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いつもお立ち寄りありがとうござます。
始めましての方もありがとうございます。
誤字報告ありがとうございました!反映済みですが、ご指摘頂いて汗顔の至りです。
全く気付かなくてお恥ずかしい限りです。ありがとうございました。
遅刻してすみません。本業がちょっとアレしてて時間取れなくて。
秋の狩猟大会は前回スタートとすると、あと2回くらいで終わるつもりです。
そういうの、去年もあったなと思いつつ。
次回は17日(月)予定です。
学院の女子学生にとって秋の狩猟大会とは、将来進む社交界に備えてコネクションを拡充する機会として大きな位置を占めている。二歳の年の差や親の派閥を越えたコネを作るのは将来の自分だけじゃなく、未来の旦那様やお互いの家の為にもなる。
王立フォルミニス学院は、何と言ってもディアフルーレ王国の最高学府だ。当然学院卒業生は親の領地の有無に関わらず国や大領地の中枢に近いエリートコースを歩む事になる。元の世界と同じくコネの広さと深さはどんな環境でも重要なファクターだ。時に煩わしく思えても、社会生活を送る上で欠かす事は出来ない。
ましてこの世界は人と人の繋がりが密接な貴族社会だ。それなのに自分に正直過ぎると隠者などとレッテルを張られてしまう。そういやアロイスも三年生だから今日くらいは参加しているだろう。ギヨームに手紙を転送したら”心配するな”と叱責するような返事が来て以来、彼からの手紙もぷつりと止まっている。それ自体は気分的に助かっているものの、蚊帳の外に置かれたままではどう振舞っていいのか判断に迷う。それじゃ困ると催促はしているけど、授業と狩猟大会の準備に忙殺されて結局手つかずのまま今日になってしまった。ギヨームだけじゃなくてエリザベスにも連絡した方が良いかも知れない。
アロイスも隠者なんて呼ばれてるけど、リジューの領主館で挨拶した時の印象なら、相応に文武両道だろう。そうでなきゃ学院の学生なんて務まらないからな。
女子学生にとって真剣勝負なら男子学生とっても同じ事だ。特に戦場に出るのは男の仕事だからと、軍務系貴族ではない家の令息も顔繋ぎになるよう学院が配慮したチーム分けで狩りを行う。去年までの話を聞くと活躍するのはやっぱり軍務系の学生だが、他の男子学生も手を抜く事は無い。
そんな事を考えている間にも、学院職員に先導された俺達は『きのこの丘』の開けたスペースに進んで行った。既にガーデンパーティーの準備が終わっていて、上級生も含めた女子学生達はマリーとヒルダを筆頭とした一年Aクラス女子を出迎える為に姿勢を低くして控えていた。
ユージニやエミリーは場慣れてしてるのか平然としたものだけど、俺はあまりの場違い感に視線を移して現実逃避するしかなかった。丘の上の広いスペースはちょうどリジュー領主館の大ホールほどの広さがある。そこの中央に、百十名の全学生が一堂に会しても余裕のある席数が設えてあり、端の方には細い柱とロープで建てた横幕で区切られた個室のようなスペースがいくつも取られていた。さらに会場をぐるりと囲むように武装した騎士が等間隔で警護に立っていた。
「皆様、ごきげんよう」
マリーがそう言うと、親しく付き合っているであろう女子学生が何人か歩み出て、全体を代表した挨拶の口上を述べる。
うわ、代表に出た女の子達は皆伯爵家の令嬢だ。
受けるマリー達は伯爵令嬢や侯爵令嬢だからいいけど、俺は子爵令嬢らしくすっと腰を落として挨拶を受ける。挨拶を送る側と受ける側の関係性が歪に見えるだろうけど、ここでユージニ達と同じ様に挨拶を受けたら、挨拶する彼女達の後にいる五十人ほどの女子全員を敵に回す事になりかねない。
この場での挨拶は普段のように軽い会話に繋がらず、マリーも「ありがとうぞんじます」と言って挨拶の終わりを告げた。歩み出ていた女子学生が流れるように列に戻ると、別の学生が交代で前に出て来て控えた。
そしてすぐに俺達も上位者を迎える姿勢を取る。
ジョルジュ・ロベール王太子の婚約者候補を始めとした”王太子閥”の女の子達を迎える為だ。マリーとヒルダとは言うに及ばず、ユージニやエミリー達よりも低い姿勢で控えていると、周囲の女子学生に緊張が走った。
ぐっと圧し掛かるようなプレッシャーを感じているようだが、俺はユージニ達の後で頭一つ分低くしているから、どんな女の子達なのか全く分からない。
頭の上でさっきと同じ様なやり取りに続いて、マリーに呼び掛ける声が聞こえた。
「マリー・シャルロット様。もしかしてそちらが?」
「はいジョゼフィーヌ様。左様でございます」
「そう。伺った通りのようで安心しましたわ。これからもよろしくお願いしますわね」
「もちろんですわ。ジョゼフィーヌ様」
うん。話を聞いていてもチンプンカンプンだ。声を掛けた二年女子とマリーの声音は緊張感はあったけど、陰気さ湿気が無かったように感じた。声量も抑え気味だったから、二人で通じる何かを確認したんだろう。
”王太子閥”の女の子達が移動していくと、周りから一気に緊張が抜けた。そりゃそうだよな、未来の王妃様とその側近候補だもんな。中学生くらいの女の子達にとってはとんでもないプレッシャーだよな。
「エルシー。わたくし達もそろそろ席へ移りましょう?」
ユージニが声掛けしてくれたのを合図に身体を伸ばす。”王太子閥”の女の子達は他の女子学生に囲まれて、後ろ姿さえ見る事が出来なかった。
やっぱりこういうモンだよなと視線を戻そうとした時、一人の女の子と目が合った。その子は軽く会釈するような素振りに続けて微笑んだ後、女子学生の囲みに沈んで行った。今の子、なんだか見覚えがあるような……。
ちょっと考えても思い出せないし、それ以上に空港でファンの出迎えを受ける洋楽アーティストみたいだとさっさと頭を切り替えて眺めていたら、すっとシルヴィが寄って来て言った。
「シモーヌ様ですわ。クロード様の婚約者候補の……あの、もしかしてエルシー憶えていらっしゃらないの?」
「エ? イヤデスワ。チャントオボエテマシテヨ。ホホホ」
あり得ないと驚いた声を出すシルヴィに、ギギギと音が出そうなくらいぎこちなく顔を向けて言うと、俺の顔を見たシルヴィは声を殺しながら笑っていた。
そうか、マリニャック侯爵令嬢のファーストネームってシモーヌさんでしたか。そういや手紙に書いてあった……かも? 書いてあるわなぁ、普通。まともに認識していないし二年生で接触が無いから、すっかり忘れてた。ってゆーか、やっと顔と名前が一致したよ。はっはっは。
「随分と仲良くなってらっしゃるのね」
は!?
ユージニが抑揚を抑えてそう言うから、驚いた俺が振り向いて顔を見ると恥ずかしそうに顔を伏せた。心なしか苛ついているような、照れているようにも感じられたけど、俺の考えすぎかな。横目にシルヴィを見ると、彼女もちょっと驚いているようだった。
「挨拶も済んだ事ですから、わたくし達もあちらへ行きましょう?」
マリーの号令で俺達もガーデンパーティーエリアへ移動を始めた。
……すっかりAクラスに馴染んでいる自分に少し驚きながら、いそいそと移動を始めた。気が付けばマリーを先頭に、ユージニとシルヴィが左右を固めて背後をエミリーが、何故かにこにこと楽しそうに付いて来る。
何このフォーメーション。女子しかいない今、Aクラス女子バリアじゃない事だけは確かだ。
少なくとも後ろにいるエミリーは何か分かっているんだろうな。なんだろう、すっげぇ不安になる。
足を進めて観察すると、今はまだ殆どの女子学生が”王太子閥”に群がり挨拶の順番を待っていた。あれじゃ挨拶する方もされる方も、随分疲れそうだと感心していた。
あるテーブルの一角でマリーが足を止めると、俺達の側仕えが一斉に近づいてきて、お茶の支度を始める。それはまるで、予めこの場所に来ると分かっていたように無駄なく機敏な動きで、あっと言う間にお茶の支度がなされた。
正直感心しながら眺めていた俺は、リリエンヌの咳払いで着席を促された。
俺が好きな茶葉で淹れた紅茶の香りが鼻をくすぐる。マリーもユージニも皆、やっと一息吐けたとばかりにお茶に口をつけていた。一口飲むと最初の香りと鼻から抜ける香りにほわっと安堵して、ほっと小さく息を吐いた。はー、落ち着く。
マリー達は下手に動く事が出来ない。誰から見ても”王太子閥”を凌駕するかのような行動は取れない。一年Aクラス女子は二年Aクラス女子から漏れたり忌避された者を拾い上げ救済するかのように振舞いながら、王家への叛意の爪を切り牙を抜くように行動する事が求められる。それ以上に、完全に”第二王子閥”扱いされているこの不条理に異を唱えたい。
そりゃね、これまでの事を思えばここしか居場所が無いのは分かってるけどね。はぁ、どうしてこうなったんだ……。
ずずっと音を立てないように紅茶を飲みながら、目の前の少女達はそんな腹芸を求められてる事に呆れるものの、この子達はそんな大人の都合を受け入れてこなしている。本当に凄い。感心するしかない。
……と心から思っているのに、さっきから俺を見る深いルビー色の瞳が気になる。ちょっとリラックスしたっていいでしょ? ねぇヒルダちゃん……。なんでこの子、こんなに俺を意識してるんだ?
「ねぇマリー・シャルロット様? その花だけなら美しくとも、まわりに意識を配さずにいるとあのようになる事に土地の違いなどございませんのね」
ふっと俺から視線を外した途端、ヒルデガルドはいきなり爆弾を落とした。
皆一斉に肩を強張らせて辺りを窺っている。そうと察したヒルデガルドは何か面白いのか、コロコロと小さく笑っていた。
「そうとは言い切れませんわ。ヒルダ様? 土地が違えばどこに重きを置くかも変わるものでしょう? それに、ご覧になる方が変われば結論も自ずと変わるものですわ」
マリーがそう答えると、ヒルデガルドはつまらなそうに口を尖らせて見せた。
ヒルデガルドに「お前何言ってんだ!?」という顔を向けたのは俺だけだった。皆落ち着いた様子だが、それは今の瞬間を周りに気取られないように防御を固めているのだと気付いた。
ヒルデガルドの発言は、”王太子閥”の女子は個別に見れば相応に評価できるだろうけど、まとまるとどうしようもないね、と言い放ったに等しい。これを受けたマリーは、ここはディアフルーレだからそう思うのは貴方だけかもね、と言い返したものだ。俺の解釈は正解じゃないかも知れないけど、間違ってはいない自信がある。
おーおー。煌めくような赤髪と切れ長の目に浮かぶ瞳で微笑みながら睨むマリーと、白金のように輝く銀髪にルビー色の瞳で同じように睨み返すヒルデガルドの間に、混じり合う視線がバチバチとスパークしているように見える。
だけどこの二人、十三歳と十四歳? 本当かよ!? 女ってこえぇぇぇ。
「ヒルデガルド様もマリーも、いい加減になさってくださいませ。今日は狩猟大会ですのよ?」
ユージニがぴしゃりと言うと、二人とも座り直した。おお、ユージニすげぇ。
「あら、ウジェニー・フィリス様? わたくしの事はヒルダと呼んで頂けないの?」
あれ? ヒルデガルドはマリーやユージニとは随分打ち解けているんだな。彼女達のやり取りには年齢差は感じられない。
少し茶化すような声音でヒルデガルドが言うと、ユージニは小さく息を吐いてから答えた。
「何度も申し上げておりますが、わたくしからそのようにお呼びするのは出来かねますわ」
「もう、ウジェニー・フィリス様は相変わらず固いわね。それではアリシア様はどうかしら?」
一斉に視線が集まるのを感じた。ってゆーか、俺に振るんじゃねぇ!!
飲みかけのカップを皿に戻す僅かな時間に、俺は何と答えるのが正解なのか必死に考えていた。
「私は、本心では僭越に過ぎると思っております。ですが折角仰せ頂いたのであれば、そのお気持ちにはお応えしたいとぞんじますわ。ヒルデガルド様」
初めはおずおずと、本来は受け入れるべきじゃないと思っていると伝えながら、だけど貴方がそう望むのなら俺は出来るかぎり頑張りますよと答えた。
「詰まらないわ」
呆れも隠さずにヒルデガルドが言った。
おおーい! バッサリ斬られたよ!! お兄ちゃん、心が痛いよ!
フォローを求めて周りを窺うと、皆揃ってうぅーんって微妙な顔をしてる。
うわー! ナニコレ!? 何の罰ゲーム?
……そうか、ハズしたか。ですよね。
「でも、悪くはないわ」
そう言うヒルデガルドの瞳はさっきよりも幾分温かみが増して、俺に向ける視線には興味の色が浮かんでいた。うん? なんだその視線は。
「いくつか伺いたい事もございますけれど、それは追々に致しましょうか」
一方的に話題を打ち切られた俺は、思い切り放り捨てられたような寂しさを感じた。いや、構って欲しいとは思わないんだけど、落差が凄くて驚いたというのが正確なところだと思う。
はぁ……さっさとこの場から逃げ出したい。
すると二年Aクラス女子への挨拶を終えたマリー達の友人や、様子を窺っていたゾンネヴァルトの女子学生がそれぞれの本命に近づいて来て、一年Aクラス女子の周りが賑やかになった。
ようやく肩の力を抜いた俺は、リリエンヌが淹れなおしてくれたお茶を一口飲んだ。
「もっと頑張って頂かないと……」
タイミングを見て耳打ちするリリエンヌに脳天チョップを入れたいと思いながら、俺はもう一口お茶を含んだ。
はぁ、本当に元の世界に帰りたい。
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