札束の力
駅近のコーヒーショップに入る。昼過ぎだがそれなりに人が居て、学生服を着た女子まで居る。ここはそれなりに高いコーヒーショップだから、きっとそれなりに裕福な家庭なのだろう。外側の小物や服飾にだけお金を使っている人ばかりだし、多分私たちも同じだ。
2人分の注文をして、サナと適当な2人がけの席に座る。私はノートパソコンを開き、モーションの調整を再開する。サナの方をチラリと見ると、何やら本を広げていた。
「……何してんの?」
「勉強。資格取りたいなって」
「へぇ……」
随分とアナログな勉強方法だが、私は本を開いて勉強したことは無い。見たところは経理系の資格だ。
毎回月末になると、オフィスに籠ってあれが無いこれが違うとやっている私を、サナは横で資料の片付けとかをやっている。それが理由だろうか。
ただ単に、他に宛を作る予定なのだろうか。
チラチラと見てる私の視線に気付いたらサナが、本を閉じて笑う。
「いやぁ、戦争終わったら、私失業じゃん?」
「そんなこと言ってないけど」
「流石に分かるよ。というか、やっぱり何も持ってないのは不安だし」
再び本を持ち、「暇だし」と最後に付け加えて、サナはまた勉強に戻る。特に何も言わず、私もパソコンに戻る。
外では、戦争終結派の行進の音が近づいてくる。奥から出てきた店員が、開放していたドアを閉めた。
「大変だよね」
それを見てサナが言う。
「あの人たちも暇なんでしょ」
「でも、楽しくは無さそう」
窓の向こうの行進は、誰一人として笑っていない。当たり前の話だ。再確認する意味も無かった。
「真剣にやる事に意味があるって事じゃない。今のあんたみたいに」
「あー」
せっかくよく聴こえるようになった店内のBGMが、外のサイレンで掻き消される。警察が来た。
バラバラな統率が統率すら無くなり、四方八方に散っていく。その中のひとつの塊が、コーヒーショップのドアを開けて入ってきた。
店内の会話の声がピタリと止み、皆が一斉にドアの前に立っている屈強な男数人を見る。手に持っているバールのようなものが無ければ、彼もこんなに注目を浴び無かったかもしれない。多分。
というか、なんでそんな物持ってたんだ。
「すいません……危険な物を持ってのご来店は控えていただきたいのですが……」
近寄ってきた、細身の男の店員が言う。よく言った。勇気がある。しかし屈強な男は店員を殺す勢いで睨み付ける。気が立ちすぎだ。
それでも男数人は、肩身が狭そうに店内を見回す。1人が後ろを振り返り、仲間の肩を叩く。
武装している警察が近付いてきた。この時点で、この行進は何処かへの攻撃が目的だった可能性が大きくなる。
バールのようなものを持った男が、細身の店員にそれを向ける。
「裏口を通せ!!」
「え、えぇ……」
警察が走り出した。慌て始める。店員は怖気付いて座り込んでしまった。奥のカウンターに居る店員が、姿勢を低くして構えている。
「どうせお前らも、戦争で贅沢してるんだろ!!?」
誰も何も言わない。数人のうち1人が外に飛び出す。警察の方に突っ込んで行った。取り押さえられまいと組み合っている。素人の動きではない。
適当に店内を見回した男が、近くにいた女子学生を睨み付けた。良くない雰囲気になってくる。
「辞めて!」
サナが立ち上がった。多分私が1番呆気にとられている。
「その子たちは関係ないんじゃないの?」
「……なんのつもりだ」
「あんたらこそ何?そんな事したって、みんな幸せになれないって知らないの?」
「戦争し続ける事の何が幸福だって言うんだよ!!」
男が寄ってくる。不味い。何か無いかとカバンに手を突っ込むが、札束しか入ってない事に笑えてくる。身の回りの物はサナの方にあるんだった。
その札束をひとつ掴んで、男に向かって投げつける。前言撤回。この中で1番呆気にとられたのは、目の前に居るこいつだ。
「ほら……お前らの大嫌いな、戦争で稼いだ汚い金だぞ」
警察が入ってきた。男たちの抵抗虚しく、次々と捉えられていく。黒い警察がGHOSTにも見えた。
男たちが捕まっていく最中、手の空いた警察の1人が札束を拾う。目が合う。
「君の?」
「はい」
「彼らは金銭の取引には応じない可能性がある。下手なことはしない方がいい」
「大丈夫です。物理で対抗した結果ですから」
警察が首を傾げる。後ろで抵抗している男がこっちを睨んでいる。視線の先は私じゃない。
「ソル、お前なら分かるだろ!?みんなでクソだって言ってたじゃねぇか!!」
目の前の警察がピクリと反応するが、その男に視線を合わせる事は無い。そのまま引きずられて行く。
「元軍人さん?」
「あぁ……分かります?それとも、どこかでお会いしましたか?」
「取引先の軍人と似ていたので」
「そうでしたか……そいつが元気にしてるといいですが」
「どうでしょうね。悩んでる感じでした」
「ははは。まぁ逃げた先で、人を鎮圧する事になるとは思っていませんでしたけどね。無人機相手に死線を潜り、ただありのままの絶望に酔えていた頃が懐かしいですよ」
警察は上官らしい人に呼ばれる。こちらに1礼をして去っていく。
騒動が起きたとはいえ、普通に支払いをする。帰り際に店員に頭を下げられたが、適当に流して店を出る。サナはともかく、私はただ札束を投げて見せつけた変な人でしか無い。
そのまま駅に向かう私をサナが止める。
「銀行に預けないの?」
「私が戦争に勝つのを望まないでどうするのさ。技術屋として」
「……ん?」
改札を抜ける。サナも付いてくる。電車を待っていると、スマホに通知が来る。ヌルからで、今駐屯基地への攻撃が始まったという内容と、暗号付きのライブ映像へのアクセスキーが届いた。アルトの機体から見た戦場だ。




