鬼灯 嫌な話
ヌルから送信された動画は、アルトの操縦するGHOSTからの視点だった。闇夜の上空、森の中を駆け回る4基のGHOST。そのひとつがトゥエルブ。
それがどのGHOSTかは、動きを見ているとすぐに分かった。
昨晩のこの進行で撃墜したGHOSTは5基。つい先程、オートノミア進行との衝突回避による潜伏中に一基撃墜。
ここ半年で撃墜したGHOSTの数に追い付いたらしい。
トゥエルブからの返信が切れて、スマホから顔を上げる。乗ってきた頃の電車はほぼ私だけだったのに、今じゃ全席が埋まり、立つ人も現れる。
家でやり残した事を片付ける為に、1度都市部に戻っている途中。見慣れた人の喧騒は、少しだけ心地良さすらある。
電車を降りて、見知った構内を真っ直ぐ歩く。華やかな看板は、半分近くがGHOST関係の求人だ。
駅を出ると、文字を書いた板を掲げた人集りを見る。パレードみたいに車道を歩いているが、その内容は綺麗では無い。
戦争を終わらせろ
そう赤文字で書かれた板が、足並みを揃えて揺れる。半分は老人で、もう半分は屈強そうな男性だった。
「経済を戦争に縋るな!」
「次の世代に残すな!」
各々がバラバラに言う内容そのものは揃えてある。どうしても滑稽に見えてしまうのは、そういう所もあるのだろう。
そのパレードとは反対方向、仕事場として借りているオフィスに向かう。私とアシスタントのサナの2人用の、小さな小さな部屋だ。
数ヶ月前、戦争終結派が軍事開発を研究する子会社を襲撃した事件を機に、自室で仕事をするのを辞めた。
オフィスの鍵を開けて電気を付ける。外の喧騒も、ここは殆ど聴こえない。金庫の番号を入れて中を開ける。置きっぱなしの現金をカバンに入れる。
これからしばらく向こうで暮らすなら、これを置いたままにするのも怖い。
サナには頼めなかった。信頼していないのかと言われると、まぁそうだ。現金の話で、何かあるかもと思う位なら、自分でやった方が良い。
戸締りを確認し電気を消して、また鍵を閉める。
「お疲れ様です」
声を掛けられて振り返る。同じテナントで仕事をしている男性だ。顔は分かるが名前は覚えていない。
「お疲れ様です」
「最近見かけないので、少し不安でした。ほら、あれ」
男性はよく分からない方向を指さすが、それがあのパレードの声を指しているのは理解できる。
「少し大きな仕事が入って、今はしばらくそちらに腰を下ろす為に色々と」
「あれですか?攻戦試験の」
「……へぇ、そっちも?」
「いえ、話は入ってきたそうですが、今は別件でいっぱいで」
この人がどんな仕事をしているのかはそこまで詳しくはない。だが、この人も戦争経済の何かだと言う事は知っている。
少なくともこの街での仕事は、7割程がオートノミア戦争に関係している。それに恩恵を受けている企業が集まっている。
男性は周りを確認したあと、少し顔を近づけてくる。
「ぶっちゃけどうですか?上手く行く感じですか?」
「計画されている大規模な攻戦自体は、恐らく没です。技術開発は、より活発になる可能性はありますが、まだ始まったばかりなので」
「なるほど……」
オートノミア戦争は、2年前のGHOST導入までは戦争の色をしていた。AIを搭載していたこれまでの兵器はパッキングの恐れが常にあり、防衛するのも大掛かりだった。
その中でも、全体の盛り上がりは凄まじい物で、共通の敵を前に技術開発は大いに進んだ。
GHOSTが防衛線を確実な物にした後、この国の経済成長は過去最高を突破し、今も尚伸び続けている。
防衛戦を行っているうちは、人的被害も殆ど無い。木っ端の仕事ですら、この戦線に片足を入れるだけで黒字になる。
それを今回、試験的とはいえ、攻撃作戦を実施したのだ。終わらせる可能性を探して。
「それは良かった」
男性は嬉しそうな顔を隠さない。まぁ、同類だと見られてるから当然だ。
足音が聞こえて、男性は適当に手を振って早足で歩き去る。迫ってきた足音の主が顔を出した。
「お、ここに居た」
「……来たの?」
「暇だし。でも見つけちゃったから、もうやること無いよぉ」
サナが両手を広げてお手上げのポーズをする。これまで色んな場所から依頼が来るから、ずっと雑用らしい事をさせてきた。一点集中をするこれからは何をさせるべきか。
こんな事を考えられる余裕があるのも、結局はオートノミア戦争の恩恵だと、そう考えると何とも言えない気分になる。
今回の攻戦試験で、一体何人死ぬんだろうか。ぬるま湯で稼いでいた数歩前はもう無い。これから先、この戦争経済は何処に向かうんだろうか。
「これ持って」
私用のカバンをサナに押し付ける。現金の入ったカバンは自分で持つ。
「何するの?」
「戻るよ。Cyに」
「せっかく来たのに」
「じゃあ、その前にコーヒーショップに寄ろっか」
「よっしゃ。経費で高級コーヒーだ」
もしもトゥエルブが、今回の攻戦を完璧にクリアしたら、サナの居場所は作ってあげられないかもしれない。
戦争で仕事が無くなって、ガリガリになって泣きついてきたあの時のサナを思い出す。
あぁ今、最悪な事考えているな。またそう、俯瞰して自分を見ている自分に気づく。




