生身
ゴーグルを外す。全天スピーカーが上に上がっていく。何も無い前面の壁が開き、外の白が入ってきて目を細める。
灰色で無機質。天井の灯りは、でかい入口から入る光に完全に負けている。いつもの倉庫だ。
「おつかれ」
リフトに乗った整備のおっちゃんが顔を出す。立ち上がろうとして失敗する。頭の感覚がまだ完全に戻らない。
「アルトさんは?」
「ハンドラーのとこ。後で呼ぶってよ」
呼び出しは大抵ロクな話じゃない。怒られるか、僕に言われても分からない事を聞かされるか。
今度はちゃんと起き上がる。飲みかけのドリンクを取って、コックピットから出る。小さく伸びをしている間に、おっちゃんがコックピットの中に入る。
「今日も丁寧な操縦だったな」
「うーん。そうだといいけど」
「あとはやっとくから、降りていいぞ」
「うん。ありがとう」
リフトを降ろして床に出る。すぐに1人、近くに駆け寄ってくる。
「お疲れ様ですトゥエルブさん」
「あ、うん」
ナンバー316。先週入隊したばかりの新人のレイだ。ここの拠点では1番高い番号になる。
レイにタオルを手渡されるので、受け取って顔に当てる。
「キル数じゃ測れないトゥエルブさんの腕前が存分に発揮されてましたね。見てて楽しかったです」
「今日のGRAVEは?」
「もちろんやります。見ててくれるんですか?」
「まぁ」
遠巻きにこちらを見る数人と一瞬目が合うが、すぐに逸らされる。レイもそれに気づいたが、気にせず話を続ける。
「じゃあ、17時にお願いします」
「分かった」
上からヘリの音がする。残骸回収用のドローンが帰ってきた。骨みたいな白い装甲の山を積んで、奥の工場の方に消えていく。ほかのみんなが帰ってくる前にシャワーは使っておきたい。
「じゃ、シャワー行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいませ」
凄いとか、そういう事はよく言われるが、レイみたいに接してくれる後輩はあまり居ない。僕が部隊に居る時は、他とは違う戦術になるから、組む人は偏るし、苦手意識も持たれてる。らしい。
狭い自室から着替えを取りシャワー室に入る。鏡に映る、骨ばった身体に触れる。硬い。
「太らないなぁ」
汗を流し、髪を洗う。シャンプーの匂いは、思考を仕事から切り離してくれるから好き。程々に終わらせてシャワーを出る。廊下に出ると、ちょうど帰ってきたイリアと鉢会う。
「あ、お疲れ様で〜す」
「おつかれ」
「アルトさんが探してたよ〜?怒られてる所、撮れて無いの?」
「居なかったし、後で呼ばれるらしいし」
「へぇ〜」
「鍵閉めなよ」
それ以上会話も無く、イリアがシャワー室に消える。カチリと鍵が閉まる音がする。
宿舎を出て本部に行くと、廊下でアルトさんが待っていた。元気に手を挙げるので、怒られて無さそうだ。
「お、おかえり」
「はい、お疲れ様です。なんで呼ばれたんですか?」
「ストレート。話は早い方がいいもんな」
アルトさんの匂いがいつもと違う。嗅覚に集中してると、アルトさんが1歩後ろに下がった。
「単刀直入。お前に専属のメカモーションプログラマーが出来た」
「……なんですか?それ」
聞いたことないしピンと来ない。アルトさんには居るんだろうか。
「ま、細かな話は食堂に行きながらしよう。腹減ったろ?」
「まぁ、はい」
廊下を歩きながら、アルトさんに紙の資料とメモリデバイスを貰う。
「この前話してた、お前用の近接兵装のデータだ。GRAVEで見ておくといい」
「あれ、冗談じゃなかったんですか?」
「ハンドラーには通してあるよ」
だから怒られてないのか。と言うことは、車に乗っていたのも、そのメカ何とかって人に会うためだろうか。
食堂について注文を通し、ドリンクを取って席に座る。資料を開くが、相変わらず難しい事しか書いてない。
「そのプログラマーさんってのは?」
「向こうの都合で直接会わせる事は出来ないんだけど、連絡先は渡せるよ」
アルトさんが食事に手を付ける。大袈裟な表情をして味を噛み締めては、チラリと僕を見る。
「そういう事じゃなくて、何をする人なんですか?」
「あぁ。お前、GHOSTの運動性能が直線的過ぎるって感じた事無い?」
ある。頷く。量産企画の兵器に文句を言っても仕方ないけど、ただ素早いだけで思った通りには動かせないな。と言うのが最初の頃は感じていた。流石に今はもう気にしてない。そういう動かし方をするだけだから。
「ほかの区域でも似たような話題は偶に上がってるらしくてさ。そこでモーションの試作、運用機のテスターとして選ばれたのがトゥエルブって訳」
「はぁ」
とはいえ他の区域なら、僕よりナンバーが下で、接近戦を仕掛ける人は居たはずだったけど、なぜ僕なんだろう。
「分かりました。僕は何をすれば?」
アルトさんが口に入ってる食べ物を、喉の奥に押し込んで口を開く。
「ただ送られてくるモーションを入れて戦うだけだよ。有用性があると判断されれば、他の区域にも配られるから、そのレポートだけよろしく」
いつの間にか食事を終わらせたアルトさんが、皿を持って立ち上がる。
「じゃ、俺はこれで」
「あ、連絡先って言うのは」
「まだ貰ってない」
そそくさと離れていくアルトさんを追い掛ける事はせず、席に座り直す。
どうせ読んでも分からない資料を見ながら、ドリンクを手に取って飲む。
■オートノミア
敵対する自律兵器。又、自律兵器を生産している兵站基地などを指す総称。
初めは警護ロボットによる反逆だったものが、次第に独自の進化を遂げており、現在は白を基調とした流線型の飛翔機体が主流になっている。
一般的に兵站基地から出撃したオートノミアは帰還を行わず、機能停止まで巡航、攻撃をくり返す。
残骸は市場で取引されており、オートノミアの撃破、回収もひとつの産業になっている。




