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第17話 追憶②

 中学一年生になったわたしは、ダンジョン配信の世界にどっぷりと浸かっていた。


 配信者の軽快で面白い喋り。沢山のリスナーとコメントで繋がる心地よさ。それから、危険と隣り合わせのダンジョンを探索する姿を見ることで生まれる、緊張感や高揚感――


 ダンジョン配信者の死までもが、幼稚だったわたしの心をときめかせた。


 死亡配信にはやがて年齢制限が設けられるが、リアルタイムで規制することはできない。だからわたしはたまに、ダンジョン配信者が魔物に殺される光景に出くわした。


 中学生という年代は特に、「血」に魅了されやすいと思う。悲しくて寂しくてつまらない現実を、画面の向こうの赤色を眺めているときは忘れることができるから。配信者が死んだ後は、掲示板を開いて、それがいかにグロテスクだったか、危ういものだったかを、さも全てを理解しているかのように書き込んだ。そういうやり取りが、純粋に楽しかったのだ。



 ……そんな、間違った日々を繰り返していた夏のこと。



「見て見て、和歌ちゃん!」


 ねえさんにそう声を掛けられる。スマホでダンジョン配信を見ていたわたしは、片方の耳からイヤホンを引っこ抜いて、「何?」と返事した。


「じゃじゃ〜ん! 貯めてたお年玉で買ってきました〜!」


 ねえさんが手で示しているのは、小さな箱に入ったダンジョン・リングと、ダンジョン・スマートフォン。


「わたしね、ダンジョン配信者になろうと思うの!」

「……え、な、何で?」


 戸惑うわたしに、ねえさんはかっこよく笑ってみせた。


「おかあさん、ずっと働いてるでしょ? きっと、お金が不安なんだと思う……だから、わたしも稼ごうと思って! それに」


 ねえさんの綺麗な瞳は、わたしだけを映していた。


「――和歌ちゃんが、ダンジョン配信、大好きだから!」


 わたしは数度瞬きして、それから微妙な表情になる。


「それは、そうだけどさ……危ないんじゃない?」

「大丈夫! ちゃんと自分の実力に合ったダンジョンを選ぶし、絶対に無理はしないから!」

「まあ……それなら、いいのかもしれないけど」


 ぼそぼそと言って、ねえさんと目を合わせる。

 ねえさんの笑顔は生命力に溢れていて、死のイメージに全くそぐわなかった。そもそもねえさんの肉体の奥に、あの真っ赤な血が流れているかどうかも、よくわからない。ねえさんの血、昔見たことあったっけ……?


 わたしは何となく、ねえさんは死なないんだろうなと思った。


 だから、ねえさんを止めることもしなかった。


 *


 ――結論から言ってしまえば、ねえさんはダンジョン配信者として天才的だった。


 戦闘能力は勿論のこと、ねえさんの愛され上手な気質は、数多のリスナーを虜にした。


 優しくて真っ直ぐで、それでいてどこか抜けていて。

 ダンジョン配信者の黒い噂も少なからずインターネットで囁かれる中で、純粋な温かさを持つねえさんは、まるで太陽のような存在だった。


 ……わたしも、巡葉恵ねえさんが大好きだった。


 巡葉恵の配信は、欠かさずリアルタイムで見に行った。巡葉恵を讃えるコメントを、チャット欄に幾つも書き込んだ。配信の後はDLHで、巡葉恵がいかに素晴らしいダンジョン配信者であるかを語った。


 巡葉恵のファンのひとりのように見えて、

 実際はひとりだけの巡葉恵の妹だった。


 その事実が、わたしを興奮させた。


「ねえねえ、和歌ちゃん! 名前は出さないから、配信で和歌ちゃんの話をしてもいい?」


 ある夜、ねえさんにそう尋ねられたわたしは、すぐに首を横に振る。


「してほしくない」

「えっ……そ、そうなの? どうして?」

「恥ずかしいから」


 ――わたしがねえさんの特別であることを、有象無象に知られたくないから。

 ――その方がより、特別のような、気がする。


 真実を覆い隠したわたしの言葉に、ねえさんは少し残念そうに頬を掻いた。


「そっかあ……そうしたら、和歌ちゃんのことは秘密にするね!」


 そんなねえさんに向けて、わたしは歪に笑った。

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