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振られた俺、異世界で嫁探し始めます  作者: 小鳥遊
1章 幼少期編①
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第6話 朝食

 階段を下りると、昨日とは逆側、祭壇を正面に見て左奥にある小さな部屋へと案内された。中央には年季の入った木製のテーブルが置かれ、その上には人数分の食事が並べられている。

 

 硬そうなパンに、野菜を煮込んだスープ。それと薄く切られた肉が数枚。決して豪華とは言えない。それでも、湯気とともに立ち上る香りは、空腹の腹には十分すぎるほど魅力的だった。


「おはようございます、ユウマ君。よく眠れましたか?」


 すでに席についていたエリアスが、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。


「おかげさまで。起き方は最悪でしたけど」


「……ちゃんと起きた」


「そういう問題じゃないんだよ」


「ふふっ。朝から賑やかですね」


 エリアスに促され、ユウマも空いている椅子へ腰を下ろす。皆が席につくと、エリアスが短い祈りを捧げる。アイリとユラも慣れた様子でそれに続いた。ユウマも見よう見まねで祈りを捧げる。

 

 皆が食事に手を付け始めたのを確認し、ユウマも目の前のパンを手に取り、一口かじってみる。


「…………硬っ」


 思わず声が漏れた。


「そう?」


 向かいではアイリが同じパンを平然とかじっている。


「そう? じゃないって。顎鍛えるやつだろ、これ」


「大げさねぇ」


「スープにつけるといい」


 隣からユラがこちらを見ることなく、ぼそりと言う。言われるままパンをスープに浸してから口へ運ぶ。

 先ほどまでの硬さが和らぎ、野菜と肉の旨味を吸ったパンが口の中でほどけていった。


「お、美味い」

 

「…………」


 ユラは何も言わなかったが、表情に乏しいその顔が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。

 そんなユラの皿へ、隣からすっと手が伸びる。ユラは黙々と食事を続けたまま、ぺしりとその手の甲を叩いた。


「一枚くらいいいじゃない」

 

「ダメ」


「ケチ」


 口を尖らせて文句を言うアイリを、ユラは軽くいなす。

 

「アイリ。自分の分があるでしょう」


「はーい」


 エリアスに窘められ、アイリが渋々手を引っ込める。そんなやり取りを眺めながら、ユウマはスープを口へ運んだ。

 昨日までなら、朝食なんて腹を満たすためだけのものだった。起きて、適当に食べて、シャワーを浴びて仕事へ向かう。

 誰かとこんなふうに同じ食卓を囲んだのは、いつ以来だろう。


「ユウマ?」


「ん?」


「どうしたのよ。ぼーっとして」


「……いや」


 ユウマは小さく首を振り、もう一口パンをかじる。


「美味いなって思ってただけ」


「そうでしょう、そうでしょう」


「なんでアイリが得意げなんだよ」


「……アイリはパンを切っただけ」


「ちょっとユラ?」


 ユラから二度目の追撃を受け、アイリがたじろぐ。その様子に、ユウマは思わず笑みをこぼした。

 

 知らない世界の、知らない家。

 昨日出会ったばかりの人たち。

 それなのに、この騒がしさは不思議と嫌ではなかった。


          ◇


「よし! それじゃあ行くわよ!」


 朝食を終えて身支度を整えると、教会の前でアイリが高らかに宣言した。


「……どこに?」


「町の案内よ」


「町?」


「あんた、この辺りのこと何も知らないでしょ?」


「まあ、それはそうだけど」


「でしょ? だから用事ついでに案内してあげるわ」

 

 ついでとはいえ、ユウマとしてもありがたい提案だった。

 これからこの世界で暮らしていくのなら、周囲のことを知らないままというわけにもいかない。


「私も行く」


 背後から声がして振り返る。そこには小さな鞄を肩に掛け、ゆったりとした上着に身を包んだユラが立っていた。

 身体の線を覆い隠すような服の間からは、腰の左右に提げられた二振りの短剣が覗いている。


「ユラも?」


「……ん」


「今日も仕事じゃないの?」


「午後から」


「そっか。じゃあ三人で行きましょ!」


 嬉しそうなアイリの隣で、ユラがちらりとユウマを見る。数秒見つめたあと、何事もなかったように顔を逸らした。


「…………」


 ユウマにも、さすがにその意味は分かった。


「俺の監視じゃないよな?」


「…………」


「なんか言って?」


「行こ、アイリ」


「まさかの無視!?」


 二人はさっさと歩き出してしまう。

 その背中を追いかけようとしたところで、


「ユウマ君」


 エリアスに呼び止められた。振り返ると、エリアスは教会の入口に立ったまま、静かにこちらを見つめていた。


「これから大変だと思いますが、アイリのことをよろしくお願いします」


 まっすぐこちらを見つめるエリアスの目には、強い意志が宿っていた。ユウマにはその言葉の意味は分からなかった。だが自然と口が開く。


「はい」

 

 ユウマの答えに安心したように、エリアスは優しい表情を浮かべる。

 

「せっかくですから、ゆっくり見てきなさい。ここが、これからユウマ君が暮らす町になるのですから」


「…………」


 一瞬、返事が遅れた。

 これから暮らす町。昨日までの自分なら、まるで他人事のように受け流していたはずの言葉。だが今は、ほんの少しだけ違って聞こえた。


「……行ってきます」


「はい。いってらっしゃい」


 自然と口から出た言葉に、自分でも少し驚く。

 ユウマは誤魔化すようにエリアスへ頭を下げると、先を歩く二人の背中を追いかけた。


「ちょっと待てって!」


「遅いわよ、ユウマ!」


 アイリの声が朝の通りに響く。ユウマはその声を追うように、まだ何も知らない町へ足を踏み出した。

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