第9話 魔力測定
通されたのは、簡素な机と椅子が置かれただけの小さな部屋だった。
壁際にはいくつかの棚が並び、見慣れない道具や書類が整然と収められている。
「ここでは魔力や魔法適性の検査のほか、冒険者登録なども行っています」
「へぇ……」
「確か……こっちの棚にあったはず」
そう言いながら、リシェルが棚から透明な石と、小さな宝石があしらわれた羽ペンを取り出した。
透明な石は両手で包めるほどの大きさで、見た目だけなら少し大きな水晶玉にも見える。羽ペンに埋め込まれた宝石も、それとよく似た透明な輝きを帯びていた。
「これで魔力を測るんですか?」
「ええ」
リシェルは水晶を机の中央へ置き、隣に羊皮紙と羽ペンを置く。
「その水晶に手を触れてもらえれば、それだけで大丈夫ですよ」
「魔力を流すみたいなのは必要じゃないですか? 全然そういうの分かんなくて——」
「必要ありません。魔力があれば反応します。あとは勝手に情報が隣の羊皮紙に記されますので」
リシェルさんにそう言い切られ、とうとう逃げ道がなくなった。
ちらりと横を見る。アイリは見るからにわくわくしている。ユラは相変わらず無表情ではあるが、その視線は真っすぐこちらへ向けられていた。
「ほら、早く」
「分かったって」
急かされながら、ユウマは恐る恐る水晶へ手を伸ばす。指先が、冷たい表面に触れた。
「…………」
「…………」
何も起こらない。
「…………?」
アイリが首を傾げた。ユウマとしては予想通りだ。しかし、リシェルは違った。
「……あら?」
先ほどまで浮かべていた柔らかな笑みが、わずかに曇る。
「どうしたの?」
「少し待ってくださいね」
リシェルは水晶を持ち上げると、今度は自分の手を触れさせた。宝石が淡い光を灯すと同時に、羽ペンがひとりでに動き出し、羊皮紙の上をさらさらと走る。
「おお……」
「問題はなさそうですね」
水晶を再び机へ置くと、文字の記された羊皮紙を一枚取り上げ、ユウマを見る。
「もう一度、触れてもらえますか?」
言われた通り、もう一度手を置く。やはり何も起こらない……かと思ったが、不意に羽ペンが羊皮紙の上を走り始める。
「……おかしいですね。記録は始まっているのに、水晶が反応していません」
リシェルは腑に落ちない様子で首を傾げる。
対してユウマは、その言葉の中にあった「記録は始まっている」という部分にひとまず胸をなでおろした。
ユミルは魔力がないと言っていたが、こうして測定できているのなら、勘違いだったのかもしれない。
「終わった?」
「ええ。少し待ってくださいね」
リシェルが羊皮紙を手に取ると、待ちきれないとばかりに、アイリはその手元を覗き込もうと身を乗り出し、隣のユラまで珍しく首を伸ばしている。
しかし、二人の位置からでは羊皮紙の内容までは見えないらしい。
ユウマも横から覗き込もうとしたが、二人が前を占領していてうまく見えなかった。
「どう? どう?」
「アイリちゃん、少し近いです」
そう言ったリシェルが苦笑しながら羊皮紙へ目を落とす。
そして、その表情が止まった。
「…………え?」
小さく漏れた声を聞き、ユウマの胸に嫌な予感が戻ってくる。
「どうしたの?」
「いえ……十歳前後なら、まだ魔力量が大きく伸びる時期の前ですから、かなり低い評価が出ること自体は珍しくないんですが……」
「リシェルさん。私たちにも見せて」
リシェルの歯切れの悪い言葉に、アイリも気になったのか、そう言ってリシェルの服を掴む。
するとリシェルは、今度はアイリとユラにも見えるよう、羊皮紙を低い位置まで下げた。さすがに気になったユウマも、アイリとユラの後ろから羊皮紙を覗き込む。
最上部には【ユウマ】という名前が記されている。
その下には、左側に【魔力量】、【属性適性】、【系統適性】、【固有魔法】の項目が縦に並び、右側にはそれぞれの測定結果が記されている。
「空白……?」
ユウマの魔力量の欄には【 】だけが記され、中には何の文字も記されていなかった。
【属性適性】と【系統適性】の欄も同じだった。ただ一つ、【固有魔法】の欄だけには文字が記されていた。
【 無 】
ただ、それだけだった。
リシェル、アイリ、ユラの三人がゆっくりと顔を上げ、その視線が一斉にユウマへ注がれる。
「ええーと……?」
ユウマは何度か目を瞬かせ、所在なさげに頬を掻いた。




