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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
24/30

24 勇気の印(3)


「ーーーでは、よろしくお願いします、失礼しますーーー」



 ふーっ、と長く息を吐いて倉吉は電話を終えた。「これで、どう動くか」


「電話の方が・・・?」


「ああーーー横槍に一矢は報いるんじゃないか。きっとうまく行くよ。俺、耳は良いんだ」



 何で耳が良いとうまく行くのか? 謎だったけど、「さあ、帰るか」と倉吉が音高く拍手したので、話を切り上げられてしまった。



 小学校のフェンスに沿って行けば駅の方へ抜けられそうだと、遊歩道に戻って進む。



「あの、ありがとうございました」


「ん?」


「ええと、裏の人脈まで使って、そのーーー」



 私が言い出した仕事に関係無いことに、倉吉の手を煩わせてしまったことが申し訳無かった。

 それでも私を信じて、ちゃんと考えてくれて、対処しようと模索してくれた事に感謝を言いたかった。



 ため息を吐いた倉吉は「いいよ、俺の自己満足の為でもあるし。職務を逸脱してやった事だから、出来れば見なかったことにして欲しいーーーーそれより何なんだ、同業者とか裏の人脈とか」


「え、違うんですか? だってこの地区の担当者って・・・・つまり、倉吉さんの裏のお仕事関係の方ですよね」


「俺はこれを会社からの指示で業務の一環としてやっているーーーまあ、田所主任に報告は出来ないが、ちゃんと『上』には報告するし、それを査定されて給料が出る。俺にとっては裏でも何でも無いんだがーーーまあ今の彼はどうかな。同業と言えばそうなんだが」



 どっちが副業かな、と呟いた。

 『上』の方から、何々協会を通じて紹介して貰ったのだそう。

 お互い名前も顔も知らさないで、情報の遣り取りだけ行うらしい。

 お昼の後の『白翁さん』が来ちゃった時も、異変は察知されていて、いよいよとなったら介入して来ただろうけど、基本静観する取り決めなのだとか。



「ーーー私、てっきりそういう時は、倉吉さんは『裏稼業』の技を駆使して、エイヤー、って退治するんだと思っていました」



 昨日まで考えていた私の想像を率直に言ってみたーーーあのギラギラの戦隊服みたいなのを着て立ち回る倉吉だけはどうしても想像出来なかったが。



「は? その『裏稼業』ってーーーー。萩野さんは一体どんなのを想像しているんだ・・・・」


「お札とか持って、印を結んだりして、『破邪っ!』とか、『臨、兵、闘、者・・・・とか』


「はははは、」


 実に爽やかな笑い声だった。


 ひとしきり笑って「出来るかー」と言い、辛そうに呼吸を整えている。

 こんな倉吉、オギノに話しても絶対信じないだろうな。

 いやーーー。

 教えたくないな。

 って、ちょっと思ってしまった。

 


 ようやく笑い収めた倉吉が、何かを言おうとした、その時。

 倉吉がはっとした表情で振り向きつつ、その広げた腕が、私の目の前に伸びてくる様が、私にはスローモーションのように見えていた。

 ーーーとん、と私の胸の前に伸びた倉吉の腕に当たって、ハラリと落ちるそれを手のひらで受け止めていた。

 銀杏の葉っぱだった。

 鮮やかな緑色が美しい、破れも虫食いも無い、完璧な一枚の銀杏の葉だった。

 公園の遊歩道はそろそろ終わりで、目の前には小学校の校舎と運動場が迫っていたが、銀杏の樹にはまだ少し距離がある。

 


「こんな所まで飛んで来るんですね」


「・・・・」



 倉吉は何か考え込むようにじっと葉っぱを見つめていたが、私が葉をクルリと回して持ち上げて見せると、チラと手元のスマホに目を遣り、「貰っておいたら? 記念に」と言った。



 何の記念? と思ったが、確かに今日の初出張は銀杏の樹に翻弄されたなぁと納得して、帰ったらラミネートで栞にしても良いなと丁寧にスマホケースのポケットに入れた。



 チャイムの音色が響いていた。

 校舎に近付くにつれて子供達の喧騒が漏れ聞こえてくる。

 帰宅時間を迎えた校舎の周辺は蜂の巣を突いたような賑やかさだった。

 フェンス越しに銀杏の樹を見ながら歩く私たちを、子供達は走って追い越して行く。

 樹の根元にランドセルを置き去りにして、運動場へ走って行く彼らを見送りながらふと見上げた。

 それはまさに長い長い年月の間、子供達を見守り続けている堂々とした大樹で。

 太い幹、空へと交差する枝と枝、それらを包むように覆う緑の葉のカーテン。

 もしかしたらーーーー。



「見るなよ」



 ひくっと背中が強張った。



「たぶん、いるから」



 ひぃー、すみません、ごめんなさい、見ません見ません!



 私はすぐに下を向き、気持ち倉吉にくっ付くように後を追うことにした。

 視線を足元に固定しているので、自然と耳に神経を集中することになる。

 銀杏が葉擦れるザザザーッという音に、大小の子供達の高い声が重なって、まるで幸せな音楽を聴いているような心地良さだった。

 これが今年度限りだなんてーーーー。

 私は物哀しい気分に浸りながらも、小学校が無くなってもこの温かい空間を維持するにはどうすれば良いか、あれこれ考えながら歩いた。



 「もういいぞ」と前から声が掛かった。

 小学校は既に通り過ぎていて、左に折れると駅に続く通りだ。

 程なくロータリーの屋根が見え、賑やかな音楽が耳に入って来た。



♫貴方と私のアミューズメント・ワールド・・・・・



 正直、もう聞きたく無いーーーと思いながら前を見ると、倉吉もうんざりした表情をしていた。

 二人で足早に改札口に向かう。

 間もなく電車が参ります、のアナウンスに急かされるように、私たちはホームに駆け込むことになって、そのままS市を後に帰路についたのだったーーー。



 週明けて、通常業務の合間に纏めた出張報告を携えて打ち合わせの会議室に向かったのは週半ば。

 その場で冒頭、倉吉により【S第三小跡地PJT(仮)】の打ち切りとチームの解散を伝えられたのだった。


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