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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
15/30

15 同期交流(2)


 酎ハイの氷をガラガラと回してグラスを振りながら黒木さんは言う。



「 見習いたいし学びたいから、『そこは何故そうなるんですか?』って尋ねても、『何となく?』て言われたらもう何も出来ないじゃない?」



 ググーっとジョッキを飲み干して、



「倉吉さんは、同じく有能でデキる人だけど、ちゃんと裏付けがあるのよね。もの凄い情報量と緻密な計算と鋭い感性、それがあるからちゃんと説明出来るのよ。勿論簡単に真似出来るものでは無いけど理解は出来るでしょう? 乾さんのは無理だから!」



「お代わり!」と黒木さんは店員さんを呼び止めて、まだまだ止まらないようだ。



「乾さんとの仕事は予想が付かない展開や発見があって刺激的なんだけど、それだけじゃあダメなのよ。大きなPJTにいくつも関わった割に、私に蓄積されていくモノが無いの。このままじゃダメだって・・・・」



 新たに運ばれてきた酎ハイを受け取って黒木さんに手渡してやる山岸さんは黒木さんの心情を理解しているようで、「倉吉グループに入りたいんだよな」と慰めるように合わせている。



 一課では倉吉か乾さん、宝来さんの内誰かが近々主任になるんじゃ無いかと言われているらしい。

 タイミングとしては異例とも言える早さだが、実力は折り紙付きで、三人の誰がそうなっても納得出来る。

 というのも、一課長が企画部長に昇進する話があって、主任の誰かが課長になればそこに新たな主任が必要だし、特に本田主任のグループは大所帯で扱う案件も多いのが課題となっていたのだそうだ。

 そこへ新しくPJTが立ち上げられて、倉吉さんがチーフとなった。

 これは倉吉新主任グループへの布石に違いない。

 このチームに入れば本田グループから出ていけるーーーーと考えたそうだ。



「山岸だってそう思ったでしょ?」


「まあね・・・」



 部外者ながら聞き上手なオギノは、抹茶プリンを食べながら「そんなに今のグループから出たいんだー」と黒木さんに同情の目を向ける。



「今のままじゃ私ホントに浮かばれないの。乾さんに振り回されて、宝来さんに丸々持っていかれて。損な立ち位置なの」


「宝来さんって、あの?」



 宝来エリカさんは、全社的に見てもハーフなモデル体型が目立つ美人なお姉さんで、それだけでなく仕事もすごく出来る人だ。

 会社のHPや冊子なんかには必ず登場する我が社の広告塔的な存在でもある。



「あの人何でも自分でやらなきゃ気が済まない人で、直接指示して直接報告させるし、知らない所で動いてたらメチャクチャ怒るし、それで手柄もぜーんぶ自分のものにしちゃうの。まるでブルドーザーみたいなのよ」



 黒木さんの表現に山岸さんは苦笑しているーーー思い当たる所があるのだろう。

 社内的にも有名人だからか遠藤さんもオギノも興味津々だ。



「オマケに面食いで、乾さんと倉吉さんのどちらかモノにしようと企んでいたらしいのが、倉吉さんにもの凄い美人の恋人がいるって噂が出た途端、乾さんにベッタリになって」


 倉吉に凄い美人の恋人! ーーーーまあ、驚くことも無いか。

 イケメンで有能なら恋人はいて当然だし、もの凄い美女だって選べるんだ・・・。



「だからっ、倉吉さんが主任になるならぜーったいそこのグループに入りたいの、私は! 乾グループも宝来グループもお断りよ!!」



 ダンッとテーブルに叩きつけるようにジョッキを置いた黒木さんの目はかなり坐っていて、私はそろそろ終わりにした方が良いんじゃないかと山岸さんに目を向けると、彼は伝票と紙幣を遠藤さんに渡している所だった。

 「皆一人◯千円ずつで」と既に計算済みだ。

 端数は遠藤さんと負担してくれたらしい。

 有難うございます、というか、タイミングといい用意周到過ぎです。



 帰る方向が同じオギノが黒木さんとタクシーに乗るのを見送って、残りは駅に向かう。

 私は山岸さんと遠藤さんが肩を並べて歩く後ろを二人の背中を眺めながら歩いていた。

 同期とはいえ、二人とこんなに長い時間話したのは初めてだった。

 同じ企画部でも殆ど顔を合わせない山岸さんは勿論、遠藤さんは新人研修が技能実習だった為場所すら違っていて、全く未知の人だったのだ。

 二人共修士卒だから二歳年上な訳で、初めはどこか遠慮していたのもあるが、山岸さんは予想通り話が上手くて聞いていて楽しいし、遠藤さんは無口でひたすらチビチビと焼酎を飲んでいたが、時々頷いて相づちを打つ姿に安心感があった。

 今夜の同期飲みに参加して良かった、山岸さんに感謝だぁ、なんて考えていると、山岸さんが歩調を遅らせて私と並んだ。



「萩野さん今夜は急なお誘いで悪かったね。時間大丈夫?」


「いいえ、時間は大丈夫ですし、色々一課や黒木さんの話を聞けて良かったです。有難うございます」


「荻野さんも研修以来だったな・・・二人は名前も似てて仲良いんだね」


「ハハハ・・・名前の事が原因で仲良くなったんです」



 『萩野』『荻野』ーーーー『のぎへん』のハギノと『けものへん』のオギノだが、初顔合わせで自己紹介した時に予感がして、案の定その後の研修では二人で苦労した。

 会う人毎に萩野と荻野の区別を説明しなければならず、二日目からはカタカナで表記することになり、同期からは今でもそれでメールや社内便が届く。

 お陰で双子みたいに一緒に行動するようになったのだけど。

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