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GHOST Tracking  作者: Anzsake
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人の声


[え?そっちに住む?あたしは?]


「別にそっちでいいよ。他の仕事はしばらくキャンセルするし」


[えぇ、暇じゃん]


スマホの通話越しにサナが言う。そうだ、暇なのだ。


「じゃあ、来る?」


[うーん……いいや。戦場怖いし]


「分かる」


適当な言葉で返している自覚がある。コンクリートの階段を登る。


「でも、戦場の兵士は割と淡白っていうか。私の対応してくれる人なんて、画面越しだった感動が目の前にあるとか言い出してさ」


[あーね。今はもう、そういう映画やらなくなっちゃったけどね]


「私らが学生の頃は普通にやってたのにね」


[いやいや、あれは映画の中だからいいんじゃん。自分らがなろうとは思わないでしょ]


当然の感想だ。自分もそうだと、つい昨日まで思ってた。

指定されたドアの前に立ち、受け取った鍵で開ける。既に1部屋確保していたらしい。何も置いてないアパートの一室の電気を付けて、渡された寝袋を降ろす。


「そう思ってたんだけどねー。なんか、本当にすぐそこにあるのに、何もしないのは嫌だなって」


[それじゃあたしが何もしてない奴みたいじゃん]


「あ……いや、ごめん」


[事実だし?まぁやれる事あればなんでも言ってよ。暇だし]


何も無い部屋を見渡す。カーテンも無い窓の向こうの闇に、亡霊が立っている想像はもう出来ない。


「あ……ひとつある」


[何?]


「荷物を郵送して欲しい。リストと住所は今から送る」


[はーい]


適当な挨拶をして電話を切る。あーいう感覚が普通なのだなと再確認出来た気がする。

仕事道具のリストと、この部屋の住所を書いてサナに送信する。トークリストの中に、無機質な初期アイコンが2つ。アルトと012。


何か話しかけ無いといけない気がしている。012のトークを開く。


<こんばんは。夜分遅くにすいません。

今回トゥエルブさんの専属メカモーションプログラマーを担当する事になりましたホオヅキと言います。

私も今回の依頼は初めてですが、ご期待に沿った内容になるよう努めさせて頂きます。

以後の依頼の詳細はこちらでやり取りさせていただきます。短い間ですが、よろしくお願いします。>


かしこまった文章を書いて送信する。多分これでいいと思う。なんだか疲れてるのもあって、上手く書けたか自信がない。でも悩んでると送れないので、送ってから悩むことにしている。


何も無い部屋に、丸めた寝袋を枕にして寝転がる。ウトウトし始めた頃に、スマホに通知が来る。


012からの返信だ。ただ短く丁寧に。


<よろしくお願いします>


とだけ書いてある。案外普通だ。アルトみたいなタイプかと思ってた。

スマホを閉じようとした時、追加で通知が来る。


<以降のデータは、可能な限り実物の導入と合わせて欲しいのですがよろしいでしょうか?

無理を言ってすいません>


何故なのかは分からないが、彼なりの何かがあるのだろう。


<分かりました。そのように手配しますね>


想像していた温度よりも冷たい文章は、なんだかまた、遠い存在なのでは無いかと思えてしまう。きっとその方が良い。その方が気にせず仕事が出来る。


——————


配送された荷物を解きながら部屋の間取りを考えていると、部屋をノックされる。カメラを見ると、サナが立ってる。


「よ」


「……戦場は怖いんじゃなかった?」


「案外長閑だね」


「作戦区域が近いだけで、直接ここが戦場にはなってないらしいよ」


サナが靴を脱いで部屋に入る。散らかした配送ケースを、何も言わずに畳み出す。


「……昨日はごめん」


「え?何が?」


「いや、下げる発言をしたなって」


「あー。じゃあご飯奢りね」


「うん」


私も荷解きを再開する。会話は無い。元より、無理に話題を捻り出さないといけない関係でも無い。

荷解きを終えて2人で部屋を出る。駅の近くにあるチェーン店のハンバーガーショップに入り席に着く。


「映画とか漫画の世界ってさ」


サナがそう切り出す。


「主題になってる戦いや仕事以外の趣味って語らないもんね」


「……そりゃあ、主題じゃないし」


「あたしはあんなに熱心になれないというか。今でもまだ、旅行とか出来そうな娯楽を考えちゃうんだよね」


サナが窓の外を見る。車の通らない主要道路は、長閑というより閑散の方が合ってる。


「旅行になってる?」


「もちろん。ゴーストタウンだ。GHOSTだけに」


サナはニヤリとするが、私は鼻で笑う。


「あたし達はさ、ギリギリ娯楽を知ってる世代だけど、もう一回り下になると、丁度オートノミア戦争が始まったばかりで、混乱期だったじゃん?」


「いつも何処でもお葬式みたいな世界だったもんね」


「あたしも、あんたに誘ってもらったから今の仕事してるけど、無かったら何の仕事してたかなぁ。パイロットも有り得たのかな」


「サナは無理でしょ。よく喋るから、任務に集中出来ない」


「確かに。今際の際までたっぷり話すよ」


サナの冗談に笑いながら、私はトゥエルブの事を考えている。彼はどんな理由で入隊したんだろうか。淡白な言葉から、少しクールな青年の顔を勝手に思い浮かべる。


どんな声をしているんだろう。壁越しに聞いたあの声は、トゥエルブなのだろうか。


「……どうした?ババアみたいな顔になってるよ」


「ババアやめろ」


嫌な考察が頭を駆け抜けた。その残穢が消えない。アルトもリオも、みんな静かに、勇敢に死ぬと言った。


本当にみんながみんな、黙って死ぬわけ無いだろ。そもそも今際の際の通信は、物語の十八番だろう。


何か、外からの干渉がある。そう考えるのが自然だ。誰も疑問に思わなかったのか?

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