舞台
轟音。鉄の塊が反動で動く。山の方に放たれた複数の鉄塊が飛び散り見えなくなる。散弾のペレット数は12。僕の名前にちなんでるらしい。
真ん中の大きいシリンダーが回転する。もう一度轟音。ペレットの飛び散り具合を見ているらしい。
「回転弾倉なんて、どうリロードするんだ?」
横のアルトさんの質問に覆い被さるようにもう1発。記録記入中の整備士さんがイヤーカフを持ち上げる。
「え?」
「どうやって装填するんだ!?」
「これからやりますよ!」
「楽しみ!」
整備士さんは露骨に嫌そうな顔をしながら、端末を操作する。回転弾倉が1周した後、もう一度轟音。
「は?どゆこと?」
「あれはただの給弾用弾倉で、1発ずつ前に押し出して、前で撃鉄を落としてるんです」
「俺はリロードの方法を聞いたはずだったんだけど」
「超接近戦をしてヘイトを稼ぐトゥエルブさんが、リロードなんてしてる暇あると思います?」
つまりは、持ち出した弾のあるだけで戦えという事だ。そもそもこの武器の本丸はモーションだ。
反対側に回ってみると、確かにシリンダーの前にコッキング機構が付いている。
シリンダー前方向の銃剣の下から、ボトリと空薬莢が落ちる。
「鹿のうんこみたい」
アルトさんがボソリと言う。
「最悪」
整備士さんが嘆く。鹿ってこんなふうに排便するのか。見た事無いや。
整備士さんがブツブツ言いながら、銃剣の方に歩いていく。
「使えそうか?」
「まぁ、はい」
無骨な銃剣を見た第1印象は、重心の懸念だ。想像よりも大きいし重そうだ。これを細身のGHOSTが振り回すとなると、斧のように腕だけではちぎれる気がする。
GRAVEの通りなら問題無いのだろうか。そこはもう、例のホオヅキって人を信じるしか無い。
「久しぶりだな。こういう緊張感は」
アルトさんが座れそうな壁に腰掛ける。ポケットから栄養ドリンクを取り出し、僕に投げてきた。空中でキャッチし、僕も横に座り、受け取ったドリンクを飲む。
「まだ飯、食えてないのか?」
「あはは……一応、死なない程度には食べます」
「そうか」
轟音。小さく壁が振動する。トラウマで辞めていった人も沢山見てきた。食べられないだけで、僕は壊れてない。
「他の連中の戯言は聞き流せよ」
「え?」
「俺も偶に言われる。古参ナンバー部隊は不潔とやり合う事が多いし、死者が多いのは事実だ」
「それでも、昔と比べたら大した事ないですけどね」
アルトさんが鼻で笑う。
「お前のそういう意味の分からないフォロー。俺は好きだよ」
「え?はい」
スマホの通知が鳴る。リオからだ。
<ソガの奴、消えたって>
渋い顔をしていたのだろう。アルトさんが覗き込む。
「301番か」
「……まぁ、仕方ないですね」
「ある意味では、健全と言える」
こういう欠番もよくある。みんながみんな死んでった訳ではないけれど、ここから出ていった人ともう一度会う事も無い。
それは僕にとっては、死んでいくのとあまり差が無い。
「お前の部隊に入りたい新人が居たな。ちょうど良いじゃないか」
これを「良い」と言っていいのかは、難しい所がある。アルトさんが立ち上がって伸びをする。
「俺らの部隊も参加が決定してる。ただ最前線はトゥエルブ達の方だ。素敵な物語を期待しているぞ」
素敵な物語。アルトさんは戦場の事をそう呼ぶ。
「よろしくお願いします」
「じゃ」
「あ、飲み物ありがとうございます」
立ち去っていくアルトさんは、振り返らずに手だけ振った。座ったままもう一度スマホを見る。
ホオヅキのトークに、新しい通知が入っている。
<銃剣の映像確認しました。こちらでモーションの再確認を行い、本日中にそちらに送りますね>
直接会わないという契約があるらしいけど、理由は教えて貰えてない。どんな人なのか気になる。何を思って、こんな変な仕事を引き受けたんだろうか。
やっぱり沢山稼げるんだろうか。実際に死を伴う兵士よりも、こういう仕事の方が儲かるとは聞いたことがある。
もしも僕の頭が良かったら、そういう仕事も出来るんだろうか。都市の背の高い建物の一室で、コンピューターを操作して、時間になったら家に帰る。普通にご飯を食べて、休みの日は海を見に行く。
悪くないな。想像だけなら自由だ。
ドリンクを飲む。警報が鳴った。北東の空に、白い飛翔体が群れを成して飛んでくる。
放送で呼ばれた部隊に、僕は入ってない。3分もしないで、黒い巨人が駆け出した。
時々考える。オートノミアもこの戦争も、全部国が経済回復の為に作った劇場で、僕らはその上で踊っているだけなのでは無いのか。
もしも本当にそうだとしても、もしも戦争が無かったとしても、結局僕は幸せに裕福には生きてないから、あまり関係ない。
戦闘が始まる。次々と白い飛翔体が落とされていく。黒と白が織り成す死の舞踏を、いつからか黒白無常だと言うようになった。どこかの国の民間信仰に出てくる、死者を導く存在らしい。
ふたりでひとつのそれは、果たして僕らにふさわしいのだろうか。そんなことをぼんやりと考える。
全ての弾を撃ち尽くした銃剣は、シリンダーが横に開いて、その空洞の向こうに、いつもと変わらない青空が見えた。




