシーとコレットに新しい実技服の感想を求めてたら困っていたのも、もしかしたら「なんで今日?」って意味で困っていたのか!? そう考えたらマリー達が俺を見て目を瞠ったのも……?
うわー……マジでやっちまってる。
慌てている間にも行列は近づいて来る。今着ている実技服を後悔しても仕方が無い。
色々気にはなるけど迷っている間にも男子学生の足音が迫ってくる。今は吹っ切ってとにかく挨拶だ。
上着の裾を摘み、片足を引いて腰を落とす。上背も少し曲げて頭の位置と一緒に視線を落とす。
丁度そのタイミングで、行列の先頭を進んでいた男子学生が左右に分かれシャルル・アンリ殿下達一年Aクラス男子が先頭に替わった。そのまま数メートル進むと彼らも左右に分かれて控えると、行列は更に一メートルほど進んで止まった。
「無事のお戻り、心よりお慶び申し申し上げます」
「ああ。皆が力を貸してくれた。大猟だった」
ジョルジュ・ロベール王太子を、婚約者候補のヴィヨンヌ嬢が出迎えの挨拶を交わす。定型文のやりとりが終わると、ジョルジュ・ロベール王太子が振り返って宣言した。
「さぁ皆、狩りの時間は終わった。今日を祝って踊ろう。そして獲物を分かち合おう」
「では王太子殿下、あちらへ……」
秋の狩猟大会も中盤を過ぎたとする宣言を聞いた学生は、一気に緊張を解して友達同士や婚約者候補と笑い合う雰囲気を感じた。。その間に二年Aクラスもヴィヨンヌ嬢が先導して、少し離れたテーブルへ移動して行った。
ゆったりを姿勢を戻すと、マリーはシャルル・アンリ殿下と、ユージニはジャン・ポールと、同じように他の二人もそれぞれの婚約者候補と楽しそうに話をしていた。視線を移すと婚約者候補なんだろう、上級生の男女の会話が聞こえた。
「こんなに列の前にいらっしゃるのなら、先に教えて頂きたかったわ」
「隠していた訳じゃないんだ。組み分けでたまたま先陣を賜っただけだから……」
「でも貴方が先陣の組だったなんて、わたくしも誇らしいわ。きっとお義父様やお義母様もお喜びになるはずですわ」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
将来を誓い合っているんだろう。人前だからさすがに抱き合ったりはしないものの、令嬢はうっとりとした視線を送っていた。
……おーおー、甘い雰囲気をモリモリと出してますな。
周りは婚約者候補のいる男女ばかりで、一人でいるのは俺だけだった。”ぼっち”の後は”ぽつん”かよ……。やってらんねぇなと思った俺が独り身仲間はどこにいるかと辺りを伺っていると、不意に声を掛けられた。
「やあ、アリシア嬢」
男の声で名前を呼ばれた事と、その声が一年Aクラス男子やマクシミリアン、ミュラ先輩と言った比較的近しい人のものでは無い事に驚きのまま振り返る。
そこにはざっくりと七三分けにしてトップと前髪はボリュームを付けて流した、夜の森を彷彿とさせるようなダークグリーンの髪に、そこに月明りが当たったように明るい青緑色の瞳を持つ青年が立っていた。
最後に会った時と雰囲気が変わっていたけどすぐに思い出した。アロイス・ド・モンリュージュ。財務卿モンリュージュ侯爵の次男で隠者と陰口を叩かれている男だ。
「モンリュージュ様、ご無沙汰しております」
驚いたままでいるわけにもいかず挨拶すると、アロイスも礼儀作法を遵守した礼を返してきた。
その所作は前回会った時のような調子外れのノリも、初対面の時のような言わされている感がなく、随分と洗練されたものになっていた。
はぁ、とりあえず滅茶苦茶頑張ったという事は分かった。
呼びかけもまともだし態度もおかしくない。なんだろうこの、新卒の後輩がぐっと成長したのを見た時のような軽い感動は。
顔を見ると、前回のように「言い切るのが目的」のような不思議な焦りや、その視線は何を探ってるの? とつっ込みたくなる熱を含んだ視線も無い。
初対面の時の上っ面だけ感も無い、翌朝の変なテンションも無く、落ち着いた様子の貴族令息。それが今のアロイスに対する俺の評価だ。
なんだろうな、なんて言えばいいんだろう。
立派になったね、アロイス。
「その実技服。一年生では珍しいが、とてもよく似合っていると思う」
うっ。
……今はそこに触れて欲しくなかった。
とはいえ、そんなのアロイスが知ってるはずが無いので、ここは褒められた事に感謝の礼をするしかない。
「ありがとうぞんじます」
するとアロイスは相好を崩して露骨に安堵の溜息を吐いた。
そんなに緊張していたのか? 驚いた顔を隠さずに向けると、照れたのか頬を赤らめたアロイスが言った。
「ああ、いや。皆に叱られてばかりでね。もう失敗出来ないと思っていたから……」
はにかみながら言う姿は十六歳としては少し幼く見えた。しかし、これまで異様なテンションの手紙や絡み方をしてきたアロイスと同一人物だとは思えない成長に、通信添削頑張ってよかったと自分の事のように嬉しくなった。
「アリシア?」
凄いね、偉いねと微笑み顔を向けようとしたその瞬間、リュシーに呼びかけられた俺はアロイスに軽く会釈して振り返った。
するとそこには、マクシミリアンを従えたリュシーとコレット、それにミュラ先輩が居た。女子二人はアロイスを見咎めるように険しい視線を送って来ていて、男子二人は訝しそうな視線を送って来ていた。
そうか、マクシミリアンとミュラ先輩はアロイスと会うのは初めてか。それなら俺が紹介してもいいだろう。こんなんでも財務卿の息子だ。知己を得るのは損にはならないはずだ。
「え? もしかして隠者?」
ちょーい! ダメでしょ! ミュラ先輩!!
あー、ほら、アロイス苦笑してるじゃん。
それから俺達は、二年Aクラスからも一年Aクラスからも程よい距離に離れたテーブルを占拠して、ほんの少し周囲の視線を気にしながらテーブルに着いた。改めてアロイスを紹介すると、マクシミリアンとミュラ先輩は恐縮しながら挨拶していた。ま、ミュラ先輩は自爆だからフォローするつもりは無い。
挨拶を終えると側仕えが淹れてくれたお茶の香りがふわりと漂った。
「アリシア嬢に友人を紹介して貰えるなんて、嬉しいよ」
言葉通り嬉しそうに言うアロイスに大げさだと言いながらカップを傾ける。その間にリュシーとコレットの様子を窺うと、二人もアロイスの変わり様に驚いているようだった。
「それにしても、モンリュージュ様がアリシア……様とお知り合いだったとは存じませんでした」
マクシミリアンが微妙な間を挟みながら言うと、アロイスは少し困ったように笑いながら答えた。
「よしてくれルフェーブル君。普段通りにしてくれないか?」
それを聞いたマクシミリアンは恐縮したものの、却って気詰まりすると言われて慌ただしく俺やリュシーに「いいの?」とアイコンタクトを送って来た。リュシーはそんなマクシミリアンに不承不承頷いて返し、俺はと言えばやり過ぎなきゃどうでもいいよと思いながらこくりと頷いて返した。
それを見ていたミュラ先輩は、アロイスに改めて謝罪してから言った。
「随分と前にいらしたのですね」
その意味が分からずにきょとんとした顔をしていると、俺の顔を見たアロイスは苦笑を漏らしながら答えた。
「組み分けのお陰で先陣にいたんだ。私も初めてだったから、随分と慌てたよ」
最後に俺に視線を送って来たけど、なにコイツ? あんまり変わっていないのか? 俺のプチ感動返せ?
俺の表情がくるくると変わるのを見ていたコレットが教えてくれた。
秋の狩猟大会で男子学生は、大きく先陣、本軍、後衛の三つに組み分けされるそうだ。この三つは役割が分かれていて、ほとんどの場合例外なく毎年その内の一つを経験するらしい。上位貴族でも王家、王族でも無い学生にとっては、先陣に組み分けされるのは運頼みではあるものの、大変な名誉だと言う。ああ、さっきの二人が盛り上がっていたのはそういう事か。
ただし、王家がいる年がその例外で、王家は本軍から動く事は無いらしい。
つまり王家が在籍する年は、王子と取り巻きは本軍固定となり、その分、他の学生がとばっちりと言うか帳尻合わせで組み分けが円滑にいかない事もあるそうだ。ちなみに軍務系は揃って先陣を希望するから、毎年調整が難航するらしい。
アロイスは過去二年、後衛だったらしい。後衛は獲物を後送したり矢の補充をしたりと、地味で目立たない役回りだそうだ。それでも自分は財務系貴族だから、それに不満は無いし去年は過不足無くやり遂げて、相応の達成感を覚えたと言う。
「今年は王太子殿下と第二王子殿下が在籍するから、もしかしたら三年連続後衛かと思っていたんだよ。それも一興かと思っていたら、まさか先陣とはね」
自嘲するように笑いながら言うアロイスには申し訳無いんだが、多分政治的な配慮だと思う。リュシーとコレットも俺の顔を窺っているから、察しが付いたんだろう。
何故かと言うと、花道を作る女子の立ち位置は学院職員が指定してきたし、行進してきた男子の行列も停止位置のすぐ側に婚約者候補のお相手がいたり、お相手のいない同士になるように調整されていたとしか思えない。
そうでなければ、一年の俺と三年のアロイスがあの場で偶然すぐさま出会うなんて考えられない。
しかしアロイス本人は先陣に組み分けされた事を素直に喜んでいる。そこに水を差す気は無いし、そんな事よりもどうして学院側が俺にアロイスを宛がおうとしたのかが気になる。
全然大丈夫じゃないじゃんよ! ギヨーム!!
内心の焦りを抑え込みながらお茶を一口飲むと、ミュラ先輩が言った。
「それにしても、モンリュージュ様の武名は存じておりましたが、あれほどとは存じ上げておりませんでした。どうか不明をお許しください」
「止めてくれミュラ君。たまたまだよ」
やけに畏まった言い方をするミュラ先輩にも驚いたが、これに応えるアロイスにも驚いた。俺だけじゃなくて同席しているリュシーとコレットも意味が分からず驚いていると、そんな俺達を見たマクシミリアンが教えてくれた。
「ああ、女性は知らなくても仕方ないか。モンリュージュ様は弓の名手として有名で、獲物に気取られぬまま、いつの間にか射抜いているから、軍務系貴族の後輩からは隠者と贈り名されているんだ」
そのままマクシミリアンは、これまで秋の狩猟大会で後衛だったのは正当な評価じゃなかったと憤って見せた。熱くなるマクシミリアンと、困り顔でそれを眺めるミュラ先輩とアロイスを眺めながら、リュシー達と視線を交わした俺は、久しぶりに貴族的な表現の意味深さに呆れていた。いくら見方が変われば意味も変わるとは言え、これは変わり過ぎだろう。
もう一度リュシーを見ると、俺の思考を完璧に読み取ったように頷いて見せた。
はぁ、人の噂ほど信ぴょう性が低いとは良く言ったもんだな。
何も言わずにいるとマクシミリアンとミュラ先輩はアロイスを質問攻めにして盛り上がっていた。
「ねぇ、エルシー。わたくし夢でも見ているのかしら?」
「奇遇ねリュシー。私もそうかと思っていたところよ」
「二人とも、眠ってもいないし夢も見ていないわよ」
リュシーのボケを拾ったらコレットに突っ込まれた。ま、突っ込みを期待してボケを重ねた事は否めない。それはそれとして、俺はともかく女子二人を放置して盛り上がってんじゃねぇよ、独り身男子三人よ。
仮に男子目線だと高評価だとしても、前回までのアロイスは女子目線では即「無し」判定だったから、俺達女子三人はただお茶を飲むばかりだった。
「……変わられたのね」
「そう……みたいね」
「二人ともお止めなさいったら……」
常識人ポジはコレットに任せたとばかりに、俺とリュシーは何の芸も無く見たままを口にしていた。コレットも興が乗っているのか、楽しんでいる音が声に乗っている。突っ込みには悪いけど、むしろここまで様変わりしたんだから、見るでしょう? 見物するだろ? パンダ扱いでもおかしくないだろ。
あ、いや最後のはおかしいわ。
だけど男子三人、思いもよらず盛り上がっている。
俺達はそれを呆れながら見ていた。生粋の女子二人は呆れながら、俺は失敗した合コンを思い出して冷や汗をかきながら、つっ込めるタイミングを見計らっていた。
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