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間隙の恋  作者: 吉祥天天
第一章
16/30

16 同期交流(3)


 山岸さんは同期の中では遠藤さんと仲が良く、飲みに行くことも多いが、そこに黒木さんが飛び入りで参加することが度々あるらしい。



「遠藤はあの通り殆ど喋らないから、結局僕が黒木の相手をすることになって。今日のあの後だからきっと今夜はまくし立てるなって・・・・ごめん、分かってて誘ったんだ」


「ハハ・・・」



 笑うしかなかった。

 山岸さんは黒木さんの愚痴はもう聞き飽きていたのかな。



「・・・一課は本当に凄い人達でしのぎを削っているんですね。私は隣に居ながら殆ど知りませんでした。お話聞けて良かったです」



 何度も聞きたいとは思わないだろうが。

 少しだけ山岸さんに同情した。

 信号が赤になって立ち止まる。



「そうだね・・・特に本田さんの所は熾烈かな。だからこそ皆たたき上げられてビッグPJTをこなしていけるんだろうけど、確かにやり難い部分もあるんだろうね」



 まだまだ人通りの多い交差点をぼんやり眺めている内に信号は青に変わって歩き出す。



「だからって倉吉さんのチームが必ずしもやり易いとは言えないと思うけど。あの人は仕事に厳しいし人を見る目も冷静で、決して甘くないと思う。だからこそ僕は自分がメンバーに選ばれて嬉しかったし、自分が求められている部分も理解できた。萩野さんももっと自信持って良いよ。今日のもポイントや課題が凄く分かりやすかったし、次にどう動こうかとこちらがワクワクしてくる感じ? 西さんも倉吉さんも楽しそうだったよーーーー今度倉吉さんとS駅と小学校見に行くんだろ?」


「う・・・」



 そうなのだ。

 例の案件に関して私は考えうる限りのことを今日までやった。

 そしてそれはある程度満足のいくモノを用意出来たのだったが、同時に机上で出来る事の限界も見えていた。

 もっと欲が出てきたのだ。

 その為には先ずは現地とその周辺を見て調査すべき、と率直に申し述べたのだったが、



『それは俺も感じていた。聞き取り先の候補は上がっているか?』


『はい、S市商工会議所の青年部の部長さんでーーー』



 と、倉吉はトントンと話を進めていき、今週末に二人で調査に赴くことに決まってしまった。

 打ち合わせのあと、冷静になってから後悔したが遅過ぎた。



 この事に考えが及ぶと憂鬱で仕方がない。

 オギノに聞かせたら羨ましがるだろうか。

 代われるものなら代わって欲しい。



「あれも驚いたな。倉吉さんて謎が多いっていうか、一人で何でも出来て済ませてしまうから、結果から察せられるもの凄い仕事量をいつどんな風にこなしているのか分からなくて。出張だって誰かと組んで行ったこと僕の知る限り無いし。秘密主義なのかな。大学時代はそうでも無かったらしいけどーーーーなあ、遠藤?」


「ーーああ、そうだな」



 なんと、遠藤さんは倉吉と同じ大学の一年後輩になるそうだ。

 全く関わりは無かったが、学内では目立つ存在で有名で、そしてとにかくモテていたらしい。

 それが社会人になってからは、プライベートはあまり表に出さず謎めいていて、それでも凄い美女の恋人の噂が囁かれた時にその話を振ってみると、『んー、誰の事だろう?』と逆に聞かれたそうで、山岸さんは「俺も一度くらいああ言ってみたい!」と地団駄を踏んでいた。



 そうこうする内に駅に着いた。

 送って行くよという二人の申し出を時間もまだ早いので丁重にお断りし、上下線に別れた。



 一人で電車に揺られる。

 座席が埋まる程度には乗客がいて、扉の横に立って流れて行く暗い町並みを眺めながら、今の頭の中身を整理する。

 色々あったな、というのが正直な感想で。

 これまでよく知らなかった一課の人達やその仕事振りについて得た情報が多かった。

 そうそう、松澤さんが鬼の何とかだとかも。

 それにーーー。



(ああー、今日も見ちゃったな)



 倉吉の袖口に付いていた白いものーーーこちらに一瞬鋭く視線を向けていたーーーあれは雪が霜か、氷的な物だったのだろう。

 缶コーヒーをあれだけ冷やす空間なら、恐らく。

 彼はあの席を外した何分かの間にそこで『良くないモノ』を『排除』したのだろうか。

 本当に?



 私は倉吉から聞いた『あの』話がどうしても現実のことと思えなかった。

 それを日常の仕事の空間に重ねるなんて。

 まるでゲームや映画の世界が空から降ってくるような荒唐無稽な想像しか出来ない。



 それなのに倉吉は何事も無かったかのように仕事をこなしていた。

 間近で同じ業務に携わった事で、正直その仕事振りに圧倒されたのだ。

 さすがはツートップと言われるだけの人だと‥‥‥。



(今日だけじゃ無いんだ。これまでも、ずっとそうやってーーー)



 見ちゃいけない、見えない方が良い、見えたってろくな事が無いんだからーーーそう思ってきた。

 今だって、あの時あの屋上庭園に目を向けなければ、こんな事にならずに済んだのにと後悔しているのだ。



 ふと思うーーー倉吉の恋人は彼のああいう姿を知っているのだろうか?



(だめだだめだ、見ない見ない。とにかくなるべく関わらないようにしなくちゃ)



 私の知らない凄い美人の隣で手を振り色々な花を出す倉吉の姿を頭から追い出してギュッと目を瞑った。


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