潜伏
ゴーグルを取り外す。ゴーグルに沿ってじんわり感覚の残る額の汗をタオルで拭う。コックピットの中は真っ暗で、手探りで灯りに手を伸ばす。持ち込んだ置型ランプが小さく光る。
[全隊の点呼を確認した。お疲れ様やな]
アルトさんの声がインカムに入る。ドリンクを取って勢いよく飲む。
[全員電源は切ったな?俺が良いって言うまで再起動はするな。例外として、射撃等を受けてまだ生きてる場合のみ許可する]
渡された配給食糧を一応手元に持ってくる。ちゃんとした弁当がひとつと、スティック状の簡易食料がふたつ。スティック状の方をひとつ取る。
[これからおよそ30分後、オートノミアの定例攻撃飛行部隊がここ上空を通過する。俺たちはその間1歩も動かん]
ガサリと、コックピットの外で音がした。手が止まるが、音が小さすぎる。脅威では無い。
[ただ待っとるだけならそれが幸せだが、生憎地上も昨晩の襲撃によって、俺らを捜索している陸上部隊が確認された。行動予測から外れた地点に待機はしているが、必ず大丈夫という保証は無い]
袋を開けてスティックを齧る。甘い。あまり噛まなくていいのが有難い。
[上空の攻撃部隊と重なったら、この立地じゃ全員動いても分が悪い。悪いが最初に撃たれる奴は、大人しく撃たれてくれ]
1本目を食べ終える。2本目を齧る。
[こちらからの全体通信は以上だ。ここからは部隊内のインカムは許可する]
プツンと通信が切れる音がした。1分くらいは誰も話さない。
[……レイ、ちゃんと食えよ]
[え?あ、はい]
[時計持ってくるんだった]
「スマホでいいじゃん」
[これ、どこまで話しててもいいんだ?]
[コックピット開けていいかな?]
「生体感知に引っかかるからダメだよ」
みんなが口々に話し始める。ドリンクがズズズと音を鳴らす。さっきまで殆ど満タンだったはずなのに。飲みきって容器を潰し、新しいドリンクを出す。
[なぁ、トゥエルブ]
「何?」
[当時も、こんな事してたのか?]
当時というのは、Cz結成初期の話だろう。
「うん。今回よりも数は多かった」
[すげぇな。正直黙ると怖くなるわ]
その発言で、またみんな黙ってしまう。僕が怖くないなんていつ言っただろうか。もちろんパニックになって叫び出したり、震えたりみたいな事は無いけれど、不安になって落ち着かなくなる位はある。
スマホに通知が入る。ホオヅキさんだ。何かあったんだろうか。
開いてみると、何やらパソコンの画面を録画した動画だった。画面にいるGHOSTが、何やら変わった動きをしている。
<回避の際、小さく旋回する際のモーションの下組なのですが、現場のトゥエルブさんから見て、何か意見があればと思い共有しました。>
言葉も送られてくる。再度動画をじっくり見る。どの方角から見ても、ある程度斜めに動きながら、出来るだけ動く距離を縮めようとしているのが分かる。
これもまた、接近戦向けの設計だ。
<腕をもっと、体に寄せた方が不安要素は減ると思います>
そう返信すると、すぐに既読になる。
<返信ありがとうございます。脚などもさらに調整してみます>
<装備している物でも変わりますが、回避しながら射撃ができたりすると、より面白いかもしれません>
<確かに>
急に短い文で返信が返ってきたと思えば、続きが飛んでくる。
<そうですね>
[来たな]
イーレの声が割り込んでくる。遠くで微かに音がする。それが急速に上空に変わっていく。無数の飛行音と電子音。
空を覆い尽くす音。平地なら多分問題ないけど、木々が高すぎて戦いにくい。総攻撃を仕掛けたら行けるかもしれないが、そんなに沢山戦うだけの弾薬は持てない。
何処かで何かが倒れる音がした。多分GHOSTだ。
ふとスマホを取り出す。ホオヅキさんとのトーク画面を開く。
そこまで来て、ホオヅキさんはモーションプログラマーで、僕の望む事を作るのが本職では無いかもしれない。
悩んだ結果、少し考えて文字を打ち込む。溜め込む方が嫌だった。
<停止中に、出来るだけ死ににくい姿勢って、作れませんか?>
通常の停止中の姿勢は膝立ちに近い。ただもっと、せめて中の人だけでも死なない姿勢は無いだろうか。
<強い衝撃時に、コックピットを守る姿勢という事ですか?>
強い衝撃時という、特定のタイミングが出てきたのはよく分からないけど、そういうのも出来るものなのだろうか。僕よりもこの人の方が詳しいだろうし、多分出来るんだろうな。
<今、何となく考えてただけです。気にしなくていいです>
こうしてみたいは沢山あるけど、上手く言葉にできない。ボーッと悩んでいると、インカムが繋がる音がする。
[お疲れ様。じゃあこれから、駐屯基地の攻略に入る]
上空の音は消えていた。こういう時間つぶしもあるのか。
ドリンクを手に取る。全然手を付けていなかった事に気付く。
GHOSTの電源を入れる。スマホの通知音がしたが、ゴーグルを被る。




