願望
残骸回収ドローンが帰ってくる。一機は不潔を、もう一機が215を回収している。047から降りたカロンが、黒い残骸に駆け寄っているのを、ゴーグル越しにぼんやりと見る。
歪みきった胸部の装甲が剥がされ、コックピットが開かれる。圧縮して潰された鉄塊から血が漏れ、微かに肉片がはみ出ているのが見える。多分、腕。
コンコンと音がする。全天スピーカーじゃない。ゴーグルを外してドリンクを飲む。コックピットを開けると、後ろの証明に照らされて、2人の人影がぼんやり浮かぶ。
「大丈夫か?」
「僕は大丈夫」
「ほんと〜?」
「嘘だよ」
144番のリオ。270番のイリア。同じ部隊としてよく一緒に居る2人だ。イリアが僕をまじまじと見る。
「怪我、無いけど?」
「そっちじゃないというか」
「どうせ寝れないだろ?ちょっと歩こうぜ」
「うん」
GHOSTをおっちゃんに任せ倉庫から出る。半ば後ろめたいように、そそくさとその群衆を通り抜ける。右から聞こえてくる泣き声を掻き消すように、左から不潔の残骸を見て賛美する声が聞こえる。
チラリとこちらを見る人は、相変わらずすぐに目を逸らす。カロンはこちらの存在すら気づいて居ない。
宿舎の影に消えて、喧騒が外の物になる。リオがペンライトを取り出して、暗い山道を照らす。落ち着く為にドリンクを飲む。
「死人が出たのは2週間ぶりだな」
「そうだね」
「斧、空振っただろ?」
「うん。ミスした」
「まぁ、次頑張るしかねぇよ」
リオの言う通りでしか無い。僕が斧を空振りした。それで体制を崩してブーストを多めに使った。ジェネレーターの容量を見誤って、ミサイルに間に合わなかった。それで215が余計に前に出るしかなかった。
いや、後悔は次頑張る為にあるんだから、切り替え無いといけない。
少し開けた場所に出る。古い木製のベンチが、景色を見れるように佇んでいる。そこに3人で座って、ただぼんやりと星を見る。
Czは元から田舎だ。戦争が終わっても、星は変わらず見れるだろう。はっきり言って、見飽きた。
「海行きてぇなぁ」
「そうだね〜」
「行って何するの」
「泳ぐに決まってるだろ」
「えぇ〜。砂浜でのんびりしようよ、普通に」
「普通は泳ぐだろ」
ここから海までどれくらいなんだろう。あまり地理は詳しく無い。そもそも海で遊んだ記憶すらない。うちは貧乏だったから、学校に通って、家の事をして、戦争が起きて、両親は仕事から帰ってこなくなった。
「3人で行きたいね」
思いついた事を適当に口走る。
「さーて。生き残れるかどうか」
「そうだね〜。生き残れるといいね〜」
「……うん」
俯いてた僕の頬をリオが笑ってつつく。
「ごめんごめん。代わりにドリンク買ってきてやるよ。もう無いだろ?」
「え?うん、ありがとう」
「何味?」
「レモンで」
ペンライトの灯りを揺らしながら、リオが走って消えていく。そのまま死んでしまうような気さえして胸が苦しくなる。
髪に触れる感覚が来る。イリアに頭を撫でられる。
「いいよ別に。そんな事しなくても」
「はいはい」
「僕だけ病んでて馬鹿みたいだね」
「優しいんだね〜」
「傲慢なだけだよ」
似たような会話を何度もしている気がする。イリアが欠伸をした。つられて喉から込み上げて来るものがあったが、押し込むようにドリンクを飲む。
「……いつまで撫でてるの」
「ん〜?萎れてるの面白いし」
イリアの手を退かす。イリアがシシシと笑う。
「そんなに待ってても、幻聴は来ないと思うよ〜?」
「……分かってる」
215番。シアさんも何も言わずに死んだ。アルトさんの部隊員で、年上は他にも沢山居るけれど、気安く接してくれる人は少なかったから嬉しかった。何度か共闘もした。もう少し何か話が出来たらなって思う。
「いっそ、動けない位に心が壊れた方がマシなのかな」
「良くないよ〜?本当に悩んでる人に、失礼じゃん」
「……その言い方だと、僕は悩んでるうちに入らないって意味になるけど?」
「そりゃあ、本当に幻聴に悩んでる人からしたら、そう思われるんじゃない?」
「ズルいなぁ……」
「トゥエルブは、この仕事向いてないよ〜」
そうだろうなと、自分でも思う。辞めたいなと思った矢先、僕に専属のプログラマーが着く話を思い出した。
いつか会ったら文句を言ってやらないと。あんたの考えた素晴らしい武装のせいで、僕はあの馬鹿武器を馬鹿だと認識してしまったんだって。
「……井の中の蛙。大海を知らず」
「ん〜?」
「何処で聞いたんだっけ?そういう言葉があったんだよ」
「あ〜。世界は広いよね〜って意味?」
「そんな感じ」
海、行ってみたいな。3人で。




