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GHOST Tracking  作者: Anzsake
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2/19

戦闘区域


列車から降りる。閑散とした町がすぐそこに広がっていて、その向こうに緑色の山が見える。


本当に来てしまった。

ここは座標コードではCy区分に当たるが、それでもちゃんと生活圏があったのか。


駅を出ると車用の大通りが伸びていて、小さな商店街が並んでいる。その路肩に車が1台。連絡で聞いた軍用車だ。その横に立っている男が私を見る。


「……」


「……ホオヅキさん?」


「あ、はい」


私より少し下くらいの年齢に見える。ボサボサの短髪にインナーだけの上半身。隠す気のない軍事用のズボン。少し隈があるが、そんな事気にしていない用に笑う。犬みたいだ。

まぁ、お陰で連絡の相手だと分かりやすかった。


「俺が依頼主のアルトです。思ったより分かりやすい見た目で安心しましたよ」


飄々とした喋り方で笑う。自分の服を確認してみるが、どこに分かりやすい要素があったのか分からない。


「さ、行きましょうか」


促されて助手席に乗る。軍用車なだけあって座席は硬い。運転席に乗ったアルトがエンジンをかけて、車は走り出す。商店街はすぐに終わり、人通りのほとんど無い町を走る。


「ここはほとんどゴーストタウンです。まぁ戦線が近いから仕方ないですけど。うちらが休みを貰うと、よくここにお菓子とか買いに来るんですよ」


「……そうなんだ」


「あのホオヅキさんに依頼が出せただけでも運がいいのに、まさか現地に来てくれるとは。感激ですね」


あの。と言われると歯がゆい。このジャンルで同じことをする人がほとんど居ないから、仕事はよく回ってくる。


「別に、直接戦闘力に役立ってる物でも無いでしょ?」


「いやいや、似た性能の武装なら、よりスムーズな動きが入ってる方を選ぶのは、現場の常識ですよ?」


「そうなんだ」


人の居ない町を、助手席からぼんやり眺める。交差点に入った一瞬。左手の道路の真っ只中に、巨大な黒い塊が二基、仁王立ちしているのが視界をかすめた。建物の2階を優に超える全高。関節や腰回りからは金や銀のシリンダーが覗き、頭部の単眼センサーが赤い光をぼんやりと放っている。長距離用の照準センサーだ。


アルトの駆る車両は、その巨躯を気にも留めず交差点を走り抜ける。ビル陰に隠れ、黒い影は見えなくなった。

 

「え!?……戦闘!?」


「いいえ、ただオートノミアの進路になる危険があったので、今日は念の為」


「……でも道路塞ぐ意味ある?」


「あの先の山が戦闘予想区域なんで」


GHOSTの実物を最後に見たのは、2年前の正式配備が決定された時の公開イベント以来だ。初めて見た時は、なんて愛想の無い悪役面だろうと、鼻で笑ってしまった覚えがある。

そういえば、あれが実物が戦っている所は見た事がない。


「Czはどういう戦域なの?」


「Czの山の奥の方に、オートノミアの兵站工場があるんですよ。そこからCyに進んで来るのを止めるのが、俺たちの仕事ですね」


オートノミア。人の管理から外れたAIの軍事行為を指す名前だ。山間部や海上に兵站工場を作り、都市部や人を襲う傾向がある。オートノミアの動機は不明だが、軍や政府は直接的な攻撃を行わない。


車が左折する。先程戦闘予想区域と言っていた方向だ。


「零したら大変ね」


「まーそうですね」


アルトは危機感が無さそうに笑う。そういう物なのだろう。


「……戦闘、始まりますって」


アルトが言う。運転席を見たのと同時に、何処からか警報が短くなった。


「やばい?」


「まぁ、ぼちぼち」


話していた山の向こうから、何か点々が見えてくる。まだよく見えない。


「あれ?」


「あれ」


飛んでいる。目を細めてる私に、アルトが双眼鏡を渡してくれた。

上の白いヘリに吊るされている白い戦車が、砲身を下に向けながら、まるで何かを探すように動いている。


「中型程度ですかねー。あれで大体20mあります」


「デカイね」


「まぁあれくらいは」


左側から乾いた金属音と轟音が同時に来る。車のガラスが震える。高速で飛んで行った弾丸らしきものがヘリに命中した。


さっきのGHOSTだろうか。あの時はそんな兵装は持っていなかったが、何処かに置いてあったのだろうか。


黒い点々は次々と飛んでくる。とても2基のGHOSTで対処できるとは思えない。


「対空掃射とか無いの?」


「ははは。山が燃えますし、そんな事したら弾代で破産しますよ。軍が」


それもそうだ。軍も政府も、そんな事はしない。なんたって、この人相手じゃない戦争経済を、そう簡単に終わらせたくは無いのだろう。


「……了解。行ってらっしゃい」


アルトが耳に手を当てて喋る。誰かとの通信なのは分かる。


「例のあいつ。出ますよ」


「例の?」


「GH-Cz-012」


「……空なのに?」


「まぁ、あっちもずっと高高度には居ませんから」


点々は、次第に双眼鏡が無くても見える所まで来た。アルトの言った通り、高度を下げてくる。それなのにアルトは車を停めず、淡々と道路を駆け抜けていく。


「ねぇ!そろそろ何処かに隠れるとかさ」


「いやいや!こんな楽しい事なかなか無いですから!」


「死ぬって!」


「いつもの事ですよー」


私は滅多に無い。またアルトがインカムに手を当てる。


「トゥエルブ。俺は今出れないから、現場指揮はお前な」


「……12だから?」


「はい。俺も本当の名前は知らないんで」


右前方。一基のGHOSTが、オートノミアに向かって飛んでくる。双眼鏡を覗く。


射撃兵装を持っておらず、右手に斧。左腕に小型の追加装甲を付けてある。接近戦を行うGHOST特有の多眼フェイス。大きく地面を蹴って飛び上がったGHOSTと、戦車の砲塔が顔を合わせる。


戦車が撃つよりも先に、GHOSTが前にブーストを吹かし、斧による横の一閃。切り捨てる用に、GHOSTは次のヘリに向かった。


羽を切られたヘリが、よろめきながら堕ちてくる。私たちの乗る車のすぐ側に落下した。砂埃と風が車体を揺らす。


後ろからは、今も狙撃の轟音が鳴っている。


「凄いでしょう?」


アルトが笑っている。でも正直、凄いと思った。

■Cz区画


軍が定めた対オートノミアにおける戦闘区域。行政の発行している物とは、名前も区分けも異なる。

Cが区画名。zがC区画の軍の本拠地からの距離にあたり、zはC区画では最も遠方になる。

郊外の都市部だったが、現在は住民の殆どが都市部に移住しており、ゴーストタウンとなっている。

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