第14話 道中にて
「あんたは、なんでこの依頼に参加したの?」
不意に声をかけられ、ユウマは顔を上げた。向かいに座るミレナと目が合う。腕を組んだまま、どこか探るような視線をこちらへ向けていた。
「生活費の足しになればと思いまして」
ユウマは笑顔で答える。
「ふーん」
ミレナの視線が、ユウマの頭から足元までを軽く往復する。
「見習いなのに参加してるってことは、そっちの子と同じなのかしら」
「はい。僕もユラと同じ《魔薄》です」
「…………」
ミレナが目を見開いた。同時に、馬車の中がわずかにざわつく。
ほかの冒険者たちの視線までこちらへ向いたことで、ユウマはようやく自分が何かおかしなことを言ったらしいと気づいた。
「……え?」
「ちょっと。自分で言わないでくれる?」
ミレナが呆れたように眉を寄せる。
「こっちがわざわざ気を遣ってるのに」
「あ。この言い方、ダメなんでしたっけ……」
しまった。以前にもそんな話を聞いた気がする。固まるユウマの隣で、ユラが小さく息を吐いた。
「それ、蔑称に近い言い方。普通は自分で名乗らない」
「いや、でもさ」
ユウマは少しだけ身を乗り出す。
「やっぱり魔薄の方がかっこよくない? 低魔力体質って言うより。なんかこう……分かんない?」
「そう思ってるの、たぶんユウマだけ」
ユラは、また始まったと言わんばかりに目を伏せる。
「そうっすか……」
「あんたの連れ、変わってるわね」
ミレナが同情するような視線をユラへ向けた。
「……知ってる」
どうやら、この馬車に味方はいないらしい。
「まあまあ」
そんなユウマに助け舟を出したのは、ハンナだった。
「ユウマ君はまだ幼いですから。響きが格好いい言葉を使いたくなる時期なんですよ」
「ハンナさん……!」
やはり優しいお姉さんは正義なのかもしれない。そう思ったのも束の間だった。
「そうかしら?」
ミレナが納得のいかない顔でユウマを見つめる。
「この子、年の割に、妙に大人びてる気がするのよね」
「……それは私も思ってた」
二人分の視線を受け、ユウマの背筋に嫌な汗が伝う。
自分が別の世界から来たことは、ユラもすでに知っている。だが、中身が二十歳をとうに超えた大人だということまでは話していなかった。
単純に話す機会を逃していたというのもある。それに、子供として扱われることで何かと融通が利く場面も多く、わざわざ訂正する必要を感じなかったのだ。
何より、今さら前の世界について詳しく話したところで、信じてもらえないか、余計な質問が増えるだけだ。
「えーっと……そうです! ハンナさんの言う通りです。かっこいい大人に憧れてるんですよ。いや、大人っぽく見えて良かったなぁ」
ユウマは若干苦しい言い訳を口にする。
「ふーん……」
ミレナがじっと見つめてくる。
「でも、あなたのそれって真似してるというより、元からそういう喋り方だったみたいに聞こえるけど」
「…………」
鋭い。初対面の時から遠慮がないとは思っていたが、妙なところで勘までいい。
某アイリさんに似たものを感じる。
「ヒヒィンッ!」
そのときだった。前方から馬の鋭い鳴き声が響く。直後、馬車が大きく揺れた。
「っ!」
車輪が地面を削る音とともに、身体が前へ投げ出される。ユウマは咄嗟に座席へ手をつき、なんとか身体を支えた。
「もうちょっと静かに止まれないわけ!?」
ミレナが苛立った声を上げる。だが、その声にかぶせるように、外から怒鳴り声が飛び込んできた。
「レッサードレイクだ! 前方に群れがいる!」
「レッサードレイク……?」
聞き覚えのない名前だった。だが、周囲の反応を見る限り、質問している場合ではないらしい。さっきまで座っていた冒険者たちが一斉に立ち上がる。
「まったく……道すがらくらい大人しく休ませてくれないかしら」
悪態をつきながらも、ミレナの動きに迷いはなかった。杖を掴み、そのまま馬車から飛び降りる。
ハンナもすぐさま腰を上げた。
「あなたたちは、無理して戦わなくていいからね。怖かったら馬車の中にいなさい」
つい先ほどまで冗談を交わしていた面影はない。声も、表情も、動きも。すべてが熟練の冒険者のものに一瞬で切り替わっていた。
ハンナはミレナの後を追って馬車から飛び降りる。続いてほかの冒険者たちもそれに続いた。
「…………」
ユウマは腰の剣へ手を伸ばした。
指先が柄に触れる。太陽はとうに昇りきっているというのに、ギルドにいたときよりも、ずっと冷たく感じた。
レインやユラとの特訓で、スライムを相手にした実戦なら何度か経験している。だが、あれは危険の少ない相手だった。
何かあれば、ユラやレインが助けてくれる。だからこそ、どこかゲームの延長のような感覚があった。
けれど、今回は違う。
相手は、本当に自分の命を奪いうる魔物だ。そう意識した途端、喉が急に乾いた。
「ユウマ」
隣から名前を呼ばれる。ユラはすでに立ち上がっていた。
その瞳は、真っ直ぐ前を見据えている。
「約束」
「……分かってる」
勝手なことをしない。危ないと思ったら下がる。そして、ユラの指示には従う。
「ユラの言うことを聞く」
「……ん」
短く頷き、ユラも馬車を降りる。
ユウマは一度だけ息を吐き、あとに続いた。




