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振られた俺、異世界で嫁探し始めます  作者: 小鳥遊
1章 幼少期編①
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第7話 異世界の街並み

改めて見ると、この辺りの建物はどれも年季が入っていた。道もろくに舗装されておらず、土を塗り固めただけだった。

 軒先では洗濯物が揺れ、通りの端では荷車を引く男が大きな声を上げている。


 そんな町並みに目を奪われていると、隣を歩いていたアイリがこちらを覗き込んできた。


「ねえ、ユウマ」


「ん?」


「昨日は結局ちゃんと聞けなかったけど、あなたってどこから来たの?」


 いきなり核心を突かれ、ユウマはわずかに言葉に詰まった。

 

 突然この世界に召喚され、アイリに教会へ連れていかれ、そのまま気づけば一夜が明けていた。

 結局、自分のことを話す機会などほとんどなかった。

 

 少し前を歩いていたユラも、いつの間にか歩調を緩めている。振り返りこそしないものの、どうやら話は聞いているらしい。


「どこって言われてもな……」


 ユウマは通りの先へ、もう一度目を向ける。石や木で造られた家々。見慣れない服装で行き交う人々。どこを見ても、昨日までの常識とはかけ離れた景色ばかりだ。


「少なくとも、ここじゃない」


「そんなの分かってるわよ」


「いや、そういう意味じゃなくて」


 さて、どこまで話したものか。

 昨晩のレインの反応を見る限り、人を召喚すること自体、あまり普通のことではないらしい。それなら、自分が別の世界から来たことまで話してしまっていいのだろうか。


 日本。東京。電車。車。電気。仮に口にしたところで、どこまで伝わるのかも分からない。


「俺がいたところには、魔法なんてなかった」


「……え?」


 アイリの足がぴたりと止まった。ユラも静かに足を止める。

 しまった。口にしてから、ユウマは間違えに気づく。こんな言い方をすれば、かえってアイリの好奇心を刺激するに決まっている。

 

「魔法がないの?」


「……まあね」


「……ほんとに?」


 珍しくユラまで口を挟んできた。


「ほんとだよ」


 ユラはしばらくユウマを見つめたあと、わずかに首を傾げる。表には出にくいだけで、どうやら彼女も相当気になっているらしい。


「じゃあ、どうやって生活してるの?」


「いや、普通に……」


「だから、その普通が分からないのよ」


 目を輝かせながら一歩詰め寄ってくるアイリに、ユウマは思わず半歩身を引いた。

 その横では、ユラまで黙ったままこちらを見ている。二人分の視線を受け、ユウマは早々に逃げ道がないことを悟った。


「町は? ここみたいな感じ?」


「全然違う……」


 ユウマは改めて周囲へ目を向けた。

 石造りの建物。通りを行き交う人々。店先に並べられた木箱や籠。昨日まで当たり前だったアスファルトも、信号も、絶え間なく響く車の音も、ここにはない。


「向こうはもっと建物も高いし、道もほとんど舗装されてるかな」


「全部?」


「まあ、だいたいは」


 アイリが目を丸くする。ユラも何かを思い描くように、通りの先へ視線を向けていた。そんな二人の反応を見ていると、自分にとっての当たり前が、この世界ではまるで当たり前ではないのだと実感させられる。


「ねえ、ほかには?」


「まだ聞くのかよ」


「当たり前でしょ。昨日ほとんど聞けなかったんだから」


「私も気になる」


 ぼそりと付け足された言葉に、ユウマは思わずユラを見る。しかし本人はいつの間にか、何事もなかったように前を向いている。

 楽しそうなアイリと、しれっと話に混ざってきたユラを見て、ユウマは困ったような笑みを浮かべた。

 

 それからも二人から次々と質問が飛んできたが、「その話はまた今度」「説明すると長い」と、ユウマはのらりくらりとかわしながら歩いていく。

 不満そうなアイリを適当に宥めていると、不意に通りの先から大きな声が飛んできた。

 

「おう、アイリにユラ。今日は仕事じゃないのか?」

 

 声のほうに目をやると、道端の大柄な男が豪快な笑みを浮かべてこちらへ歩いてきている。よく通る声と気さくな物腰から、人当たりのいい男なのだろうと感じた。

 

「ユラは午後から仕事よ。私はこいつの案内!」


 アイリは元気よく答える。

 

「……誰だ、この坊主」


「拾った!」


「拾われてません」

 

 細かいところを気にしなければ、その通りなのだが、野良犬のような勢いで紹介されるのは心外だったので、ユウマもすかさず言葉を重ねる。


「そうか」


 さほど驚きもせず、男は頷いた。

 あまり考えたくないが、身寄りのない子供が拾われるみたいな話はよくあるのかもしれない。


「まぁなんだ。あんまり面倒ごとに首を突っ込むんじゃねぇぞ。近頃、物騒な話もあるからよ」


 男は、アイリを気遣うような言葉をかける。


「…………そうね。気を付けるわ」


 アイリの先ほどまでの明るさが、一瞬だけ鳴りを潜めた。

 

「大丈夫。もしもの時は、私が守る」


 アイリの返答に何かもの言いたげだった男も、ユラの言葉を聞くと、安心したような表情を浮かべた。

 

「そうだな。ユラにレインもいるんだ。心配ねぇな」


 そう言ってからユウマのほうにも声をかける。

 

「坊主もしっかり見守ってくれ。こいつは少し危なっかしいところがあるからよ」


「もちろんです。二人とも俺がしっかり守りますよ」


「あなたに言われたくないわね」


「…………」

 

 アイリだけでなく、ユラもじっとりとした目をユウマへ向ける。

 

「……冗談だって」

 

 ユウマは曖昧な笑みを浮かべ、二人からの不満げな視線をやり過ごす。

 その様子に男は再び豪快な笑い声を上げると、家のほうへ戻っていった。


「食料品はダイナさんの店で買うことが多いわ。あとでお店に顔を出しましょう」


 歩きながら、アイリがそう言った。


 

 しばらく歩いたところで、足元から土の感触が消えていることにユウマは気づいた。


 道はいつしか石畳へと変わっている。現代日本ほど整然とはしていないが、それでも先ほどまでとは雲泥の差だった。

 

「……同じ町だよな?」


 足元に加え、その様相を変えていく街の様子に思わず、そんな疑問をアイリに投げかける。

 

「失礼ね。アッシュ地区だってちゃんと王都の一部よ」


「アッシュ地区?」


「さっきまでいた辺りのことよ」

 

「ああ。それにしても町の様相に違いがありすぎる気がするけど」


 建物は数を増し、二階建て、三階建ての建物も目立つようになっていた。

 また道に並ぶのは露店だけでなく、ちゃんとした商店も見かけるようになる。軒先には色鮮やかな布や食料品が並び、商人たちの呼び込みの声が通りのあちこちから飛んでくる。


「それは……中心部と比べられたらそうだけど……」


 言い淀むアイリを横目に行き交う人の中に、気になるものを見つけ、今度はユラに声をかける。


「ユラも、ああいう仕事してるの?」


 自分たちとそう歳の変わらなそうな少年が、身体が隠れそうなほど大きなバックパックを背負って歩いている。

 ユウマが少年を指さすと、ユラもそちらへ目を向ける。


「……似たようなことはしてる」


「荷物運び?」


「素材回収……荷物運びよりは危険」


 素材回収か。薬草とかの採取依頼のことだろうか。

 

「あれ、結構重そうだけど」

 

「平気」


「ユラ、そこらの男よりもよっぽど力があるし、強いわよ」


 誇らしげにそう言ったアイリの言葉にこくりとユラが頷く。

 ユラの華奢な体を見ると、とてもそうは思えないが、何か理由があるのだろう。まだ出会って二日目だ。無理に聞くようなことでもない。ユウマはそれ以上追及しなかった。


「着いたわよ」


 またしばらく歩いたところで、そう言ってアイリが指した先には、見慣れない建物があった。


 建物の前には、剣を背負った男や鎧姿の女、杖を手にした者たちが行き交っていた。その中には、明らかに人間とは違う特徴を持つ者の姿まである。

 まさか。胸の奥が、にわかに騒ぎ始める。


「あれは冒険者ギルドよ。私とユラも仕事を受けることがあるわ」


「おお、すげぇ!」


 思わず感嘆の声が漏れた。


「そんなに珍しい?」


 隣から声がして目を向けると、ユラが不思議そうにこちらを見ていた。


「珍しいっていうか……男ならちょっと憧れるだろ、こういうの」


「……分かんない」


「ですよね」


 即答だった。けれどユラは、興奮するユウマがよほど珍しかったのか、しばらくこちらを見つめていた。


 冒険者。異世界に来たのなら、一度は聞いてみたかった響きだ。伝説に名を残すような冒険者もいるのだろうか。ランクなんかもあったりするのかもしれない。知りたい。

 急に聞きたいことが山ほど湧いてきた。

 

「レインもよくここにいるわよ」


「レインも冒険者なの?」


「そうよ。まだ見習いみたいなものだけどね」


 それだけ説明すると、アイリとユラはギルドのほうに歩いていく。

 

 胸の高鳴りと、中へ足を踏み入れることへのわずかな不安。二つの感情を抱えながらユウマは二人の後を追った。

 

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