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第18話 皇菜奈子と羽生音子

 朝日の降り注ぐ通学路を歩きながら、わたしは思い出したようにパインを起動する。

 また大量にメッセージが溜まっていたら面倒だなと考えていたが、届いているのは四件だけだった。わたしはホッとしつつ、遠川詩とのメッセージ画面を開く。


〈う、うるさい……!?˚‧º·(˚>ᯅ<)‧º·˚〉


 何だこの可愛い顔文字……


〈だって、佐山さんが魅力的すぎるから、ついメッセージを送りたくなってしまって……〉


 にしても百八十四件はクレイジーだろ。


〈配信、明日の放課後はどうかな?〉


 昨晩届いたメッセージだから……要は、今日の放課後か。ちょうどいい機会だし、「蜜」についての情報を上手く集めたいな。詳しいリスナーもいるかもしれないし……


〈それと、そろそろボクと付き合う気になってくれたか?〉


 なってねえよッッッッッッッッッ!


 わたしは溜め息をついて、〈配信了解です。後付き合う気にはなってねえ〉と返信する。


(大体、わたしより魅力的な女なんて腐るほどいるだろ。わたしなんて、ねえさんと比べたらゴミみたいな人間だし……遠川詩もとっととわたしなんかじゃなくて、もっと別の人を……)


 そう考えながら、ふと想像した。

 遠川詩が、自分以外の誰かと、カップルダンジョン配信をする姿を。


 ――胸が、ほんの少しだけ、ずきりと痛んだ。


(…………あれ、)

(どうしたんだ、わたし)

(今の、何……)


 痛みの意味がよくわからないまま、わたしは校門をくぐる。



「――お待ちしておりましたわ。佐山和歌さん」



 そんな声が聞こえて、俯いていた顔を上げた。


 そこには――朝、しかも高校だというのに、薔薇のあしらわれた真っ赤なイブニングドレスに身を包んで、豪華なサングラスを掛けた金髪の少女の姿があった。


「な、何事ッ!?」


 思わずツッコんだわたしの前で、ふたりの人間がバサァッとレッドカーペットを敷くと、執事服やメイド服に身を包んだ総勢二十人ほどの人間が、一瞬でレッドカーペットの両端に立つ。

 そして、少女が金色の長髪を片手でかきあげながら、レッドカーペットの上をハイヒールをコツコツ鳴らして歩いてきて、わたしの目の前で立ち止まった。


「ご機嫌よう」

「ご機嫌ようってリアルで言う人本当にいるんだ……」

「わたくし、皇《すめらぎ》菜奈子《ななこ》と申しますわ。さて、佐山和歌さん。お手紙は読んでくださいました?」


 手紙……ああ、昨日下駄箱に入ってた怪文書のことか。


「一応、読みましたけど……」

「それは何よりですわ。では、コラボ配信の日取りを決定いたしましょうか」

「いや、コラボするってまだ決めてないですけど……」


 わたしの言葉に、皇菜奈子は不思議そうに首を傾げる。


「どうしてですの? 庶民の貴女は、高貴なわたくしの提案を呑むことに生き甲斐を覚えるでしょう?」

「覚えねえよッ」


 わたしはツッコみつつ、げんなりした。

 こいつ――昨日の弓晴ユミカと同じ、「ヤバお嬢様」だ!


(何で若い女のダンジョン配信者ってヤバお嬢様ばっかなの……? まあそうか、若いうちにダンホを購入することができる財力と、危険なダンジョンで配信やろうとするネジ飛んでる感じを併せ持つのが、ヤバお嬢様なのか……)


 ひとり納得したわたしは、誰かに肩を叩かれる。

 ばっと振り返ると、そこにはまるで猫耳のようなお団子ヘアーの黒髪を持つ、小柄な少女の姿があった。


「え……だ、誰ですか?」

「……ねこの名前は、羽生《はにゅう》音子《ねこ》」


 高く可愛らしい小さな声でそう告げられる。

 何か聞き覚えというか見覚えのある名前だな……そう思い記憶を辿ると、昨日の怪文書に行き着いた。


(思い出した……こいつ、皇菜奈子の相方か!)


 目を見張るわたしに、羽生音子は小さく首を傾げる。


「あなたが、さやかさん?」

「名前間違えて覚えられてる……」

「あれ。あやかさんだっけ」

「遠ざかった……」

「えーと、そうだ、あいかさんか」

「全部、なくなった……」


 羽生音子は納得したように頷いて、とことこと皇菜奈子の元へと歩いていく。


「ななこ……会いたかった」

「わたくしもですわ、音子」


 二人はそんなやり取りを交わすと、熱い抱擁を交わし始めた。っておいおいここ高校だぞ!?


「ななこ……好き」

「わたくしも、貴女が大好き」

「ねこの方が好きだもん。大大好き」

「あら、わたくしだって負けませんわよ。大大大好き……」


 いやわたし何見せられてんの? わたしは別にサヤトワリスナーみたいに百合を観賞する趣味ないよ?

 よし、こいつら無視して教室行こ。


「――佐山さん? こんなところで何しているんだ?」


 突如聞き慣れた声がして隣を見ると、そこには遠川詩が立っている。いや何でこのタイミングで現れんの!?


「あ……ななこ。あいかさんの隣に、とわださんがいる」

「あら、本当ですわね。ちょうどよかったですわ。遠川詩さん、ご機嫌よう」

「ご、ご機嫌よう……!? え、ええと、ご機嫌よう」


 遠川詩は戸惑ってから、パーフェクトスマイルで挨拶する。こいつ順応性高いな……


「遠川詩さんにご提案ですわ。わたくしたちと、コラボダンジョン配信をいたしましょう」

「コ、コラボ……!? とても楽しそうな響きだ。ぜひともお願いしたい!」

「助かりますわ」


 あ、勝手にコラボダンジョン配信決定しちゃった……

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