92 何難? 気のせい難?
暑い、そしてムシムシしてますね。
冬は着込めばなんとかなりますが、夏はもうどうにもなりません。
せいぜい建物の中を通るか影から影に移動するしかないか・・・
作中はゴールデンウィーク前で暑さの表現はまだしてません。
そんなうらやましい季節の92話目、楽しんで頂けたら幸いです。
「今日の夜は無理、通常のフぃみョンに戻れネー」
「私も無理ね。興味はあるけど」
放課後、丞は令和異世界会員にようやくジョンさんのゲームの話をできたのだが、反応は良くなかった。
白次、黒次、虎城君と委員長はゲームですぐ通常のフぃみョン空間に戻れる所にいないので、参加出来ないとの事だった。
「しまった。ゲームから戻る時間をとった方が良かったね」
丞は唯一残った月子さんに目を向ける。
月子さんのレースゲームはすぐ通常フぃみョンに戻れるはずだ。
「二人きりはちょっと・・・」
月子さんは丞から目をそらした。
「いやいや! 他の人も一緒に誘われてるから! 二人きりじゃないよ!」
丞は掌を顔の前で振って顔の温度を下げながら必死に弁解する。
「ああ、噂のクミさんね」
委員長の眼鏡が怪しく光る。
「え、何で名前知ってるの?」
幼馴染みの名前が委員長の口から突然出てきて丞は固まる。
「おみやげを頂いた日にシープに聞いたわよ」
「丞がわざわざ知らせてきたよね?」
「にくいねコノコノ」
黒次が丞を肘でつつく。
虎城君は深く頷いている。
シープに怒るのは筋違いだよね、と想像でシープのお腹を黒く塗りながら、丞は自分の迂闊な伝言を反省する。
大事なのはこれからだ。
変な誤解をされれば九海の怒りスイッチを押してしまう。
もしかして、異世界会員がゲームに参加しない方が楽かも。
丞は自分に都合の良い方に考えを変えた。
「よし、今すぐ帰ってフぃみョン起動だ」
「うん、強行軍すれば街まで戻れるね! 虎城君はパーティメンバーだから僕らが運んでおくよ」
「よろしく!」
「私も引き返せば、なんとか」
「是非参加」
さっきまでとは異世界会員のやる気が違う。
丞抜きで今夜の予定を決めるとアッと言う間にいなくなった。
そんなに無理しなくてもと言う丞の言葉は誰にも届かず空気に溶けていく。
気のせいだろうか。
みんなゲーム以外を楽しみにしてるようだと丞は考えた。
☆
いつものコンビニでおやつに懐かしの駄菓子を何種類か買って備え付けのベンチに丞は座って一息つく。
迷ったがくじは諦めた。
部屋に買い置きのおやつがあるとダイエットにならない。
朝の男性店員さんはいなかった。
裏で作業してなきゃいいけどと思いながら丞は目を閉じる。
『何時に起きますか?』
シープが朝の件がなかったようにいつも通りの言葉で出迎える。
「色々確認したいんだ」
消えんでよろしいとシープに釘を差して白い空間に固定しながら、丞は今日の予定を組み立てる。
「まず、全と九海、姫様達の予定なんだけど何か聞いてる?」
『はい。全員今日の二十三時にいつものガラスの木の下のテーブルに集合予定です』
「そうか。異世界会員の方は?」
『まだ、誰もフぃみョンを起動していません。お付きの私に伝言させますか?』
「うん、集合はいつものテーブルで、二十三時に。間に合わないようなら連絡してって」
今回は余計な情報は入ってないよねと丞はもう一度伝言内容を確認する。
『承りました』
「後はジョンさんか。この状態でジョンさんと連絡とれる?」
『シャーム姫が零時に行きますわ! とお約束してましたよ』
「何時の間にフレンド申請してたんだろ?」
『握手の時では』
「すごい行動力だね」
『そうですね。丞様も見習っては?』
「そうだね。まず、シープのお腹を黒く塗ろうかな」
『今のままの丞様もステキです』
「ありがとシープ」
丞は目を開けて残りの駄菓子を食べる。
大きな雷チョコのカロリーを何気なくみて寮まで走って帰る事にした。
「ヒィ、ふぅ、はぁ、はぁ」
隣に幼女がいたら通報されるかもと思いながら寮玄関に着いた丞に、管理人の娘さんが箒を持って近づいてくる。
「おかえりなさい!」
元気よく挨拶してくる娘さんを見ながら、管理人のおばちゃんが携帯電話を耳に当てている。
まさか通報されてないよねと耳をすませば、おばちゃんの笑い声が丞の心を落ち着かせる。
気のせいか。
警察相手に笑いながら話さないなと娘さんにやっと整った呼吸でただいまと返し、おばちゃんに目礼して部屋に戻る。
走ってかいた汗をシャワーで流して、予習、復習をすれば夕飯の時間だ。
今日はデミグラスソースのハンバーグ。
有名な芸人さんの叫びを想像で再生しながら、ご飯を大盛にして丞はテレビをつける。
おっと、汁物は。
テレビと夕食のトレイに背を向けて、中華スープの具が多くなるようにかき混ぜていた丞は、聞き覚えのある叫びを聞いた。
「美味しいですわ!」
出たな! 妖怪メインディッシュ隠し!
丞が慌てて振り向いたが白い子猫はどこにもいない。ハンバーグも無事だ。
気のせいかな? 僕も疲れてるのかな。
丞はコンビニの男性店員さんを思い出しながら、夕食を味わう。
おっと、マヨがない。
付け合わせのブロッコリーにと丞がマヨネーズを取りに向かった瞬間、また叫びを聞いた。
「美味しいですわ!」
「?」
丞が振り向くがやはり姫様はいない。
半分残っているハンバーグも無事だ。
「ヤバイ。全に相談しよう」
今のが幻聴かと冷や汗をかいた丞に救いの声がかけられる。
「お母さん、猫ちゃんテレビに出てる!」
厨房の奥から娘さんの嬉しそうな声が聞こえた。
丞がテレビを見ると提供にペットフードの会社があった。
TKGの仕業かな。
昨日の今日でもうコマーシャルが作れるのか。行動力あるなと感心しながら丞は夕食を食べ終わった。




