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いつもお立ち寄りありがとうござます。
始めましての方もありがとうございます。
今回はほんのちょっぴり踏み込んだ表現(筆者の主観)がありますので、
主観の差はあるとはぞんじますが、それを踏まえて読んでくださいますよう
お願い致します。(我ながら心配し過ぎかと思っていますが念のため)
そしてブックマーク追加ありがとうございます!
222ポイントになりました。ありがとうございます!
今後は555目指して更新し続けたいと思います。
引き続きお楽しみ頂けると幸いです。……STANDING BY……
改めてヒルデガルド嬢に初対面の挨拶を済ませる。手順通り、ヒルデガルド嬢から促されるのを待って定型通りの口上を述べる。するとヒルデガルド嬢も定型文の挨拶を返す。
「ご丁寧な挨拶痛み入りますわ。わたくしはゾンネヴァルト王国のシュトルベルク公爵家の娘、ヒルデガルドと申します」
……おや?
定型通りならこの後、”これからはよろしくね”という趣旨の挨拶が続くはずだが?
よろしくしたくないなら”貴方の名前は分かったわ”とか”もう結構よ”とか、なんであれ挨拶の締めになる言葉を出してくれないと、俺は顔を上げる事もできない。
長すぎる挨拶に回りが反応するその直前、含み笑いが聞こえて来た。それは場違いなほど楽しそうな様子で、周りの反応は反比例して凍り付くほど冷え込んでいった。
おいおい勘弁してくれよ。まぁた何かに巻き込まれつつあるのか? いや既に巻き込まれてる??
訓練の賜物で中腰でいる事に負担は無いけれど、周りの空気が一秒毎に悪くなっていく事にはちょっと耐えられないかもしれない。とにかく早く挨拶を終わらせてくれ!
「ふふっ。ごめんなさいね、リジュー様。思い出したら可笑しくて……」
うん? これは顔を上げて良いって事か?
恐る恐る顔を上げると誰も俺を咎めるような視線を向けて来なかったから、少なくとも間違ってはいなかったようだ。むしろ皆、ヒルデガルド嬢を咎める色を含めた視線を送っていた。そのまま視線を移すとAクラス男子もこの流れは想定外だったようでミシェル達は硬直していたし、シャルル・アンリ殿下とウィルヘルム王子もヒルデガルド嬢の物言いに少なからず驚いた様子で、どう声を掛ければいいか迷っているようだった。
考えてみれば周りはディアフルーレの貴族令嬢が殆どだから、俺的にはホームなんだからそんなに身構えなくてもいいんだと思った。
しかし、俺の思いなどヒルデガルド嬢の次の言葉であっさりと吹き飛ばされた。
「何度も殿下がお手を煩わせているとか。ありがとうぞんじます」
「いえ、そのような……」
反射的に返答したものの、ヒルデガルド嬢の瞳は微動だにせずに俺を見据えている。
今の言葉はどういう意味だ?
言葉通りに受け取るなら、自分の婚約者候補が迷惑かけてごめんね、というところだろうか。しかし彼女の瞳はそんな甘っちょろい色など微塵も無い。むしろ”ウチのに手を出すな”という雰囲気すら漂わせているように見える。
その一方で、品定めするように俺の足元から頭の先まで舐めるように見てくるのが分かる。
輝くような銀髪と深いルビー色の瞳が相まって、まるで巨大な白蛇に睨みつけらた獲物のように体を縮こまらせた俺は、逃避するようにエミリーとのお茶会の一幕を思い出していた。
『ヒルダは一言で言うならちょい病み策謀キャラね。ウィルたんが自分を見てくれない事への不満やイライラを解消する事と、ウィルたんに目を向けて欲しいからって留学中なのに何人もの男子学生を誘惑したりね。根本的にはウィルたん大好きの寂しがり屋って設定されてるわ』
狩猟大会の準備に忙殺された先週。俺とエミリーはお互いに時間のやりくりをしてお茶会をした。もっとも二人だけで話が出来るのは三回に一回という程度だったし、そういう時は情報交換と言うよりは、エミリーによる『どきスク』のレクチャーを受ける勉強会という雰囲気だった。
何が何でも俺に男を口説かせたいらしい。いちいち抗弁する手間を惜しんだ俺は、それについて熱弁が始まるとハイハイと聞き流しながら、彼女の話す『どきスク』の話を反芻していた。
エミリーが話してくれたヒルデガルド像を要約してしまえば、なんでそうなるの?と突っ込みたくなる女の子だった。
彼女がウィルヘルム王子の婚約者候補になったのは四年前。だけどゾンネヴァルト王国宰相の娘に求められたのは、将来の王族として王家とウィルヘルム王子を支える事ではなく、きつく締め上げる事の出来る首輪であり、遠くまで聞こえるような良い音で鳴る鈴である事だった。
恐らくウィルヘルム王子は彼女に与えられた使命を事前に察知していたのではないかと思う。考えてみれば、当時ヒルデガルド嬢は十歳でウィルヘルム王子は九歳と二人とも子供だ。相応の教育を受けてきたとは言え子供に負わせるには重過ぎる業じゃないか。いや、きちんと教育を受けてきたからこそ、ウィルヘルム王子は彼女を味方ではないと反応したのかも知れない。
それでも、いわく付きの王子の婚約者候補となったヒルデガルド嬢は親の申し付けがある反面で、ウィルヘルム王子を好きになろうとせめて嫌われないようにしようと努力していたらしい。しかしそれさえも”無関心”というある意味最悪な対応を受け続けきた為に、ウィルヘルム王子の注意を引く事に思考が先鋭化した結果が、『どきスク』内では他国で男漁りというはっちゃけた行動で表現されているらしい。
『たしかそうだったはずよ。ごめんね、ホント最近は記憶がぼやけちゃってハッキリ思い出せないのよ。でもヒルダの行動はあくまでウィルたんの注意を引きたい、自分を見て欲しいって寂しさの裏返しだったはずなの』
『だとしても方法がおかしくない?』
『しーちゃん? そういうとこに突っ込んだらお終いよ。それに、そんなヒルダの行動で自分を監視する者が減ったと思ったウィルたんが植物園で息抜きしているところでアリシアと出会うんだし、それ切っ掛けでヒルダが本性を現すようになるんだし』
あまりにあまりな『どきスク』のヒルデガルド嬢の行動を非難すると、エミリーは腰に手を当てそう言った。そういう普通の感覚が欠けた部分にツッコミを入れるのは粋じゃないとか、詫び寂びが分かっていないと注意されたが、エミリーは本気でそう信じているんだろうか。俺にしてみれば、ちゃんと二人で話し合ったらいいのにとか、他の男を誘惑して本命に目を向けさせるような奇策じゃなくて、正攻法で自分の魅力をアピールしたらいいのにと、別の方法しか思い浮かばないんだけど。
あれ? ウィルヘルム王子とアリシアが植物園で出会う?
『えっ? 私、少し前にウィルヘルム王子殿下と植物園で会ったって言ったよね?』
『うん、憶えてるわよ。だからあたし、しーちゃんはウィルたんルートに入ったと判断してるもん。だからこうやって、一生懸命にヒルダの事を思い出して教えてるんじゃん』
カラリと笑いながらエミリーが言うには、側近を煙に巻いたウィルヘルム王子が植物園の東屋で休んでいる所に、通りかかったアリシアが微笑みかけるスチルがあるそうだ。
東屋のベンチから煩わしそうに起き上がったウィルヘルム王子は、そこにいるのが側近のゾンネヴァルトの留学生じゃない事に気付いて身構える。するとアリシアは「ここは敵地じゃないわ」と言って朗らかに微笑むそうだ。話だけ聞いていると情景が浮かぶくらい、使い古されたシチュエーションだな。
何でもその一言で緊張を解されたウィルヘルム王子はアリシアに恋愛感情を抱くらしいが、いくらなんでもその展開はチョロ過ぎないか? 王子様だろ? あんな将来絶対に超絶美人になるのが決まっているヒルデガルド嬢が婚約者候補なのに?
うん? ……ここは敵地じゃない?
……言わないでおこう。物凄く嫌な予感がする。
『ヒルダはね、残念悪役令嬢なんて言われるマリーと違って、自分の立場を最大限利用してウィルたんルートに入ってきたプレイヤーを撃退しようとするから、ホント気を付けてね』
脅かさないでくれと返すと、ゲーム中ではと前置きして思い出せた限りを教えてくれた。
『学年が違うから女子の上級生を味方に引き入れるし、留学生で未来のゾンネヴァルト王族だからゾンネヴァルトの留学生は当然として外務系も引き込むわね。あと、よく覚えているのは自分が誘惑した男子学生をけしかけるのよ。ディアフルーレの女子学生も上手く使うから、主犯だって分からないようにするの。それでアリシアプレイの場合、この時ウィルたんとの親密度が一定ラインに届いてないと乱暴されるわ。他にもあったはずなんだけど……ごめんね』
『えっ? 乱暴!? もしかしてアダルト向けのゲームなの!?』
『R15よ。……あ、バカね。直接描写があるわけないでしょ!! ただ明言されないけどきっとそうだよねって読み取れるのよ』
アリシアで乱暴されるなら他のキャラクターはどうなるのかと聞くと、例えばエミリーならアレキサンドルが間一髪のタイミングで助けに入るそうだ。なにそのキャラクター格差。おかしくないか?
しかもアリシアプレイでこうなると、あっという間に学院内に疵物にされたという噂が蔓延ってしまい、一人を除いて攻略対象の親密度が大幅に下がるそうだ。ゲームでの実害はそれだけで、アリシアなら別にリカバリも難しく無いそうだ。
貴族令嬢が疵物にされたなんて噂が立ったら致命傷だろうと反論したら、ゲーム内では明言されていないのでノーカンだから大丈夫と、分かるような分からないような事を言われた。
だとしても、どうしてエミリーはこんな話題をあっけらかんと話せるのか不思議だった。
『ねぇ、そのゲームって楽しいの?』
率直な疑問が口を衝いて出ていた。するとエミリーは始め質問の意味が分からなかったのか、きょとんとした顔をしていたが、すぐに笑顔になって言った。
『もちろんよ。そうならないように注意して進めるんだし、妨害工作なんてヒルダだけじゃないわ。だいたい何にも考えていなさそうなキャラクターよりも、悩んだり苦しんだりして行動するキャラクターの方がよっぽど魅力的でしょが』
そりゃそうかも知れないけど、今までエミリーや同僚達が嬉々として話していたゲームの知らずに済ませたかった一面を見せられた気分だよ。まぁね、悪は滅びて正義が勝ちましたとか紆余曲折あったけど最後は両想いで結ばれましたとしても、途中にそういうのを盛り込むのか。最近のゲームは凄いんだな。
『さすがにそのルートを今の現実で見るのは忍びないっていうか嫌だから、そうならないように手を打っておくわよ』
「俺は彼女の手を煩わせてなどいない」
割って入ってきたウィルヘルム王子は憤慨したようにヒルデガルド嬢に向かって言った。それで深いルビー色の瞳が俺から外れると、胸の中で安堵の息を吐いた。
「あら、わたくしはただお詫びをお伝えしただけですわ」
茶化すような目つきをしたヒルデガルド嬢がそう言うと、ウィルヘルム王子はぐっと息が詰まったような顔をして俺をちらりと盗み見た。それに気付いた俺はすぐさま言った。
「勿体なくもシュトルベルク様よりお言葉を頂戴致しました。殿下におかれましては先日の事など、どうぞお忘れくださいますよう……」
言いながら上位者への礼に腰を落として頭を下げる。婚約者候補の言う通りだからもう近づかないでねと心を込めて言い切った。大体だね、君は王子様で俺は子爵家令嬢。間に三階級挟んでるわ外国の王子様だわで、本来こんな風に言葉を交わすのだってちょっとあり得ない事なんだぞ。
何か言いたそうにするウィルヘルム王子だったが、ヒルデガルド嬢は彼から視線を動かさない。よほど彼女に苦手意識があるのか、何も言えずに狼狽えたような様子で立ち尽くしていた。すると学院職員がAクラス男子を呼びに来た。
「皆様、男子学生の組み分けが終わりましたので、どうぞあちらへ」
学院職員が伸ばす手の先には、得物を持った男子学生達が十人づつ程度で固まりながら集まっているのが見えた。
ふんっとウィルヘルム王子の荒い鼻息が聞こえてきたが、マリーとヒルデガルド嬢が揃って腰を落として「どうぞお励みくださいますよう」と言うと、ユージニ達と一緒に俺も復唱した。
「マリー、後を頼むね」
「はい、殿下」
シャルル・アンリ殿下とマリーのやり取りを聞きながら、ディアフルーレ側って平和だよなと思ってほっこりした。それに引き換え……。
ウィルヘルム王子とヒルデガルド嬢は見てる俺達が寒気を感じるほど、何も言わずに冷たい笑みを交わしていた。ウィルヘルム王子さぁ、そういうとこじゃないのか?
はぁ……。前情報を知った方が動きづらいってのもあるよな。もしエミリーから聞いていなければ、俺はどう対応しただろう。知らない方が上手く流せたかも知れない。
男子学生を見送った俺達は、彼らと同じようにガーテンパーティーの支度がされた一角に呼ばれるのを待っていた。
横目にユージニ達を見ると、皆手持ち無沙汰な感じだ。ここは大人しく気配を消して置こう。
「ねぇリジュー様?」
またあの深いルビー色の瞳が向けられた俺は、辛うじて噛まずに返事をする。
「はい。シュトルベルク様」
俺の反応を心外だと言わんばかりに上体を逸らして驚いて見せたヒルデガルド嬢は、くすりと失笑するとマリー達の様子を窺いながら言った。
「素敵な実技服ですわね」
「あ、ありがとうぞんじます」
これが何らかの牽制だと言う事は、向けられる視線から痛いほど分かった。
ああもう! この子が男子学生を扇動して嫌いな子を襲わせる!? 信じたくないけどすっげー怖いんだよ! こうなると信じてもおかしくないよな? ないよねぇ!?
「どちらで仕立てられたのかしら?」
ごくりと息を飲み込む。音は立てていないと思うけど、俺がビビっているのは伝わったかもしれない。
二十八歳の俺が十四歳の女の子にビビらされてる。
そう思ったら頭のどこかでピンと、何かがはじけたような気がした。
そうだよ、何で俺が気圧されなきゃいけないんだよ。だいたいお前がちゃんとヤツの手綱を握ってりゃ、エミリーから聞いたバカげた手段を取る事なんてないだろう。なんで俺がお前らの痴話喧嘩に巻き込まれて縮こまっていなきゃいけないんだ? おかしいだろ!?
「春の狩猟大会で拝見した二年生や三年生のお姉様方の装いを参考に、当家の領地で商っているマダム・ダルボワで仕立てましたの」
「まぁ、そのお名前はわたくしもぞんじておりますわ」
「ゾンネヴァルトの皆様にもご存知いただけているなど、大変な光栄にございますわ。シュトルベルク様」
ヒルデガルド嬢の様子が少し変わった。深いルビー色の瞳に、想定外の反応に慌てたような色が浮かんでいた。
でも俺は、それを見て見ぬ振りをして軽く流す。別にこの子を恨んでいる訳でも、嫌っている訳でもない。ただ、初対面で徹頭徹尾マウントを取ろうとしてくるから、胸を張って顎を引き、堂々と俺はそこだけは譲らないという意思表示をするだけだ。
マリー達は急な展開について来れなくて呆気に取られているし、視界の端に映るエミリーは「あんだけ注意したのにお前何言ってんだ!?」と驚いた顔をしていた。
「ふふっ。ねぇリジュー様。マリー・シャルロット様や皆様は、貴方とはお名前で呼び合っていらっしゃるとか。よろしければ、わたくしも貴方をアリシアと呼んでも?」
あれ? 風向きが変わったぞ? ヒルデガルド嬢の声色に不快感や警戒感は無い。いや、聞いていた通りなら策士だというから、これくらいは出来て当然なのか?
裏表どっちにしても、今のように時間と労力の浪費でしかないマウンティング合戦に付き合うつもりは無い。俺は間を空けずに快諾した。
「勿体ない事ではございますが、そうお呼びくださいましたら大変光栄にぞんじますわ」
「では、わたくしの事もヒルデガルドと呼んでくださるかしら?」
「僭越ではございますが、そうお望みであれば……」
そう答えると、ヒルデガルド嬢はさっきまで纏っていた空気を柔らかな雰囲気に換えて言った。
「ええ、アリシア様。これからは、わたくしの事もヒルデガルドと呼んでくださいませね」
さっきまでの落差から、傍目から見るとヒルデガルド嬢と俺はにこやかに微笑み合っているだけに見えるだろう。実際のところ、マリー達は穏当な着地点に着いた事にほっと安堵の息を漏らしていた。
しかし直接相対している俺には分かる。
ヒルデガルド嬢の瞳には、微塵も友好や親愛の情は浮かんでいない。ただただ、俺が何者なのか、何を考えて何をしようとしているのか、冷徹に観察する爬虫類のような冷たさを秘めた瞳が浮かんでいた。
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