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第14話 勇者税の村を、商人勇者が救いました

宿場町で見かけた徴税の荷車を追い、私たちは街道沿いの村へ入った。


 広場には同じ教会の紋章を掲げた荷車が停まり、数人の役人が村人たちの家から次々と物資を運び出していた。抑えきれないすすり泣きだけが、凍りついたような沈黙の中に聞こえる。


「勇者税の滞納分だ。現金がなければ、規定により現物で徴収する」


 モルガンという名の徴税官が、手元の書類を見下ろしながら冷酷に言い放つ。


 荷車に放り込まれているのは、冬を越すための厚手の毛布、使い込まれた農具、そして鍋や保存食の入った木箱だった。それら一つ一つに、無慈悲な『差押札』がくくりつけられている。


 フィアはクラウスの背後に隠れながら、その光景をじっと見つめていた。


 彼女の視線の先、ぬかるんだ地面の上には、荷車から落ちた片方の子どもの靴が転がっている。何度も修理して履き継がれた、あの小さな靴だった。


「……勇者のための、税金」


 フィアが、かすれるような声で呟いた。


 魔王を倒せば世界が救われ、みんなが幸せになると教え込まれてきた。しかし今、彼女の目の前にあるのは、自分の『使命』という名目が、名も知らぬ家庭の明日の生活を根こそぎ奪い取っている現実だった。


 クラウスが剣の柄に手をかけようとしたが、私は彼を静かに制した。私が魔力で彼らを吹き飛ばせば、教会の反逆者としてこの村にさらなる罰が下るだけだ。暴力は、制度という巨大な略奪を解決しない。


「そこまでにしていただきましょうか、モルガン徴税官」


 人垣を割って進み出たのは、仕立ての良い商人の外套を羽織った女性だった。


 第三代勇者、シルヴィア。彼女はこの数日、村の流通契約の裏側を単独で調査していたのだ。


 シルヴィアは広場の空き樽の上に、分厚い革張りの帳簿をドンと置いた。


「な、なんだお前は。教会の徴税の邪魔をする気か!」


「邪魔ではなく、監査です」


 シルヴィアの声に怒気はない。ただ、恐ろしく冷たく正確な微笑みがあった。


「この村の勇者税の本来の徴収額。それに上乗せされた『違法利息の計算』。さらには、輸送途中で麦が腐ったと偽装した『輸送損失』と、あなたが王都の闇市場へ横流しした『横領分』。……すべて、この二重帳簿に揃っています」


 彼女はページを開き、インクの乾いた数字の列をモルガンの目の前に突きつけた。王国法における流通の規定と、教会規則における徴税の限度額。その双方の矛盾を、彼女は数字という刃で一つ一つ解体していく。


「で、でたらめだ! これは合法的な徴収だ。見ろ、村の代表者たちも署名している!」


 モルガンが束になった契約書を盾に反論する。


「明日の種籾すら奪われる困窮下で、無理やり押させた同意です。それを契約とは呼びません。それに、この数字の偽装は署名とは何の関係もないあなたの個人的な犯罪です」


 モルガンは言葉に詰まり、顔面を蒼白にして後ずさった。


 彼の権限が論理的に崩壊していくのを、村人たちは息を呑んで見守っていた。


 しかしその時、村の長老の一人が、シルヴィアが広げた古い輸送契約書の隅に目を留め、かすれた声を上げた。


「その紙にあるのは……シルヴィア商会の古い印じゃないか。……あんたの商会も昔、俺たちから巻き上げた麦を不当な値段で運んでいた連中だろう!」


 広場の空気が凍りついた。


 モルガンへの怒りが、今度はシルヴィアへと向かう。救済者として現れたはずの彼女が、実はかつて自分たちを搾取していた構造の一部だったという事実。


 教会の内部を調査するための資金と物流網を得るため、シルヴィア自身もまたこの非道な流通に加担し、利益を得ていた時期があるのだ。


 彼女は、自分が彼らに歓迎される資格がないことを誰よりも理解していた。


「調査のためだった」という言い訳は一切口にしなかった。


「ええ。私の商会も、過去にこの村の物流で不当な利益を得ました」


 シルヴィアは懐から、重たい金属製の『倉庫の鍵』を取り出し、帳簿の上に置いた。


「だから、その利益のすべてを、今ここであなた方への返還原資に回します。モルガンが横領しようとした麦も、不当に押収された家財も、すべて私の商会が正規の値段で買い戻し、この村へお返しします」


 モルガンの権限は完全に停止され、彼の手下たちは荷車の差押品を逃げるように広場へ降ろして去っていった。


 しかし、村人たちはすぐには動かなかった。


 彼らの目の前には、自分たちの鍋や毛布と、シルヴィアが手配した『村人が受け取りをためらう小麦袋』が積まれている。外から来た商人の莫大な金で、今度は教会ではなくこの女に村が支配されるのではないかという、当然の警戒だった。


 私は魔力で介入せず、シルヴィアの行為を私の功績として語ることもなかった。これは彼女自身が落とし前をつけるべき問題だ。


「物流の再建は、村の代表者であるあなた方が条件を決めてください」


 シルヴィアは彼らに恩を着せることなく、一歩引いた位置から告げた。


「私は資金と輸送網を提供するだけです。この村の麦を誰に、いくらで売るか。その決定権はすべて村にお返しします」


 長老たちは警戒を解かなかった。シルヴィアが置いた条件書を何度も読み、自分の家の鍋や毛布だけを、一つずつ確かめて引き取った。礼を言う者はいなかった。


 フィアが、泥だらけの片方の靴を拾い上げ、不安そうに立っていた母親の元へそっと置いて戻ってきた。


 彼女の顔には、もう使命という名の幻想はない。自分が背負わされた名前が、どれほどの重さと犠牲の上に成り立っていたのかを、彼女は正確に観察し、理解しようとしていた。


 村はずれの街道で、私たちは再び合流した。


 シルヴィアは分厚い帳簿の一部を切り取り、私とクラウスに示した。


「モルガンの記録と私の商会の過去の動線を繋げて、はっきりしたわ。地方から巻き上げられた勇者税の莫大な資金は、教会の贅沢や私兵の維持だけに使われているわけじゃない」


 彼女の指が、帳簿の不自然な支出項目の終着点をなぞる。


「資金の大部分は、王都地下にある大規模な聖灯設備の維持と拡張へ流れている。帳簿上は保守費だけれど、設備の規模に対して額が大きすぎるわ」


 勇者税の流れの先に、用途の明記されない地下設備がある。今分かるのはそこまでだったが、子どもの選定と同じ会計で動いている以上、切り離して考えることはできなかった。


「それから、もう一つ」


 シルヴィアが帳簿を閉じ、クラウスを見た。


「モルガンを尋問して聞き出したのだけれど。王都へ向かう次の町の『勇者選定会場』で、大人の鍛冶師が、選ばれた子どもの代わりになると申し出て拘束されたそうよ」


 私とクラウスは視線を交わした。


 教会は、聖剣が応じるのは子どもだけだと教えてきた。もしその大人の鍛冶師が聖剣を光らせたのだとすれば、年齢制限を疑う決定的な実例になる。


「急ぎましょう」


 私は差押えの止まった村へ背を向け、街道の先を見据えた。


 私たちは、成人が参加するというその選定会場へ向けて、歩みを早めた。

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