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振られた俺、異世界で嫁探し始めます  作者: 小鳥遊
1章 幼少期編①
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第19.5話 認めてないから

ここから少しだけ、ユラ視点の話になります。

 その夜、ユラは商人の護衛の依頼を終え、教会へ戻ってきた。


「思ったより遅くなっちゃったかも……」


 そんな独り言をこぼしながら、教会の扉を開ける。

 長椅子が並ぶ通路の中央を抜け、そのまま祭壇の右奥にある扉へ手を伸ばしたその時だった。

 ユラが触れるより先に扉が開き、レインが姿を現す。


「こんな遅い時間にどうしたの」


 今日はレインが来るなんて聞いていなかった。


「……なんでもねぇよ」


 どこか不機嫌そうにレインが答える。

 

 ユラが首を傾げると、レインは困ったように頭を掻き、小さくため息を吐いた。


 そしてすれ違いざま、ユラの肩へ手を置く。


「アイリのこと、頼むぞ」


「どういうこと?」


「行けば分かる」


 それだけ言い残し、レインは教会を出ていってしまった。

 

 ——行けば分かる?

 

 まるで状況が飲み込めない。とりあえず、開けたままになっていた扉をくぐり、そのまま階段を上がった。


「ただいま」


「おかえり、ユラ」


 ユラの声に、アイリとエリアスが反応する。

 直後、アイリが勢いよく飛びついてきた。

 

 不意に飛びつかれ、ユラの身体がわずかによろめく。それでも、アイリの身体をしっかりと腕の中に受け止めた。


「……ただいま、アイリ」


 依頼帰りの身体には、まだ疲労が残っている。けれど、腕の中に感じるアイリの重みと温もりは心地よく、自然とユラの口元が緩んだ。


 アイリの肩越しには、優しく微笑むエリアスの姿。

 そして。


「…………誰?」


 その隣に、見知らぬ男の子がいた。


「ユウマよ。今日からしばらく一緒に住むことになったの」


「聞いてない」


「今決まったもの」


「…………」


 ——また面倒ごとか。

 ユラは、先ほどのレインの言葉の意味を理解した。


 ユラは、ユウマと呼ばれたその少年を、じっと観察する。

 小柄な体格に、まだ幼さの残る顔立ち。飛び抜けて整っているわけではないが、悪くもない。

 年齢は自分より下……アイリと同じくらいだろうか。

 身に着けているのは、随分と着古された衣服だった。どこかで見た覚えがある。そうだ。レインが昔着ていたものだ。

 

 だが、それ以上に気になったのは、彼自身が纏う雰囲気だった。

 これまで出会ってきた誰とも違う。何が、と聞かれても答えられない。そこにいるのに、どこか足りない。そんな奇妙な違和感があった。

 それが良いものなのか、悪いものなのか。今のユラには、まだ分からなかった。


「えっと、ユウマです。よろしくお願いします」

 

 よろしくって何。

 

「……ユラ」


 名乗られたからには、返事くらいはする。

 だが、それ以上は話さない。話してやらない。

 

 そんなことを考えていると、さっきまで忘れていた疲労が、どっと戻ってくる。胸に残るもやもやが重なり、ユラはその場を後にすることにした。


「……あとで話、聞く」


 アイリに、それだけ告げる。

 そして最後に、ユウマへ視線を向けた。


「……変なこと、しないでね」


 それだけは念を押し、ユラは自分の部屋へ戻った。


           ◇

 

 アイリの用事ついでに、ユウマへ町の案内をすることとなった。


 ユラは後ろを歩くアイリとユウマをちらりと見る。

 

 事情は昨晩、軽くアイリから聞いていた。

 ユウマというあの少年は、アイリの召喚によって呼び出されたらしい。

 にわかには信じがたい話だったが、アイリは嘘をつくようなことはしない。おそらくその通りなのだろう。

 だが得体が知れないというのが正直なところだ。

 

「ユウマは悪い奴じゃないわ」


 自信満々。そんな昨晩のアイリの顔が浮かぶ。

 いつもの根拠のない言葉。

 だが、アイリの人を見る目が確かなのは、ユラもよく知っていた。

 

「要観察……かな」


 ユラは、ぼそりとつぶやいた。

 そして、後ろから聞こえてくる興味深い話題に耳を傾ける。


           ◇

 

 レインと剣を構えて向かい合うユウマをユラは見つめる。

 

 この勝負の結末は既に見えている。

 構えは素人そのもの。たとえユラと同じ低魔力体質だとしても、ユウマが勝つようなことは、万に一つとしてないだろう。

 

 アイリの合図で、レインが切りかかる。

 最初の一撃で、勝負が決まるかとも思ったが、意外にも、ユウマはその一撃を受け止めた。


「へぇ……」


 思わずそんな感嘆の声を漏らす。

 ズブの素人にしては、筋は悪くない。それに、手加減はあるが、レインの一撃を受け止めたのだ。低魔力体質であることも確実だろう。


 レインが飛び退いた。その口元が微かに緩んだのをユラは見逃さない。

 次の一撃で終わりかな。ユラは直感する。


 レインが踏み込む。ユウマは再び受けようとするが、今回は上手くいかない。

 レインの剣がユウマの剣を受け流す。そしてそのまま流れるように頭へ向かって振り下ろされる。

 大人げない。素人相手に技を使うのはやりすぎだ。

 

 そのまま、勝負が決まったかと思われた。だが、


 バキッ。


 折れた木刀の先端が宙を舞った。

 ユラは目を見開く。


 いくら低魔力体質といっても、ユウマはまだ十歳ほどの少年だ。魔力も身体能力も、大きく伸びる年頃にすら達していない。

 木刀の一撃を受けた結果、木刀の方がへし折れることなんて、そんなの、今の私でも……。


「ありえねぇ……」


 レインからはそんな言葉が漏れ、隣のアイリは満足そうに頬を緩めている。

 そんな二人の様子を黙ってユラは見つめる。

 

 ——別に防げてないじゃん。

 そもそも、これが真剣での勝負だったら、地面に落ちているのは折れた木刀じゃなくて、ユウマの左手だったはずだ。

 動きも素人丸出しだし。レインだってまだ全然、本気じゃない。

 

 困ったように頬を掻いているユウマへ視線を向ける。

 気づけば、ユラは拳を握り締めていた。


           ◇ 

 

 広場に着くと、ユウマが地面に倒れこんでいた。


「そろそろ、ユウマも一本くらい取れたんじゃない?」


 分かり切っている問いをアイリが投げかける。

 

「そう見えるか?」

 

 やっぱり。今日も一本も取れてない。

 ユラの口元がほんの少しだけ緩む。

 そして、


「……次、私」


 それだけを告げ、レインから木刀を借りる。


「ユラも少しは手加減してあげなさいよ」


 アイリの言葉が聞こえたが、ユラは答えない。

 言われるまでもない。ユウマの相手なら、剣は二本だって必要ない。


「ちょっと休憩してもいいですか……?」


 まだレインから一本も取れてないくせに。

 ユラは返事をしない。

 

 ご丁寧な挨拶をしようとするユウマに構わず、ユラは踏み込んだ。

 そのまま正面から切りかかる。いつものように防ぎきれず決着——かと思われたが、ユラの一撃をユウマが受け止めた。

 

 へぇ。守りはそれなりになってきたんだ。

 そんなことを感じながら、一度、ユラは後方へ飛びのいた。


 「なんで不満そうなんだよ」


 内心を見透かされたようで、なんとなく癪に障る。

 

 再び、踏み込む。

 もう一度正面、と見せかけて、左。

 フェイントを入れて、ユウマの脇腹めがけて横薙ぎの一撃を放つ。

 だが、それにもユウマは反応していた。

 

 ——生意気。

 ユラはテイルウィンドを使った。

 瞬間、踏み込みが一段鋭くなる。


 ユウマの剣を置き去りにして、ユラの木刀がその脇腹を捉えた。そのまま振り抜く。

 ユウマの体は地面に転がる。

 しまった。つい反射的に固有魔法を使ってしまった。

 

「……全然まだまだ」


 動揺を悟られないよう、そんな言葉をユウマにかける。


「でもユラ、今の……いつもと違わなかったか?」


 やっぱり気づかれていた。

 そのまま踵を返す。

 

 まぁ、成長してることは認めてあげる。私のほうが、まだ全然強いけど。

 もちろん、そんなことは言葉にはしない。

 そんなことより、早く朝ごはんにしよう。魔力を使ったから、その分を補給しないと。

 

 アイリと並んで、ユラは帰路につく。遅れてユウマとレインも、その後ろをついてきた。

 

           ◇

 

 嫌な予感は、アイリが素材回収依頼の話を始めたあたりからしていた。

 アイリはまだ冒険者見習い。

 レインは正式な冒険者ランクこそ持っているものの、ランクが付与されてからまだ三ヶ月は経っていない。


 今回、ユウマに付き添える条件を満たしているのは、自分だけだった。

 

「アイリ……私、ユウマの保護者役なんてやだよ」


 思ったことを、そのまま口にする。

 別に、ユウマが嫌いなわけじゃない。

 ただ、ダンジョンの中まで面倒を見るとなれば、話は別だ。


「わがまま言わないの」


「薬草採取とか街中の雑用だけじゃ、稼げる額にも限界があるでしょ。ユウマがダンジョンの回収依頼に参加できるようになれば、今よりずっと稼げるようになるわ」

 

「……それは」


 そうなんだけど……。

 反論の余地はなかった。ユラはそれ以上何も言い返せず、口をつぐむ。


「俺からもお願いします、ユラ」


 ユウマが、いつになく真剣な顔で頭を下げた。

 分かったといってあげたい気持ちもある。

 けれど、うまく言葉が出てこない。


「まあ、こいつも前よりは動けるようになってる」


 レインが口を挟む。


「今日やってみて分かっただろ。少なくとも、足手まといになるほどじゃねぇよ」

 

 それも、分かってる。

 実際、今日の勝負では、固有魔法まで使わされた。


「確かに、最近は何かと入り用ですからね」


 今度はエリアスが穏やかに続ける。


「もちろん無理をする必要はありませんが、ユウマ君がもう少し稼げるようになれば、正直助かるのも事実です」

 

 ——ずるい。

 それを言われたら断れないじゃん。

 ユラは小さく息を吐いた。


「……分かった」


「ほんとか!」


 いつもは妙に大人ぶってるくせに。

 こんなことでそんな顔するんだ。

 少しだけ意外に思いながら、ユラは続ける。


「勝手なことをしないこと。危ないと思ったら、すぐに下がること。それと——私の言うことには従うこと」


 素材回収は、攻略や強力な魔物の討伐に比べれば危険は少ない。

 でも、ダンジョンであることに変わりはない。

 何が起こるかなんて、誰にも分からない。

 これを守れないなら、絶対に連れていけない。

 

「守れる……?」


 最後にそう一言付け加えた。

 ユウマの顔を窺う。


「もちろんです、ユラさん」

 

 なぜか、妙なポーズまでつけて即答した。


「……何そのポーズ」


「ユラさんの命令には絶対服従するという意思表示です」


「そこまで言ってない……」


「じゃあ八割くらいで」


「全部守って」


「はい」

 

 もういつもの調子に戻っている。

 ユラは呆れたように小さく息を吐くと、再び食事に手を伸ばした。

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