第28話 それぞれの思惑
「剣が欲しいって言った割に、あんまり興味無さそうだったわね」
アイリは不満げに眉をひそめている。
さっきの武具屋での態度のことを言ってるのだろう。ユウマとしても、興味がなかったわけではない。咄嗟に出た言い訳だったが、自分の剣が欲しいというのは本当だ。
ただ、自分の剣を選ぶこと以上に気になることが多くて集中できなかったというのが実のところだった。
「あー、いやでも最後に選んでくれた黒隕鉄の剣はしっくりきたぜ?」
「あんなの重くて、丈夫なだけの剣よ? 魔剣は無理でも、魔力が込められた剣くらいなら頑張れば買えないことはないと思うわよ」
「いいんだよ、他の剣は買うのに一年近くかかるだろうけど、あの剣ならゆっくり貯めても、半年もあれば買えるだろうし。それに——」
「アイリが選んでくれたことには変わりないからな」
「あっそ」
そう言うと、アイリは再び正面に視線を戻した。不満げに寄せていた眉は、いつの間にか緩み、代わりに柔らかな表情が浮かんでいた。
「まぁ、そんなことより、まだ何か隠してることがあるんじゃないか?」
アイリの足が一瞬止まった。しかし、すぐにまた何事もなかったかのように歩き出す。
「別に……ないけど」
「ふーん。じゃあノアから聞いたことをエリアスあたりに相談しようかな」
「やめて!」
そう言って足を止めたアイリが、じろりとこちらを睨んだ。
「嘘だよ、そんなことしないよ。でも、俺はもう聞いちゃったんだからさ、協力くらいさせてくれよ。一人で調べるのにも限界があるだろ?」
「でも……」
決めかねているのか、アイリの視線が落ち着きなく彷徨う。
「私のせいでまた家族が……」
「ダンジョンのことを言ってんなら、気にしなくていいって。あの依頼に参加したのは俺たちが自分で決めたことだろ? それに、あの一件があったからユラとも仲良くなれたし、悪いことばっかりじゃなかったんだぜ。だから、そんなに心配すんなって」
ユウマはアイリをまっすぐ見つめ、笑顔でそう言った。
「……分かった」
まだ不安げではあったが、アイリの視線はしっかりとこちらを見つめていた。
「でもエリアスにユラ、レインには知られないようにしたいの」
「分かってるよ。でも本当に危ない時は、みんなにも力を貸してもらおうぜ」
「……そうね」
返事までの短い沈黙から、まだ納得しきれていないことは伝わってきた。
アイリには悪いが、いざとなれば、みんなの協力を仰ぐことを躊躇うつもりはない。もっとも、そんな状況になる前に止めるのが俺の役目だ。
「よーし、じゃあ教会への道すがら、アイリの調べたことを教えてくれよ」
改めて、ユウマがアイリに声をかけるが、アイリは少しだけ考えるように、眉を寄せた。
「ちょっと説明しづらいから、夕食の後に部屋に来て。その時、話すわ」
「分かった。二人で解決しちまおうぜ! あーでも、危ないことはなしで、黒幕をやっつけるのは衛兵に任せる感じで行こうぜ」
「……そうね」
アイリの表情が、一瞬曇ったように見えた。
まだ自分以外に危険が及ぶことを心配しているのだろうか。まぁ、今は無理に聞き出す必要もないだろう。
何より、当初の希望通り、相談役どころか協力者になることまでできたのだから上々だ。
自然と、教会に向かうユウマの足取りは軽くなった。
教会の扉を開けると、食堂の方からユラが顔を出した。
二人の姿に気づくなり、小走りで駆け寄ってくる。そして、ユウマとアイリの手を取った。
「きて」
それだけ告げると、二人の手を引いて食堂へと向かっていく。
状況がいまいち飲み込めず、ユウマはアイリと顔を見合わせた。
食堂に入ると、そこにはレインがいた。
「やっと帰ってきたか」
「なんだ? レインもいるのか。それにエリアスがいないな」
「エリアスのおっさんは、病気の子の家に行くことになって出かけちまった。そんなことより、ちょっと相談があってな。アイリに」
「私?」
予想外だったのか、アイリが一瞬きょとんとする。かくいうユウマも少し驚いていた。
てっきり、今日の話、もといアイリに贈る杖についての話だと思ったのだが、指名されたのはアイリだった。
もしかして人攫いの件をアイリが一人で調べていることがバレた? いや、それにしては雰囲気が普通すぎる気がする。
「そういうことだから、ユウマの方は二階にでも行っておいてくれ」
「ちょっと、なんでユウマを追い出すのよ。そんな秘密の相談なわけ?」
「別にそういうわけじゃない。ただ、ユウマがいると、うるさくなるからな」
まさかそんな理由で追い出されるとは思わず、ユウマは言葉を失った。
「そうだな……じゃあ、ユウマにはユラが説明してくれ」
レインの言葉にユラがこくりと頷く。
「行くよ」
未だに傷心中のユウマの手をユラが取る。そのまま手を引かれ、ユウマは二階のユラの部屋へと向かった。
「いつまでショック受けてんの」
椅子に後ろ向きにまたがり、背もたれに両腕を乗せたユラが面倒くさそうにこちらを見ている。
「だって……うるさいって」
「あれは、ユウマとアイリを引き離すためにレインが一芝居打ったの。まぁ、本当にうるさいのも、ちょっとあるかもだけど」
「やっぱり、俺ってうるさいのか……」
「はいはい、ユウマはうるさくないから早く元気出してよ」
「そんな適当に言われても……」
ユラは大きなため息をつく。
「今日、私たちはギルドに行ったの」
どうやら、これ以上の慰めは期待できないらしい。
ユウマは諦めて、ユラの話に耳を傾けることにした。




