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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
23/30

23 勇気の印(2)


 タクシーの扉が開いて乗り込む。

 運転手に行き先を告げた倉吉は、目線で私に目の前の広告を見ろと言う。

 前席の背もたれの所に、『タクシーのご用命は『城西観光タクシー』まで!』のステッカーが貼ってあった。

 倉吉はその『城西観光』の所を無言で指差して、その指をそっと口元まで待っていくーーー喋るなということだ。

 『城西観光』って、確か再開発事業で競合するかもしれない企業で・・・・そのグループ会社の『城西建設』が大規模宿泊施設計画をリークして炎上してたのではなかったか。

 宿泊施設・・・・温泉施設・・・・これってーーーー。

 ちょいちょいと倉吉が合図するので、差し出されたスマホの画面を覗くと、そこには「(株)C.W.は、パチンコ店『キス・パラダイス』を経営する(株)城西観光グループの子会社で・・・・」と、会社の沿革が出ていた。

 やはり、あのCMは再開発事業で自社に有利に働くよう、世論を誘導する目的で作られたものだったのだ。

 でもーーーー。



『萩野さんはどうしたい?』



 どうしたい? ーーー私はどうしたいんだろう。

 こんなもの見つけました! って言って、それで満足したかった?

 ううん、そうじゃない。

 あのお社を見て、地域の人の声を聞いて、このままじゃいけないと思ったのだ。

 頭痛の原因が『白翁さん』の祟りせいにされてしまうなんて、そんなの理不尽過ぎる。

 何とか皆の誤解を解きたい、と。

 でも、どうすればーーーー。



 私たちは無言でタクシーに揺られていた。

 倉吉はずっとスマホに掛かりきりでーーー何度も着信音が鳴っていて、相変わらず忙しいらしい。

 私は考えが纏まらないまま、何が出来るかネットで検索してみてもなかなか見えず、市役所が案外近くて程なくタクシーは到着した。



 約束の時間が迫っていたので、直ぐに面会先に向かう。

 そこでは小学校の跡地についての質問などを幾つか遣り取りしたが、隣の再開発事業との連携も含めて、まだ何も決まっていない事を確認したに過ぎなかった。

 やはり、温泉施設が既定路線かのように流布されているのは、あのCMの影響も少なからずあるのではと思わざるを得ない。

 倉吉が余談とばかりに、駅前ビジョンのCMについて、何か苦情などは出ているか尋ねた所、葬儀場のCMについては、縁起でも無いなど数件あるが、他は特に無いようだった。

 何か有れば『消費者生活センター』へ相談するよう勧められた。



「ーーーあれから調べたが、温泉の画像を差し込むのは違法とまでは言わない。ただ、これは規制されている広告にあたるから、恐らく消費者庁を通じて行政から措置命令が出るんじゃないかと思う。だがーーーー」



 面会を終えて、市役所の庁舎から外に出た。

 今日予定していた訪問先はこれで全てでーーー後は駅から電車で帰るだけだ。

 私は、倉吉があの着信の嵐の中でもこれに関して調べてくれたことに素直に感謝した。

 そして、倉吉が続けて言うことも分かっていた。



「ーーーこれは俺たちの仕事の範囲を越える。このCMの件にこれ以上関与出来ない」


「はい・・・・」



 ちょっと歩こうか、という倉吉に従って市役所の敷地を出た。

 駅からすぐだったからか、帰りのタクシーはやめたらしいーーースマホの地図をチラと確かめつつ歩道を歩いていく。


「あくまでも、俺たちは自分たちの仕事を円滑にする為に調査しているのであって、それ以上のことは業務の範囲外だーーーー巻き込んだ俺が言えたことでは無いんだが、あまりはく・・・白いお爺さん? に肩入れし過ぎないことだ。萩野さんの気持ちはわかるが、これ以上俺たちはこの件に手を出すべきじゃ無い」


「・・・・」



 倉吉の言う通りなのだ。

 私たちは一企業人に過ぎない。

 それに、CMによって不利益を被っているのは地域住民であって、私たちは部外者ーーーー苦情を申し出る立場に無い。

 

 

 広い車道に沿って歩道を歩いていたが、倉吉は公園に差し掛かると中に入って行った。

 駅への近道なのだろうか、スマホで確認しつつ、そのまま遊歩道を進んで行く。

 少し先に見覚えのある木立が見えて来たーーーあの銀杏の樹だ。

 この公園は小学校の裏手に続いているらしかった。

 ならば駅はそのすぐ先かなーーーと思っていたら、「ああ、これだ」と言って倉吉が見つけたのは何かの彫像だった。



 タイトルと作者名のプレートも剥げて変色していて読み取れない、何の意味かも分からないポーズで静止している像の側まで行くと、一段上がった広い台座に像は据えてあった。

 「萩野さんも上がって」と言われ、?なまま台座に上がる。

 まばらに木が植えてあるものの、像の周辺は何も無い広場だった。

 少し先に小学校との境界のフェンスが続いていて、その向こうに銀杏の樹が聳え立っている。

 朝見た距離よりも近いので、その幹の太さや立派な枝振りも見て取れた。



「さっきのはチーフとして、業務上必要なことは言った。ここからはーーー耳を塞いでおいて」



 そう言って倉吉は、パァン、と一つ手を叩いたーーーー。



 やはりと言うか、台座がレンガ色。

 もはや元の色なんてこの際もうどうでも良い。

 こんな場所で結界閉じて、一体何なのーーー!?



「萩野さんにああは言ったけど、正直俺も思うところはあるーーー」



 そう言いながら倉吉はスマホを操作する。



「ーーーかと言って、表立って手は出せない」


「はあ・・・」


「だからーーー最適な人物にそれをやって貰う」


「最適なーーー?」



「そう」とスマホを耳に当てる倉吉は何処かに電話しているらしかった。



「せっかくの萩野さんの勇気に、俺は『裏稼業』で報いるよーーーーあ、もしもし、『K』です。先ほどはありがとうこざいましたーーーー」



『裏稼業』で先ほどはって・・・・倉吉が午前中に『白翁さん』の情報を得たっていう、この地域の担当者とかいう人のこと?



「ああ、はい、お騒がせしましたーーーー少し緊張状態がありましたが、見逃して貰ったようですーーーはい、申し訳ありません、何かありましたらとりなして戴けたらーーー直会なおらいですか、はあーーー了解しました・・・」



 お社での騒動のことだろうか、倉吉は平謝りといった様子で電話越しに謝罪を述べている。

 担当者さんには既に伝わっているみたいだった。

 なおらい?



「ーーーええ、それでですね、小学校の跡地に関することで、是非お伝えしたい事があるのですが。実は、ウチの者の特殊技能によって判明したことなのですがーーーー」



 倉吉は一連のCMの件を事細かに説明していった。

 しかし特殊技能って何なのよ、まあ、そうに違いは無いけど!


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