89.なっちゃんの行方
「テストプレイって……一体……」
涙を拭き、ベッドの上で昨日持ってきたUSBメモリを眺めながら、テストプレイという言葉が何を意味しているのかを考える。
結局昨日はUSBメモリを差して、そのまま眠ってしまったらしい。
最近奔走しているからか、睡眠時間が伸びた気がする。
……まぁそんなことは今はどうでもいい。
問題は、『いなくなったなっちゃんが、ゲームのテストプレイ中ということになっている』ということだ。
一般的に、テストプレイは部屋でコントローラーを使ったりして行うもののはず。
けど、なっちゃんはどこにもいないし、だとしたらなっちゃんがテストプレイ中というのも訳が分からない。
なんだろう……何か引っかかってる気がする。
何か、何か見落としてるものはないか……?
ピロンッ
考え事をしていると、携帯の通知音が鳴る。
なっちゃんかと思い光の速さで通知主を確認する。
が、そこにあったのはなっちゃんからのメッセージではなく、『新作ゲーム発売 VRで新たな出会いを』と書かれたニュース記事だった。
なっちゃんではないことに落胆し、ベッドにもたれかかる。
「はぁ……」
ため息を一つ。
一体なっちゃんはどこに行ってしまったんだろう……
ゲームをテストプレイ中のままさぁ……
荒らされた形跡もなかったし、ほんとに神隠しにでもあっちゃったんじゃ……
でも人が消えるだなんてそんな非科学的なこと起こるわけ……
「……ん?」
ふと、頭の中にとんでもない考えが過る。
自分でも『頭がおかしくなったんじゃないか』と思えるくらいぶっ飛んでいる。
「……もしかして……」
私はなっちゃんのUSBメモリを手に取り、まじまじと眺める。
「……この中……なのかな」
そう、私の考えは、『なっちゃんはこのUSBメモリの中にいる』というもの。
……冷静に考えると絶対あり得ないようなものだけど、私の中では妙に納得したような感覚があった。
そこから私は1つの仮説を立てる。
なっちゃんがなぜUSBメモリの中に入ってしまったのか、というものだ。
恐らく、テストプレイ中という文字から、なっちゃんは自分で作ったこのゲームのテストをしたかったんだと思う。
そこで、何らかの事故に巻き込まれて、ゲームの中に……
……やはり、正気の沙汰とは思えない考えだ。
だけど、こう考えてみるとすべて合点がいく。
突然消えたなっちゃん、テストプレイ中という文字、コンセントが抜けているにも関わらず動いていたパソコン……
……非科学的だ。
そんなことが起こりうるはずがない。
……でも、それ以外に何があるって言うんだ。
「探さなきゃ……」
私はUSBメモリを再びパソコンに挿す。
画面に表示される文字は、昨日と一文字も変わらない。
私は震える手を抑えながら、Yesにマウスカーソルを合わせる。
「……行こう、なっちゃんのところに」
私は静かに左クリックを押す。
カチッ
ーーーーーー
「お待たせいたしました。こちらがお二人のギルドカードとペンダントになります」
受付に戻ってすぐ、いつものカウンターのお姉さんに冒険者セットを手渡される。
「詳しい説明は……ナツさんがいるので大丈夫ですよね」
「いやいや、説明はちゃんとしてあげてください」
思わずツッコむ。
職務を放棄しようとするんじゃないよ全く……
「では簡単に……」
そう言って軽く咳ばらいをするお姉さん。
「ギルドカードは、クエストの受注状況や達成数、ステータスやランクが記入されていきます。無くさないよう、注意してください。また、ペンダントはどこの支部で登録したかなど、冒険者としての身分証明書となっています。一部の宿や店で見せると割安なサービスを提供してくれることもあるので、無くさないよう気をつけてください。簡単に言えばどっちも大切なものなので無くさないでねってことです」
そう言いながら、2人にカードとペンダントを渡すお姉さん。
アッシュ君もドロテアちゃんも、興味津々といった様子でギルドカードとペンダントを見つめた後、ハッとしたように懐に大事そうにしまう。
うん、言うまでもないけど可愛い。
2人の動きがシンクロしてるのも可愛いポイント。
はぁぁぁ……癒されるわぁ……
「あ、そういえば皆さん『パーティ登録』されていませんよね?」
受付のお姉さんがそう言うと同時に、辺りの空気が突然張り詰める。
がやがやと話していた周りの人たちは黙り込み、まるで敵を見るようにお互いを牽制しあっているように見える。
突然どうしたんだろうと気になったけど、とりあえずお姉さんの説明を聞くためパーティ登録について聞いてみる。
「『パーティ登録』とは何ですか?」
「あ、そういえばまだ説明していませんでしたね。『パーティ登録』とは、冒険者ギルドで登録している冒険者たちとチームを組んで、依頼などを共同で行うシステムのことです。メリットとしては高難度依頼に挑みやすくなる、別のパーティと協力することができる、などが挙げられますね。デメリットは……強いて言うなら単独行動がしにくくなる、といったところでしょうか」
「ふむ……」
お姉さんの説明を聞いて、私は周りの人たちが妙に殺気立っている理由を察する。
何しろ、新人の若い冒険者、しかもうち2人は女子ときた。
周りを見ると、9割がたは男性であることが分かる。
よって、ここから導き出される結果は……
争奪戦、だろう。
あー……背中側からすっごい圧を感じるー……
なんで男っていつもこうなのかね。
女子のことを何だと思ってるんだ!!




